2020年 『DISCOVER the 90's”第9弾アーティストとして、”大塚利恵”のサブスク全曲配信』 

を記念して、今回配信になったソニー時代(2nd.Albumまで)の歌詞と解説を、一曲ずつご紹介しています♫

だいぶ間が空いてしまいましたが💦

2nd.Album「東京」の楽曲たちの紹介を始めます。

どうぞお付き合い下さい。


vol.12は「東京」 です。

 

《収録》

4th.Maxi Single「東京」1999.4.29

2nd.Album「東京」2001.2.28



 

ぜひ一度お聞きになってから読んでみてください♫
試聴はコチラ

 

 

東京

 

あなたに出会った街に 桜の花が咲いたよ

錆びたあの陸橋さえ 桃色がかって見えるよ

東京も春だよ

 

湯気が立ちそうなホームの 人ごみめがけ花びら

瞬きをするように 風の姿描くよ

 

ドラマティックに誰かのポケットへ

夢と埃の隙き間をひらひら

 

ズブぬれの東京を ズブぬれの僕が行くよ

雨あがりの白い空に どんな僕が残るんだろう

 

迷路みたいな夜に 耳をすましてごらん

昔見えてたものが 見えなくなるなんて嘘さ

 

ドラマティックにこぼれたため息

昨日と今日の隙き間をひらひら

 

ズブぬれの東京を ズブぬれの僕が行くよ

かっこつけてた頃には 愛してるも言えなかった

 

365日 東京が晴れ渡っても 不安になる日もあるから

会いたくて仕方ないよ

 

あなたに出会った街に 桜の花が咲いたよ

錆びたあの陸橋さえ 桃色がかって見えるよ

 

ねえ 東京に戻っておいでよ

春の真ん中で 笑ってみせてよ Tu lu lu・・・

 

 

作詞作曲:大塚利恵

編曲:鈴木正人 & 大塚利恵

 

Vocal , Piano:大塚利恵

Sound Produce , Bass , Organ他:鈴木正人

Drums:松原“マツキチ”寛

Gt:福原将宜

 

 

上京する前に憧れていた、下北沢を舞台に作った曲です。

私が中学、高校の頃って、下北はとにかくかっこよかった。

ミュージシャン、舞台人の街。古着屋、雑貨屋、おしゃれなカフェが沢山あって。

一人暮らしを始め、下北に住みたかったのだけど、人気だし高くてなかなか物件がなく、2つ先の駅の梅ヶ丘に住んで、よく下北まで散歩していました。

 

「東京」は、98年大学4年でデビューした後だから、22歳の時に作ったのかな。

友達がみんな大学を卒業して、離れ離れに… そんな時期です。

 

私は音大を4年の秋に中退しました。1st.Albumが出た頃です。

単位は取れていたので、あとは卒業制作だけだったのだけど。

作曲科は、学校のスタジオでアルバムを一枚制作するという課題でした。

オーケストラの曲を入れるのが必須で、譜面も全部書かなきゃならなかったので、とても片手間にはできないと思った。

マネージャーさんにレコーディングのスケジュールを調整してもらうにもなかなか難しく、大学ではスタジオのスケジュールを仕切っていた人やクセの強い先生に意地悪されたりして笑。

適当にうまくやればよかったんだろうけど、変にクソ真面目だったので、どうしていいかわからなくなってしまって、

追い込まれた末に、ある日突然「あ、そうだ、辞めよう。」と退学届を出しに行きました。

学生課で驚かれて、「気が変わったら戻っておいで」と言われました。

誰にも相談せず、両親にも申し訳ないけど事後報告。

でも、実はレコード会社に対して、覚悟を示したい気持ちもあった。

私は口が立たないし、そんなやり方しかできなかったのだと思います。

 

 

この曲の季節は、春。

陸橋からホームを見下ろしていると、ひらひら舞い降りた桜の花びらが、誰かのスプリングコートのポケットに入っていくのが見えた。

実話ではないのですが、「東京」はそういうイメージから始まりました。

私の、東京のイメージ。

ふいにドラマティックな何かが起こる。

でも本人はまだそれに気付いていなかったりもする。

 

後に、東京旅行というヴォーカルグループをやっていた時に、ある歌で

「東京には何があるの?」「なんにもないわ」と書いたこともありました。

何でもある東京、あらゆる可能性がある場所だからこそ自分次第なんだよ、という意味で、逆に「なんにもない」と書けたのだと思います。

 

今はどうでしょう?

