同時期に、同じような出来事が起きた二人の話。

 

二人とも長年使っていたクランク型のパワーメーターがあった。

ある日、ファームウェアのアップデート後から表示される数値が以前より低くなった。

 

一人はこう言った。

「なんか低く出るようになったな。でもまあ、これが今の自分か。」

 

もう一人はこう言った。

「おかしい。こんなはずがない。絶対に壊れている。」

 

その人は店に持ち込み、メーカーにも送った。

結果は異常なし。

 

最初の人は、そのまま練習を続けた。

 

今までより20W低い数字が表示されても、

その数字を基準にインターバルを組み直した。

 

「じゃあ、この数値で積み上げていけばいい」

 

と、ただそれだけ。

 

最初は少し悔しかったらしい。

でも数週間後には、こう言っていた。

 

「前よりきついけど、調子は悪くない。

 レースで動けてるから、まあいいか。」

 

彼は

数字ではなく、走りを見ていた。

 

 

 

もう一人は、練習が止まった。

 

毎回ライドのあとにデータを見て、

「こんな数値はおかしい」と言い続けた。

 

やがてクランクを交換した。

別のメーカーのものに。

次はハブ型も検討し始めた。

その間、練習の内容はどんどん軽くなっていった。

 

彼は

走りではなく、数字を見ていた。

 

 

 

数ヶ月後、レースがあった。

 

最初の人は、特別な数値は出ていなかった。

自己ベストでもなかった。

でも、最後まで前に残っていた。

 

もう一人は、スタート前にこう言っていた。

 

「今日は調子いい。数値も戻ってきた。」

 

でも、途中で遅れていった。

 

 

 

パワーメーターは便利な道具だ。

トレーニングを効率化してくれる。

自分の状態を客観的に教えてくれる。

 

でも、それはあくまで

 

道具

 

だ。

 

数字は嘘をつかない。

けれど、数字がすべてでもない。

 

大事なのは

その数字をどう使うか。

 

 

 

もし数値が下がったら。

 

それを理由に止まるのか。

それを基準に進むのか。

 

その違いは小さく見えるけど、

半年後には大きな差になる。

 

結局のところ、

 

強くなる人は、環境に文句を言わない。

与えられた条件の中で、淡々と積み上げる。

 

それだけだと思う。