「沖縄の冬って、なんにもないんだよ…」
N子はそう呟いて、シンガポールスリングが注がれたオレンジ色のロンググラスを手に取った。
N子とREIが出会ったのは、梅雨が明けた頃だった。
シナモン系の柔らかいロングヘアーにウェーブかかかっている優しそうな子を見つけた。
夏色カットソーにコクーンスカートという開放感たっぷりのコーディネートだ。
私は、彼女に声をかけた。
N子は最初は戸惑っていたが、徐々に歩くスピードが遅くなりついに止まってしまった。
かなり人通りが激しく狭い通路だ。
彼女が外野からの視線を浴びないように、私は二人の立ち位置を修正した。
私の問いに少し笑みを浮かべ、お互いにフィーリングを感じる。
出会いというものは合縁奇縁だから、気の合う女性を見つける旅をしてると思えばいいのだ。
この日はお互いに予定まで小一時間あったので、軽くお酒を飲んで別れた。
(数日後)
待ち合わせ場所に到着したN子は、甘い香水の匂いが漂う。
お店に入ると、すでに何組かの客で賑わっていた。
「あたし、最初ビール戴いてイイ?」
安室ちゃん世代のN子は酒が強そうだ。
彼女が酒乱ではないことを祈ろう。
アポの目的とは?
それは、女の子の心底から話を聞いてあげること。
彼女が日常の生活のなかで求めているものは何なのだろう?
快感や刺激が欲しいのか?
それとも現状維持のままを望んでいるのか?
このストレス社会で、なにかしら畏れや不安を抱えている彼女に、果たして自分は何をしてあげることが出来るのかを考えなければいけない。
give-and-takeという言葉があります。
この世は殆どの事柄がgiveとtakeで成り立っています。
例えば、我々は仕事という労働の代償に給料という収入があるから生活していけます。
しかし、恋愛のステージに於いては決して見返りを求めてはいけません。
特にオヤジがやりがちなのが、アポで高級店で食事を奢った見返りに寝技に持ち込もうという甘い考えです。
本当に、コレをやっちゃって失敗している方が多いんですね。
恋愛でのgiveは無償で与えるのが基本です。
takeを期待しないのです。
こちら側から女の子へは、give… give… give…って与えっぱなし。
そういう態度でいると、最後にこちらが少しだけ手を引いてあげただけで、女性は身も心も許してくれるのです。
N子は十年前に、旅で訪れた沖縄の海に魅了されていた。
スキューバダイビングで青い海に潜ると、いままで見たことがない色鮮やかな熱帯魚たちが泳ぐ姿をみて心が打たれたのだという。
名古屋と沖縄の間を往き来し、やがてマリーンショップの男性と恋におちて同棲を始めた。
しかし、彼とは永くは続かなかった。
二人の間に見えない溝ができたのだと。
N子 「あたしね、沖縄の海を愛してただけで、彼を愛してなかったのかもしれない。それで、最近名古屋に帰ってきたの。」
そういって、唇をかみしめていた。
私は彼女にお店を出ることを告げ、一旦化粧室に行くように促した。
お店を出ると段差がある。
私は彼女が転ばないように手を差し延べると、N子は手を握り返してくれた。
気がつくと、彼女の身体は熱帯魚のように、くねりながらベッドの上で泳いでいた。
ゆっくりと、ゆっくりとした二人だけの時間が流れた。
そして、夜が明けた。
最後に彼女は、
「REI、今日は有り難う。貴方にいわれたように、これからの自分の人生を楽しみながら生きていくね。あと、沖縄の海は絶対一度潜ってみた方がイイよ!」
そういって私鉄の改札を消えて行きました。
彼女との出逢いをきっかけに、また「死ぬまでにやりたいことリスト」が、ひとつ増えてしまいましたw