さて、69年の美しい1959はただいま部品待ちで
久々にゆっくりとした一日を満喫しております。
昨夜、アンプの状態について問い合わせのメールを返信いたしまして、
そのメールを書いているうちに、思うことがあふれにあふれ、
今回、ブログにまとめようと思いました。
(決してそのメールを送った方に対して書いているわけではないです!)
そのため、かなり乱暴な書き方をしておりますが、
気に障るようでしたら、今回の話はスルーされてください。
そんなわけで今回は「アンプの壊れ方とメンテナンスの必要性」についてです。
一度私にアンプ修理などを依頼された方ならわかると思いますが、
執拗に「電解コンデンサを取り換えた方がいい」といいます。
なぜそこまで電解コンデンサを取り換えさせたがるのか。
今回はこの電解コンデンサが主役であり、悪役です。
・電解コンデンサとは?
まず電解コンデンサというものが何なのかを大雑把にご説明。
数あるコンデンサのうちに極性がある厄介なコンデンサの一つが電解コンデンサです。
電解コンデンサは電極や電極間に電解液をしみ込ませたもので、
特徴としては安価でありながら、それなりに耐圧の高いものを作れ、
小型でありながら大容量の電気を溜められる特性があります。
コンデンサは容量が大きくなれば大きくなるほど低い周波数帯を流しやすくし、
電源部では残留リプル(ハムノイズ)を除去してくれる役目や
電圧の安定化、漏れ出た信号を逃がす役目をしています。
・電解コンデンサの寿命
電解コンデンサの寿命というものはほかの部品に比べかなり短いです。
実働させて劣化がないのは精々5年程度、
10年を超えると劣化が始まり、
15年を超えるとほとんどが全うな動作ができなくなり故障に至ります。
意外と知られていませんが、製造メーカーが動作保証をしている時間は、
たったの2000時間です。
どれくらい短いといいますと、真空管の寿命の半分いかないくらいの時間です。
とても短いですよね。
・電解コンデンサの壊れ方
電解コンデンサは内部に電解液を使用しているので、
アンプ内部の熱や、封の隙間からだんだんと液が蒸発していきます。
こうやってだんだん容量が落ちてきます。
酷くなると内部でガスが発生し、ガス圧で液体のまま出てくることもあります。
ここまでくると周囲のパーツやシャーシを腐らせたり、壊したりします。
ガスの発生が加速すると内部のガス圧が逃げ切れず、終いには中身が噴出します。
電極が挿入されているゴム弁(防爆弁)が吹き飛び、
シャーシ内部全体にに電解コンデンサの中身がぶちまけられ、
大半の部品が使い物にならなくなったりします。
中には古いコンデンサには防爆弁がないものもあり、
そうなるとアルミ缶が膨張し、爆発し金属片やガスを周囲に飛散させます。
その他にも電源の投入回数が増えると、誘電体(絶縁体)に穴が開き、
電圧降下したり内部短絡(スパーク)し、周りの部品を破壊させたりします。
つまり簡潔に言いますと、壊れたと自覚するころには
自分が危ない目にあっているか、
アンプ内の他の部品まで壊れるか
のどちらかという訳です。
・電解コンデンサが壊れた時の周囲への悪影響
上でさらっと流すように書いたほかの部品の壊れ方についてです。
どのように周囲に影響を及ぼし、道連れにするかを紹介いたします。
1、整流器(ダイオード)の破壊
電解コンデンサの短絡故障により、ダイオードに定格以上の電流が流れ
ダイオードが破損します。
ダイオードの破損には大きく分けてオープンモードとショートモードがあります。
オープンモードは焼き切れ、電気を流さない状態にあるということです。
ショートモードはその反対で、ダイオードが焼損したときによる炭化や溶着により
導通性をもち、交流電流・直流電流をダダ漏れにさせるという訳です。
こうなりますと電源トランスの負荷が完全になくなり、
電源トランスがショートし、トランス内部が沸騰し焼き付きます。
こうなったらもう電源トランスはお釈迦です。
これの怖いところはもう一つあり、
整流器の直後には突入電流を逃がしたり、リプルを除去する
「平滑コンデンサ」という立ち位置の電解コンデンサがありまして、
平滑コンデンサが壊れても、このコンデンサの後方にHT(+B)ヒューズがついている為、
保護回路が作動せず、知れずのうちに焼き付いてしまうといったこともあります。
じゃあHT(+B)ヒューズを平滑の前につければいいといいますが、
そうすると電源投入時の突入電流が流れ、あっという間にヒューズが飛んでしまい、
保護回路として全く役に立たないのです。
(大半は一次側のヒューズがあるので焼き付くまではなりませんが。
一部の小さいアンプや古いアンプにはついてないこともあります。)
2、出力管のエミッション低下・破損
30W以上のアンプのほとんどは出力段に固定バイアスを採用しており、
この方式は出力管のグリッドに一定の電圧をかけることで、
アイドリング(バイアス)電流を安定させています。
