晩冬の季語「寒卵」とその実感の巻 | ペーパー社会福祉士のうたかた日記

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社会福祉士資格をとるまでと、とったあと+α。浮世のつれづれ、吹く風まかせの日々。

俳句について、自分でひねる気はさらさらないけれども、他の方の作品を「すごいなあ」と見たり聞いたりするのは大好きだ。

 

プレバトの夏井先生の添削にいちいち唸っている。どうしたらこんなこと--17音で風景と心象をすべて言い切る--ができるんだか、わしにはわからん。


つくるのは皆目わからんが、幸いなことに、詩歌や絵画には“鑑賞”というジャンルがあるわけで、歳時記や俳句関連サイトをあちこちめぐっては、「すごいなあ」「うまいなあ」とやって歩いている。

 

で、俳句の聖地松山市が主催しているサイト、「俳句ポスト365」にて、こんな季語で作品を募集していた。

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寒卵(晩冬・人事)【傍題:寒玉子】

寒中に鶏が産んだ卵。この時期の卵は特に滋養に富み、味も良く、さらに日持ちもするとされている。 生命力を感じさせる季語である。

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寒卵

なんという美しい季語なんだ。

 

年が明けても相も変わらずわが国は、隙あらば増税しようとする奴、海外から強盗殺人の指示を出す奴受ける奴、回転寿司でバカをやる奴、もう日本なんて滅びればいいのにと思っていた矢先、この季語のきらめきに心を打たれた。

 

「鳥の卵」は春の季語だが、わざわざ冬限定の「寒卵」。歳時記をみると、白米や蕎麦に黄身を落とす、という作品が目立つ。プラスその椀を仏壇に供えるとか、滋養のために卵黄を啜るとか、夫や妻と分かち合うとか、季語の意図する通り、日常生活の生老病死を語る作品が多い。

 

卵とわしには縁がある。

糖質制限下にあるわしは、主食が卵といってもいいくらい、春夏秋冬、卵で一日分の栄養を補給している。毎日毎晩、無心で卵を割っているからか、ことさら「冬の卵」を取り上げる感覚がよくわかる。

 

冬の朝、台所も卵も芯から冷え切っていて、割ると殻の破片が乾いた指先に刺さりそうな鋭さがある。

 

そして、卵の殻は意外と硬い。こんとひと当てでは割れず、こんこんと二当てして割れるときもある。卵イッコにも、こん中に生命があるんじゃけんね、そんなヤワにゃあ割れんけんね、という気概を感じたりもする。

 

冬の卵には詩があるのだ。

 

わしはこないだ、とある場でびっくりするほど理不尽な仕打ちを受けた。思考も感情も停止してあられもなく立ちすくむ思いをした。

 

記憶も吹っ飛ぶほど傷ついて帰ってきて、まんじりともせず明け方に湯を沸かし、卵を出して、手にして、そこでやっと涙が出た。寝起きのぬくい手のひらにひっそりなじむ冷たい白い卵。と、唐突に、頭の隅に、耳の奥に、「私は正しい」という音が転がり出てきた。

 

この「正しい」とは、正義とか礼節とかそういう高次元のものじゃなくて、かといって自分を奮い立たせるというオキレイで客観的なものでもなくて、ただただ体感として、いわば本能的に、「わしが正しい」という確信が沸き上がってきたんである。

 

「わしは正しい」の続きはない。だからどうしたと言われれば、「わしが正しいんだ」と尻尾から頭にリフレインされるだけである。誰が何と言おうと、世界中がなんと言おうと、私は正しい。相手は間違ってる。動物が小動物を食い、小動物が昆虫や草を食う、そのとき「自分のこの行為は正しい」などと思っていないように、わしの正しさは「わしが正しいと思うから」でいいんである。

 

手の中に卵を包み込んで、凍えるような外気を呼び込む換気扇の下で、わしは声を殺して泣いた。悔しさや怒りとともに、「誰もわかってくれなくても、わしのことはわしがいちばんよく知っている」と思った。

 

泣きながら計量カップに卵を割り入れて、溶いて、フライパンに移すとき、いつもより執拗に、こいつぁ一滴も余さず焼いてやろうとカップを逆さにし、スプーンでまんべんなく掻き出した。掻かれた卵はバターの中に糸を引いて落ちていった。「わしは正しい」。だからがんばろう、と思った。

 

「寒卵」という季語に一連のこれを思い出したけど、まあ17音でどうしろと笑 似たような作品がないか探しまわったけど、既存の作ではちょっと見あたらなかった。

 

じ、自分でつくるしか…

 

つくるとなったら想像を絶する険しい道だろうなと思うから、鑑賞!鑑賞だけで!と自分に言い聞かせている。ただし、これまでの人生で、「見るだけ!ちょっと見るだけだから!」は決して「見るだけ!」に終わったためしがない。取り返しがつかないことになるとわかっていても、わしは身のほど知らずにもやりだすんだろうか。。

 

節分の夜、皆さまお身体たいせつに。

 

ricorico1214