これから東京は、どんどん空虚になっていく気がする。

コロナで、それが一気に加速した感じがしています。

周りのユニークな人がどんどん移住し始めていて、私も移住を考えている。

時代が大きく変わり、さらに5年10年先に、この歌はどういう風に響くんだろう。

 

 

「東京」はリリース前に、ライブやイベント、ラジオでも披露していました。

でもリリースはなかなか決まらず、ある時急に決まったんです。

MVが無いのはそういう理由もあったかと。

確か、事務所の社長さんがあんまりこの曲にピンときてなかったんです。捨て曲、みたいな。笑

でも、ある日イベントで歌ったのを見て、突然ピンときたみたいで。

事務所の他のアーティストは皆4月にリリースが決まっていて、私だけなかったのだけど、駆け込みギリギリだった。

桜の季節は少し過ぎてしまったけど、4月末に出すことができました。

 

 

このシングルから、ディレクターさんもミュージシャンもガラッと変わりました。

 

LITTLE CREATURESの鈴木正人さんは当時まだ20代。

新ディレクターになった是澤さんが、「鈴木さんってプロデュースとかやってます?」と問い合わせて下さり、

私の記憶が正しければ、これが鈴木さんの初プロデュース作品になりました。

鈴木さんも、ギターの福原さん、ドラムのマツキチさんも今や超大御所だけど、この時は20代。

バンドをやってみたかった私にとっては、ライブもレコーディングも打ち上げも合宿も、とびきり嬉しく楽しい時間でした。

 

1st.Albumまでを聞いて下さっていた方は、全然違うサウンドになって驚かれたかもしれませんね。

 

 

2nd.Album「東京」の歌詞の横の写真は、下北沢の陸橋です。

実際には桜はなかったけれど、ほんとこんなイメージ。

 

ライターの松村雄策さんが、この曲を聞いて、rockin’on誌のご自身のページに私のことを書いて下さったのが驚きだった。

多分、レーベルスタッフのどなたかがCDを送って下さっていたのだと思うけれど、記事のことはスタッフも私も誰も知らなかったんです。

実際は「東京」を聞いたことで遡って1st.Album「Oh Dear」を聞いて下さり、「Oh Dear」のことが書かれています。

rockin’onファンの高校の先輩が、「書かれてるよ!」と興奮気味に連絡をくれて知ったのでした。

洋楽誌に載ってるってどういうこと?と不思議に思ったのだけど、早速本屋に走って、読んで、とても嬉しくて泣きました。

 

rockin’on japanの方では何度か登場させてもらってましたが、悪意があるとしか思えない記事を書かれ笑、なんだかなと思ってたんです。

ネットもまだ普及してなかったから、弁明も何もできないし。

他の雑誌でもそういうことが多々あった。

「自分探し」なんて大嫌いだった言葉を「自分探しっていうか〜」って私が言ったみたいに書かれたり、

「彼氏の嘘を見破るのは直感かなー」と全く言ってもいないことや、

ブリブリな話し方をしているかのようにハートマークをいっぱい入れられたりもしました笑。

 

極端な話、どう書かれてもいいんです。

ただ、「かぎかっこ」の中は変えないで欲しいと思っていた。

言ってないことを言ったかのように書くっていうのは、一体どういう神経なんだろうと。

バカにされてたのかもしれないですけどね。

メディアってこういうものなんだって、がっかりしていました。

これじゃ、聞いてもらいたい人や必要としてくれる人に届くわけがない。なんのためのメディアなんだろうって。

 

だから、松村さんの件は、依頼したわけでもないのに、純粋に聞いて良いと思って書いてもらえることがあるんだ、と衝撃だったんです。必要な人に届くようにという、ライターとしての在り方が伝わってきました。

 

松村さん以外にも、小貫信昭さん、前原雅子さんといった、今までお会いした素敵なライターさんは、アーティストの口から出た言葉は変えないということを徹底しているように思えました。

 

脚色と嘘は違う。

「小さい頃はピアノの先生になりたかった」と書かれた時は卒倒しそうでした笑。

インタビューで完全否定したのにそう書かれたので。

 

今はネットもSNSもあるし、変わってきたでしょうか。

 

そんなわけで、記事を読んですぐ、私は松村さんにお礼の手紙を書きました。

色々思い悩んでいた時だったので、本当に励まされました、と。

そして、溝の口あたりの赤提灯の居酒屋で、初めて一緒に呑みました。

その後、近藤智洋さん、coilの岡本さんといった素敵な方々を紹介していただいたことも感謝しています。

今、松村さんは闘病中とのこと。回復を心からお祈りしています。

 

昔、ブチ切れて断捨離しまくった時に、松村さんの記事だけ切り取って本誌を捨ててしまったんですが、とっても後悔していました。

諦めきれず、最近ヤフオクで見つけて入手。

同じ記事にブライアン・ウィルソンのことが書かれていたのは忘れてた!大好きなアーティストです。

バッドフィンガーのことは、この記事で知ったのかも。マライアキャリーの「Without you」は知ってましたけどね。

 

 

 

「東京」は、メジャーキー(長調)から、サビでマイナーキー(短調)にガラッと転調します。

それがドラマティックなところ。

あと、AメロからBメロへの急激な展開がちょっと変わってるかも。

 

でもそういう音楽的なテクニカルなことって何も考えて作ってないんです。

歌詞がある程度先にあって、それを伝えるためのメロディとコードをひたすら探して行った結果、そうなっています。

 

 

時代の変わり目にあって、東京という神話も揺らいでいる。

そんな今、そしてもっと先に、この歌の「東京」は特別な場所ではなく、ただの一つの居場所としての意味を持つのかもしれない。

その方が実は、この歌の本質が浮かび上がってくるのかも、とも思えてきます。