何の番組だったかな? 情熱大陸とかトップランナーとか、そういうのだったかな?
とにかく何かの第一線で活躍している人物にスポットライトをあてる、という番組だったと思う。
そこで幻冬舎社長の見城徹が取り上げられていた。
幻冬舎は歴史も浅く大きな出版社でもないのに17年で15作のミリオンヒットをだいているという、その謎に迫るという趣旨で進行され、見城氏は「ダディ
」を例にとり、著者である郷ひろみの信頼をいかにしてかち得たかなど、熱く語っていた。
そのなかで、村上龍が幻冬舎立ち上げに際し親友の見城氏のためにものした最高傑作が、この五分後の世界
などだと紹介された。
単純なわたしはさっそく興味を抱いたのだった。
やたら長い前置きはこのくらいにして、内容について。
ネタバレがあるので、ご注意を。
あらすじはこう
5分のずれで現われた、もうひとつの日本は人口26万に激減していた。国連軍との本土決戦のさ中で、アンダーグラウンド兵士の思いは、こうだ。「人類に生きる目的はない。だが、生きのびなくてはならない」。
うん、なんだかジュブナイルみたいだね!
2ちゃんねるふうに言うと、厨2設定な?
アンダーグラウンドって・・・
おもわず苦笑してしまうが、いやいや。あえてのこの設定なのかもしれないよね!芥川賞作家だし!まあ限りなく透明に近いブルー
読んだけど、そんなにピンとこなかったけど!
読み進めていくにつれ、やっぱり・・・やっぱり、富士見ファンタジー文庫や角川スニーカー文庫によくあるような、最近だと電撃文庫(読んだことないけどイメージ的に)っぽい世界観な気がしてきた。
言ってることがよくわからないと言われそうだけど、自分でもどう言えばいいのかわからない。
もうひとつの世界っていうSFにありがちな設定に、古き良き日本への懐古趣味と現代日本への嫌悪感とがまざってると説明するのがわかりやすいだろうか。
なんかね、著者の主張したいことはすっごくストレートに伝わってくる。
感覚的に訴えたいんだろうなって言うのも・・・肉体的な表現て言うのかな?執拗な描写なんかでわかりやすい。情熱を傾けた、熱い思いをそそいだ、そんなのが伝わってくる。
温度として感じられるほど、著者の思いが込められているっていうのはスゴイ、と思う。
でもね・・・それだけに、荒が目立つのも事実。
作品の世界がきっちり練り込まれていない。主張したいことがはみ出ちゃってるんだよね。それが矛盾になっていて、けっこう目立つ。
アンダーグラウンドが成立する背景が弱すぎる(地下で生活のすべてを賄うって大変だよね)し、傭兵の輸出くらいしか産業がなさそうなのも、それでいて最先端技術を独占しているのも不思議。
肉体的にものすごく優秀でめちゃくちゃ強いっていう以外にウリがなさそうな国民に憧れる非国民たちもよくわからない。準国民になると得られるメリットもなさそうだし、逆にデメリット(ちょっとしたことで強制労働。簡単に銃殺など理不尽)が多すぎ。
ソビエトが崩壊してロシアになってたり朝鮮半島が北朝鮮と韓国に分断されてたりとこっちの事象とリンクしているのも荒が目立つ原因になっている。
ファンタジーなら許されることでもSFだと許されないことってあるよね。それは科学的かどうかだし、ある程度のお約束を守らないとおとぎ話になってしまうってこと。
ドラえもんの世界なら風呂敷から出来たての料理が出てもいいけど、ゲリラ兵がどうとか、眼球が視神経で繋がってる・・・みたいな描写をする作品なら、出てくる料理にも説得力を求めたくなる。
地下で暮らしてるから色白?ゲリラ兵も?
100年以上戦争し続け(そのうち60年はゲリラ戦。地下生活)で、ハンバーグやオムライス食べられるものなの?
医薬品は輸入してるの?国産なの?
と、細かいかもしれないけど、ディテールが気になる。
解説では「文学」を2種類に分けると村上春樹の「ノルウェイの森
」「ねじまき鳥クロニクル
」は「読み物」でこの「五分後の世界
」のような人生をやりなおしたくなるようなものこそが「小説」とまで言っている。ものすごい絶賛ぶりである。
たしかにこの作品は「読み物」じゃないな、とは思った。
それはそうと村上龍の作品を読むとじんせいをやりなおしたくなる解説者はちょっと生き方を間違えているような気がしないでもない。