改正介護保険の概要5-特養個室vs.多床室 | ペーパー社会福祉士のうたかた日記

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このところ、デイサービス施設の方が、
改正介護保険の概要3-通所介護の二極化2012-02-14 12:05:23
から来て、拙文にお目通しくださり、
また、わざわざペタを残してくださって、
ほんとにお忙しい中、ありがとうございます。
とても嬉しく、毎日の励みになります。

***
さて、
特別養護老人ホーム介護報酬に関して、
個室と多床室と、どっちも減額だったのだが、
多床室の方がより大幅な減額(-3%)。

特養は、介護職員処遇改善加算が2.5%つくから、
という理屈らしいが、それだけではなくて、
介護給付費分科会で繰り広げられたのは、
個室vs.多床室の、理想理念やケアの質の対立だった。

個室派は人権問題を掲げ、
多床室擁護派は科学的介護で対抗、という、
抽象論の極みみたいなことで終始していたみたいで、

議事録を読むと、個室派推奨委員は、
合理的な理由なんか1つもないのに、
えらいヒステリックにアツくなっている。

その裏の理由の一つには、世間にはわかりにくい、
特養の「個室」概念の長年の攻防戦があったんじゃないか。

特養では2003年にユニット型ケアが制度化された。
ユニットケアとは、居室3-4部屋の10名程度を、
小グループ(ユニット)でケアすることで、

居室と別に、利用者の共有スペースを設けて、
利用者同士の関係性もゆるやかに保ち、かつ、
介護者の視界も広げてケアしましょう、というもの。

終日、多床室に利用者を寝かせきり、
時間になったら一斉に食堂や浴室に運び、
すべて順番に機械作業、
という、特養のケアスタイルを一新させる期待があり、

これをふまえて、居室の種類は4種類になった。
当時の保険点数順位でいうと、高い順に、
ユニット型個室(ユニットケアあり個室)※
ユニット型準個室(ユニットケアあり個室に準ずる)※
多床室(ユニットケアなし多床室)
従来型個室(ユニットケアなし個室)

※壁が天井まである場合はユニット型個室、
壁が天井と離れている場合はユニット型準個室。

だけど、
従来の施設はそういう目的で設計されてはいないから、
そのためにわざわざ改修・改装すれば、
莫大な費用がかかってしまう。

そのための苦肉の策として(あるいは工夫として)、
多床室をカーテンや衝立でパーテーションし、
廊下や空きスペースをリビングに見立てて、
テレビやテーブルやなんかを設置。

よし、これでとりあえずユニット型準個室でござい!
と言い張る施設が続出し、
2005年の改定で、ユニット型報酬は、大幅減額になった。

今回の改正でも、昨年12月、厚労省は、
言っとくけど可動式壁はユニットと認めねーかんな、と、
わざわざ釘を刺すようなお触れを出している。

厚労省的には、おまーらがいう介護の理想とやらに、
ユニットってかっこよく配慮してやったんだぜ、
というのを、いわば抜け道をつくられたようで、
飼い犬に手を噛まれたかに感じたんだろう。

この委員がユニットを導入したわけではないけど、
厚労省側はたぶんそのルサンチマンで、
いっぱいいっぱいなんだと思う。

そもそも、介護保険制度の根幹、要介護認定は、
介護に要する「時間」で決まっている。
当然、ケアに時間がかかる方が、より高い報酬である。

だから、特養での介護報酬を検討するなら、
個室利用者のケアにかかる「時間」と、
多床室利用者のケアにかかる「時間」とで、
本来議論すべきところだし、データを示すべきなのに、

個室だと人権が守られるから高額報酬、
多床室だと雑なケアしかしないから減額ね、なんて、
単なる印象か伝聞に過ぎないじゃないか。
おまえは実際に特養でケアされたことあんのか?

もう少しいうと、個室と人権は直結してるのか?
じゃあ施設内の高齢者虐待の問題はどうなるんだ。
監視カメラ?録音機器?
その方がよほど人権問題じゃないか。

だいたい、人権だなんて、そんなこと言い出したら、
今回の改正は、重大な人権蹂躙の火種を、
これでもかというくらい、抱え込んでいる。

認知症とがん療養中のご夫婦や、
脊柱管狭窄症の妻が夫を介護していることや、
心筋梗塞の既往症がある独居認知症者や、

そういう人たちの予防訪問介護を、
いともあっさり切り捨てることに関しても、
同じ俎上に乗せなければならなくなる。

要介護を時間で測って決めることに対して、
異論がなかったかというと、そんなことはない。
介護保険制度が検討、制度化される2000年以前から、
要介護度と介護の質の議論は、果てしなくあったわけで、


今回の改正は、財源確保と抑制の目的以外にない。
未来の介護をどうするかとかではなく、
オカネがない中でどうするか、なのだ。

お上にこれを言われちゃ、シモジモの対抗策は、
理想の火は消さず、個々の現場で倫理の姿勢を示すこと。
これがとれ得る中では、よりよい対処だろうと思っている。

だけど、こういう経緯で決まる減額があると、
どこに向かってこの状況を腹に収めねばならないのか、
いったいこの委員会は、どこに行こうとしてたのか、
ほんとによくわからん。

↓↓2月25日に開催された日本介護福祉士会のシンポジウム、
「これで良いのか日本の介護」福祉人材と介護報酬そしてあるべき介護の姿
メンバーが超微妙で、ほんと、これでいいのか?