前回のあらすじ:カッパ、未練たらたら
Kのことをまた好きになってしまった。その事実に気付いた時に最初に思ったのは、「まずいなこれ…」でした。今では普通に話せるものの、何を隠そう一度振られた身。もう一度告白なんて出来るわけもないし、しつこい奴だとも思われたくもない。失恋のダメージを知っているからこそ、動けない。つまり、最初から詰んでいる状況だと、私は思っていたのです。幼い頃から、勝てない勝負はしない主義、自分の手に届く範囲のもので満足していた私にとって、一度振られた相手に再びアタックするなど、もはや絵空事の次元でした。
だから、私は何も変化することなく、Kとは友達の関係を続けることにしました。今のままでも充分楽しい、わざわざ踏み込んで関係を壊すこともない。そう自分に言い聞かせて、それは、結構上手く言っていたように思います。
しかし、意外なことに、変化したのは私ではなく、Kの方でした。ただ、その変化は決して良いものではありませんでした。
中学生最後の体育祭を控えた七月の半ば。この時期なんて、特に理由がなくたって何かこう、根拠のないワクワク感が胸から溢れ出てくるような季節です。中学最後の夏なんて尚更。事実、私も受験のことは親や担任から色々言われていましたが、得体の知れない高揚感が渦巻いていましたし、それは周りの人たちも同じでした。
ただ一人、Kを除いては。
Kは、体育祭が始まる少し前から、どことなく元気を無くしていたようでした。努めて普通を装っていたようでしたが、近くにいる分、そして、Kのことを好きな分、私はそれを感じずにはいられませんでした。
そして、そのままの状態で、学校は終了し、夏休みに突入しました。Kのことが何となく気がかりではありましたが、最後の夏休みの誘惑もあって、Kに特に声を掛けることもせず、いつしかそのことも忘れ、私は夏休みをほとんど遊びに費やしていました。(受験は夏が勝負?なにそれ美味しいの?って感じでした、本当にダメなやつでした)
そして迎えた二学期。久しぶりのクラスメートとの再会に、そして、Kとの再会に私は心を弾ませていました。弾むようにクラスに駆け込むと、やはりみんなテンションが高く、おー!久しぶりー!元気かぁー!?と言った声が方々で上がっていました。私も、例に漏れずNとハイタッチしたり、近況の報告に花を咲かせたりしていました。と、そこへKも登校してきました。
K「あっ、久しぶりー」
この時点で、私はなんとも言い難い違和感を感じました。Kなのは間違いない、だけど、Kらしくないというか…。K特有のパッと周りが明るくなるような空気感や表情が、まるで見れなかったのです。
カッパ「あ、うん、夏休みどうだった?」
K「うん、楽しかったよ!二学期もよろしくねー」
…やっぱり、なんか違う。と、そこで、ようやく私は夏休みに感じたKの元気のなさを思い出しました。しかし、何と切り出してみたら良いかも分からないし、皆の前で「なんか元気ないじゃん?どうしたの?」なんて、当時の私からすれば、「あなたが好きで気になってますよ」と言ってるのと同義でしたので、モヤモヤと手をこまねいてるだけでした。
さて、どうしたものか。そんな私の悩みを解決する、奇跡の出来事が、この数時間後に起こるとは、私はもちろん知りませんでした。
全校集会が終わり、ホームルームの時間のことです。
担任「それじゃあ、今から席替えをします」
えぇ、そうなんです。厳選なくじ引きの結果、何と私は正真正銘、Kの隣の席になったのです。
K「あっ!今度はお隣さんだね!」
カッパ「いやーまさかねー!」
K「なんか…新鮮味がないね(笑)」
カッパ「そ、そんなことないし!」
K「必死(笑)またよろしくねー」
よろしくーと返事を返しながら、私は心の中で何回ガッツポーズをしたことでしょう。今現在に至るまで、私は神の存在や運命なんて何も信じちゃいませんが、この時の席替えに限っては、もしかしたら神の気まぐれかと思ったくらいです。この席替えがなかったら、私の人生は全く別のものになっていたに違いありません。
席替えが終了し、担任が色々と話をしている間、私はどうやって話を切り出すかをフルスロットルで考えました。そして、たどり着いた結論は至ってシンプル、手紙を書くことでした。ルーズリーフやメモ帳に書いて、小さくたたんで渡すアレです。学生をやっていた人なら誰もが身に覚えがあるのではないでしょうか。
小細工は好きじゃない(出来る技量がない)私は、ストレートに、さらっと手紙を書きました。
「隣の席よろしくー。いきなりなんだけどさ、Kちょっと元気なくない?夏休みの前っくらいから。いや、気のせいだったらそれが一番良いんだけど、なんとなく。急に変なこと聞いてごめん。何かあんなら話聞くよ?」
何回も読み返して誤字脱字を確認し、紙を小さく折ると、もうやったれ!という気持ちで、手紙を静かに隣のKの机にスライドさせました。席が隣だと、手紙のやりとりも、よっぽどへまをしなければ先生にバレることもない、小さくないメリットです。
Kは、机に飛び込んできた手紙に目をやった後、横目でそれを見ている私に視線を移しました。なんか、今になってすごい大それたことをしたんじゃないかとドキドキしていましたが、もう後には引けません。片方の眉をクイッと上げたあと、私は担任の方に目線を戻してさも何事もなかったかのような態度を取りました(当時は、決まったぜと思っていた自分が恥ずかしい)
Kが手紙を開いているのを音だけで確認しながら、私は見た目ぼんやり、心の中では早く早くと、返事を待ちました。
しかし、返事はなかなか来ません。もしかして…勘違い?外した?段々不安が色濃くなってきましたが、かっこつけ野郎の私は、さも気にしてませんポーズを続けていました。ですが、とうとう返事が来ることはなく、ホームルーム終了を告げるチャイムがなってしまいました。
みんなが一斉にカバンを背負い下校を始める中、とうとうしびれを切らしてKを振り返った時でした。
―笑ってる。
Kが、微笑みを浮かべながら、こちらを見ていました。それは、まだ完全じゃないけど、確かにKだったような気がしました。
K「カッパくん、また明日ね。…ありがとう。」
そう言うと、Kは私の机の上に、ポンッと何かを置くと、足早に教室を出て往きました。
あっけにとられながら机の上に目をやると、そこには置いてあったのです。Kからの返事の手紙が。
続く
