辻村寿三郎さんの思い出 | 地唄舞 吉村ゆかり 粋・はんなり日記

辻村寿三郎さんの思い出


人形作家の辻村寿三郎さんが
お亡くなりになったとのこと、

辻村寿三郎さんといえば
20数年程前に観劇した
「近松心中物語」の
オープニングの梅川の人形が
印象に残っています。

このオープニングが
これから繰り広げられる
ドロドロした哀しい物語の
世界観を見事に表現していて、
素晴らしい舞台への
高揚感に胸が高鳴ったことが
思い出されます。

今は閉館している人形町の
「ジュサブロー館」を訪れたのは
15年前のこと。

ジュサブロー館は、
アトリエも兼ねていて、
 古布が沢山並べられた
夢のように美しい空間でした。

入り口近くのお部屋に
寿三郎さんがいらっしゃり、
自ら出迎えて下さったのには
大変驚きました。

私の着物を
「センスがいい」と誉めて下さり、
お世辞だとわかっていても
とても嬉しくて、 
寿三郎さんの
このお言葉を宝物にし、
今後の励みにしたいと思った
記憶が蘇ります。
 
古い裂地を使用し、
丹念に作られている
人形の衣裳を時間を忘れて
夢中で見て回りました。

花魁や鶴屋南北作品の
登場人物の人形など、
泥臭さがあり、 
とても生々しく、
そういう人形に囲まれた
ギャラリーにいると 
タイムスリップしたような
不思議な感覚に陥りました。

中でも印象に残ったのは、
人形遣いの若衆 
(作品は撮影不可だったため、
当時のHPの画像を
お借りしたものを
保存していました)。




昔、義太夫を聞きに来た客が
退屈のあまり眠ってしまったため、 
客を眠らせないようにと
美しい前髪立ちの若衆を
舞台に出し人形を操らせたところ、
評判が良く、
それが現在の文楽に発展したとか。 

若衆が人形を遣っている
立ち姿がとても美しく、
腰を落とし、
安定した下半身に
背筋をぴんと伸ばした様は 
地唄舞に通じるものが
あると思いました。

寿三郎さんに誉めて頂いた
着物です。



どのような時に
どんな着物を着ていたか
殆ど記憶しているため、
着物を見れば
色々な思い出が蘇って来ます。

今後、袖を通す度に
寿三郎さんを思い出すでしょう。

心よりご冥福をお祈り致します。