最7話  
街はクリスマス

銀座1丁目の昭和通りから少し入ったところに、その店はあった。

大阪、福岡、京都など全国10店舗で展開する雪の下は、素材にこだわったかき氷とパンケーキの店である。

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大阪梅田に本店を構える雪の下。東京店は昭和通りのヤマト運輸横の通りを入ったトマトビルの3階にある。
階段を上がってゆくと、すでに行列が出来ていた。ここまで40分ほどの待ち時間という看板がかかっている。
夏子と慎一は顔を見合わせながら、どうする?と目配せしながら、同時にうん!とうなづいていた。


タイミングが良かったのか、帰られるお客様が続き20分ほどで店内へ。
14人ほどが座れるカウンター席があるが、窓側のカウンター席に案内された。
11月下旬ともなると、冷たいかき氷よりも食指はパンケーキに向く。
「京都森半の抹茶の緑 生クリームと餡子で」とエチオピア産のコーヒーセットでお願いをする。
軽井沢での一夜からは、初デートであった。
『元気だった?』
『えぇ。慎一さんは?』
『元気だったよ』
『この間は......。紅葉見物に連れていってくれて、ありがとうございました』
『いいえ、こちらこそ。素敵な時間を過ごせて僕も楽しかった、、、』


なんとなく、ぎごちない会話が続く。
しかし、そのぎこちさも時間という空間がときほぐしていった。


『お母さんに、何か言われなかった?』
『大丈夫。母は出掛けに「きょうはお泊まり?」なんて、言っていたくらいだったから』
『へぇ~。そうなんだ』
『母というより、友達みたいな感覚かしら。なんでもしゃべれるし。
母は私を信頼しているの。よく、言われるわ。
人生を楽しみなさい!けれど、自分の人生は、自分で責任を取りなさい!って。母の持論なの』
『ふ~ん、素敵な母と娘の関係だね』
『そうね~。素敵な母だし、恋のライバルでもあるわ!』
『えっ!?恋のライバル?』
『そう、母は慎一さんが大のお気にいりみたい。わたしが慎一さんにフラれたら、立候補する!って言っているんだもの』
『ははは~。それは光栄だなぁ。けれど、夏ちゃんにフラれることはあっても、フルことはないだろうなぁ~』
『ほんとう?』
『本当さ。いつまでも、君だけを見ている!なんてね。。。ちょっとキザだったね。照れちゃうなぁ。あはは』
『こっちが照れちゃうわ。けれど、あ・り・が・と・う』


雪の下を出たふたりは、
クリスマスの化粧をはじめた銀座の街を時間を惜しむように歩いていく。
昭和通りを歌舞伎座方向に向かい、晴海通りに渡って電源開発の本社ビルの信号を右に入る。いわゆるみゆき通りと呼ばれる通りだ。そのまま有楽町方面にすすみ、左にシャネル、右斜め向かいはドルチェガッバーナがある通りに出る。ブランド通りとも呼ばれるが並木通りだ。


並木通りを左に折れると、時計のオメガ、宝石のダミアーニなど高級ショップが立ち並んでいる。

7丁目に入ると、外壁に趣向を凝らしたルイヴィトン、ロエベとまさにブランドストリートである。右手に資生堂本社ビルが近づき、クリスマスツリーの赤色が鮮やかだ。

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四丁目のミキモトのイルミネーションとは違い、訪れる人も少ないが温かみのあるツリーだった。
  

電通通りを渡るとJRのガードをくぐる。

帝国ホテルを見上げることができた。
タクシー待ちであふれる帝国ホテルを過ぎ、ふたりは日比谷公園に足を向けていた。


日比谷公園の夜は、周りが背の高いビルに囲まれているためか、意外に明るい。
また、公園の隣には国の省庁がひしめきあっているためか、有楽町駅に向かう人々が日比谷公園を通り抜けるために人通りもある。


正面にある大きな噴水を左に見ながら右に折れると、ひときわ明るいライトが目に飛び込んでくる。
都営テニスコートのナイター照明である。


日比谷公園にテニスコートがあるということを知っている人は数少ない。
このテニスコートをぐるっと一周すると、ベンチがわりになる石段がコートに沿って続いている。

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そこはコートを間近に見れる席であり、夜のデートの特等席でもあった。
ふたりはそこに腰をおろすことにした。

コートでは、数組のグループがテニスに興じている。
公園の中をボールを打つ音だけが響いていた。
なんとなく、ひそひそ話しになってしまう。
『慎一さんはテニス、どのくらいやっていたの?』
『そうだなぁ~。高校と大学だから7年ぐらいかな。今は全然やってないけれど』
『じゃぁ、上手なのね~』
『上手というか、学生のテニスってのは体育会系だからね。黙っててもうまくはなるよ。夏ちゃんは?』
『わたしは社会人になってからだもの。スクールに2年ぐらい通ったかしら』
『今はスクールに行ってないの?』
『今は、スクールには行ってないけれど....。テニスサークルには入っているわ』
『へぇ~、テニスサークルか。僕もひさしぶりにテニスラケットを握ってみたいなぁ~』


コートではいつの間にか、後片づけがおこなわれていた。
ここ日比谷公園のテニスコートの営業時間は午後9時で、9時になると片付けをしていようがお構いなしで照明がおとされてしまうのである。
やがて、最後の照明もカツン!という音とともに消えた。

公園にはいつしか夜の静けさが戻っていた。


ふっと、ふたりの言葉がとぎれる。
目と目が合い、どちらともなく、くちびるがちかづいてゆく。
ふたつの影がやがて、ひとつになった。

慎一は夏子のやわらかな唇の感触をたしかめていた。
くちびるがはなれる。
『愛してるよ....』
『わたしも.....愛しているわ』

短かな言葉だが、ふたりの真実の気持ちであった。

こんどは、夏子からくちびるを求めていた。
感情がキスに込められてゆく。
愛は女性を積極的にするものだ。


遠くに、日比谷通りを行き交う車のクラクションが響いていた。


時の過ぎるのは早い。
12月中旬にもなると、
銀座にも冬を告げる北風が吹きはじめていた。

街のディスプレィはクリスマス一色に染められていた。


12月24日のクリスマス・イブもすぐにやってくる。
ふたりのクリスマスには、サンタクロースがどんなプレゼントを、はたして運んでくるのであろうか........。


                                 To be Continued...,