もちろんグリッドに電圧をかけるためにも、バイアス電源(+C)が必要になり、
バイアス電源にも平滑・デカップリングで電解コンデンサを使用しております。
バイアス電源の電解コンデンサが短絡・絶縁不良状態に陥ると
バイアス電圧が浅くなり、出力管のアイドリング電流を制御できなくなり、
膨大な電流が流れ込み、真空管が赤熱します。
真空管が赤熱すると、内部にガスが発生し真空度が低下するので、
特性が一気に落ちてしまい使い物にならなくなります。
その他内部電極が溶融・短絡し、ショートします。
3、電源、出力トランスの焼き付き・断線
2の現象により、膨大な電流が流れ込み、
出力トランスや電源トランスに膨大な電流が流れ込み、
トランス類の定格を超える電流が流れると、
内部のエナメルやワニスの沸騰、コイルの線間ショート・断線したりします。
大半はHT(+B)ヒューズが作動しますが、
トランスの製造時についた線の傷や、線が直角に曲がっていたりします、
そういう部分は湿気により腐食していたり、断面積が低下しているため
部分的に電流許容値が低くなり、断線しやすくなっています。
ちょっとでも電流が流れすぎると、
それが引き金になりトランスが断線することもあります。
・自分が「電解コンデンサを交換」と執拗にうるさい理由
アンプのヒューズが切れる故障の大半はこの電解コンデンサの不具合です。
この電解コンデンサを5年、長くても10年に一度交換してれば、
こういった重篤な症状が出ることはそう滅多にありません。
ビンテージとなると、オリジナルを重視して交換したがる人はいませんが、
下記のお話を是非お目通しください。
現代では電解コンデンサの特性がよくなり
昔に比べ、同スペックで小型化されました。
(昔は電解コンデンサの特性が悪すぎて信号回路には使えないとまで言われてました)
わざわざ古いものにしておく理由も全くないわけです。
その他、古いアンプでは高耐圧の電解コンデンサが用意できず、
電解コンデンサを直列に繋いで耐圧稼いでいることもあります。
古い電解コンデンサは漏れ電流が多く、
漏れ電流が小さいコンデンサには定格以上の電圧がかかることもあります。
昔のアンプは電解コンデンサにアイドル電圧をかけていないので、
非常に危険です。(MarshallのJTM45/100やSuper100など)
あまりにオリジナルに固執したがために、
貴重な電源・出力トランスやお気に入りの真空管を壊してしまったり、
電解コンデンサが爆発してしまうと、シャーシが腐ったり、リーク電流が発生し危険です。
おまけに簡単な洗浄では済まなくなり、場合によってはすべて解体し、
組み立てなおすレストア作業になり、とんでもないお金がかかることもあります。
「動くうちは大丈夫」、「音が出なくなったら修理に出せばいい」
そう思っている方が多いと感じます。
そうやって放っておくだけで、アンプの価値を落とすことになったり、
自分の安全まで脅かしていることに気づいていただけたらと思います。
何より、アンプビルダーの一人として一言いわせていただきますが、
アンプを治す人はシャーシをむき出しにして作業しています。
部品が爆発したりすれば、ビルダーさんも火傷をしたり、
爆発した部品が目に入れば失明することだってあり得るんです。
「壊れたから治すのが仕事だろ。」
と思われるでしょうが、あなたが所有するアンプで怪我をした人がいたとして、
あなたは気分悪くないですか?
なんでもそうです。
壊れてからじゃ治す人にも危険があるんです。
車だって可燃性のものを取り扱いするわけです。
でも車はいいんですよ。
まだ車検という制度があるので。
アンプには定期点検という義務はありません。
各オーナーさんにその判断を委ねられています。
数少ないビルダーさんのためにも、
オーナーさんが危険な目に合わない為にも、
不要な大きい出費を生まない為にも、
常にグッドコンディションでプレイし続けるためにも、
何より、より良い状態で次の世代へと引き継いでいくためにも。
私利私欲・自己満足でビンテージアンプに手を出さないでください。
次の世代へと引き継ぐ義務が
当然、ビンテージオーナーにはあると思います。
歴史的価値があるからビンテージアンプは高いんです。
それをあなたの代でただの鉄クズにしないでください。
ビンテージアンプでなくとも、普通のアンプでも同じことを言えます。
ギターはビビったり、ちょっと演奏に差し支えれば調整に出すのに、
アンプは壊れるまで何もしてあげず、壊れたらオークションでたらいまわし。
売ったお金で所有者は新しいアンプを買う。
あまりにも不憫でかわいそうだと思いませんか?
利用するだけ利用して、何も施さず捨ててることに気づいて下さい
最後に、こちらをご利用下さるオーナーさん方。
いつもいつもご理解いただき大変うれしく思います。
いつまでもその考えを忘れず、周囲に拡散していってください。
何卒、よろしくお願い申し上げます。