「ごめんね。」

ドアの前で待っているハルに謝って、お義母様には会釈で済ます。


「ママ、遅い。」



「入ってもいい?」

「ちゃんとご挨拶してね。」

「うん、ハルちゃん出来るもん。ハルちゃんおねーたんになるんだもん。」

そう言って、ハルが診察室のドアを両手で持って「ウンショ!」と言いながら開ける。



ドアを開けて、半分ぐらい開いたところでシウォナがガッシとドアの上の方を持ってハルが開けるのを手伝っている。

でも、ハルは自力でドアを最後まで開けたと思っている。


そして



「ちぇんちぇい、おはようごじゃいます。」とハルが言って可愛くお辞儀する。


「おお、ハル王女様、おはようございます。今日も上手にご挨拶していただきましたね。」とジュン先生がハルを褒めてくださる。

ジュン先生は、産婦人科がメインだけれど小児科も診ることが出来る。

俺が、男だけれどハルを出産して、そんなことは世界的にみても前例のないことなのでハルの成長が気になる様子で、ハルもしょっちゅうここに来て定期的に検査を受けている。

そのお陰で、ジュン先生を始めチャングム先生やヨジョン看護師長とは顔馴染みだ。


「今日は、王女様やお母様までご一緒でどうされました。」ジュン先生が俺達を見回しながらおっしゃる。



その言葉を渡りに船と言わんばかりにお義母様が「実は、先生、お訊きしたいことがございまして参りましたの。」とジュン先生に詰め寄る。


「そうですか。はい、わかりました。でも、その前にお座りになられませんか?」と言って、シンビ看護師が持って来てくれた丸椅子を俺達に勧めてくれる。



ハルがよじ登る様にして椅子に座る。



全員が座ったのをお義母様が確認して「先生、先ほどのお話しですが……」とここぞばかりに間髪を入れずにジュン先生に話しかける。


「はい、なんでしょうか?お母様。」と優しく答えてくださる。


「私、回りくどいのが苦手なにで単刀直入にいいますね。」


「はい、どうぞ。」


「ちぇんちぇい、ママのお腹の赤ちゃん、男の子?女の子?どっちでちゅか?」とお義母様が言うよりハルが先に言ってしまう


お義母様もやられた~という顔をしているけれど、自分が訊くよりハルが訊いた方がいいと思ったのかそんなに悔しそうな顔はされていない。

むしろ、ハルが訊いてくれた方が良かったという顔をされている。


「あのね、ちぇんちぇい、ハルちゃんおねーたんになるの。女の子だと一緒にお人形さんで遊べるけど、男の子だったら、おにーたんのオモチャ貸してもらわないといけないの?ねぇ、ちぇんちぇい、どっちでちゅか?」ともう一度ハルがどうして訊きたいかという理由も交えて質問している。


「そうですか、王女様も気になりますか?」

「はい、とっても気になりまちゅ。ねぇッ。」と言って俺達を見る。

ハルの言葉に俺達全員が頷く。



「赤ちゃんの性別を生まれるまで知りたくないとおっしゃる方もいらっしゃいますが、王様はお知りになりたいということですね。」とシウォナに確認する。


シウォナが答えるより先に今度はお義母様が「先生、お言葉ですが皆さんお知りになりたいと思っていると思いますけど。」とジュン先生に逆質問をされる。


「まぁ、お母様がおっしゃられるように大体の方は知りたいと思われるます。」ジュン先生のお言葉にお義母様が " そうよ、そうに決まっているわ。"という顔をされる。


「でも、自分達が望む性別じゃなかったら、女の子が欲しいのに男の子だったら、その逆に男の子が欲しいのに女の子だったら、ガッカリという言葉は適切ではありませんが嬉しくないかもしれない。そういうことがあるかもしれないので、知りたくないと思われる方もいらっしゃいます。残念な思いで出産まで過ごすことになった場合、お腹の中の赤ちゃんにもママの気持ちが伝わってしまうんです。"女の子が良かったのに男の子だなんて嫌だな。" っていうのが。自分は望まれて生まれて来るんじゃないって赤ちゃんに伝わってしまうんです。それが、赤ちゃんに大きな負担になってお腹の中での成長に大きくかかわってしまいます。もちろん、母体にも影響はなくはないです。それぐらい出産というものはデリケートなものなんです。それでも、お知りになりたいですか?」



ジュン先生のお言葉がずっしりと心に響く。

確かに、自分達が望んでいるのと逆の性別だったら" エッ~" と思うよな。

そんなこと、些細な問題だと思っているけど、それを真剣にというか本当に男の子が欲しいから男女生み分けをしている人もいるわけで、実際に俺もハルの時は、ヒョクとドンヘのことがあったから女の子を生むために努力した。

そんなに努力したにもかかわらず、逆の結果だったら……

最後は元気だったらどっちでもいいという気持ちになるけど、俺もハルが男の子だって言われたら、" あんなに努力したのに、その努力は無駄だったのか。" と悲しい気持ちになったよな。生まれるまでその間ずっと残念な気持ちを引きずったまま過ごすとなった場合、母体はもちろんお腹の中の赤ちゃんにも悪影響を与えるよな。

軽い気持ちで訊いちゃマズイような気がしてきた。

どうしよう?



「ええ、それでも知りたいです。幸いって言うのもおかしですけれど、ウチにはヒョクとドンヘという男の子が2人、ハルという女の子が1人おりますので、キュヒョンさんのお腹の中にいる双子はどちらでもいいんです。ハルもああは言っておりますけれど、ヒョクとドンヘが幼稚園に行っている時も男の子の赤ちゃんとも一緒に遊んでおりましたから大丈夫です。ハル、弟でもいいわよね。」とお義母様がハルに訊いている。


ハルも「ハルちゃん、弟でも嬉しい。赤ちゃん大好き。」とそれほど妹に拘っていない様子だ。


「わかりました。王様も王妃様もお母様と同じということでよろしいですか?」とシウォナと俺に確認を取りにこられる。


「俺は、元々どっちでもいいんです。元気であれば…」とシウォナが俺に答えたのと同じ答えをジュン先生にしている。


「王妃様も同じですか?」


俺も元気ならどっちでもいいから無言で頷く。



「わかりました。実は前回の検診の時にある程度はわかっていたんですが、まだ確実ではなくて。王妃様の妊娠週が今日で18週目なのでかなり正確にわかるかと思います。ただ、赤ちゃんがこっちを向いてくれるとわかり易いんですが、お尻がこっち向いていると難しいこともあります。取り敢えず診てみましょう。王妃様、申し訳ございませんがあそこのベッドに横になっていただけますか?」と言ってジュン先生が俺にベッドに横になるようにおっしゃられる。



俺は、いつものようにお腹を出してベッドに横になって待っていると「王妃様、エコー検査しますのでジェルを塗りますね。」と言ってシンビが検査の用意をしてくれる。


その間にお義母様はハルに「赤ちゃんに" ハルお姉ちゃんが来ましたよ。"って言ったら赤ちゃんこっち向くかもしれないから。」と言っている。


「うん、ハルちゃんも赤ちゃんに" こんにちは。" したい。」と言っている。


さて、赤ちゃんはこっちを向いてくれるのか。



「それでは、検査を始めますね。」とジュンがおっしゃられる。