『トミー (原題:Tommy) 』

リリース 1969年5月23日

録音 1968年9月19日 – 1969年3月7日、

プロデュース キット・ランバート

【収録曲】

SIDE A

1.序曲 - Overture

2.イッツ・ア・ボーイ - It's a Boy!

3.1921 - 1921

4.すてきな旅行 - Amazing Journey

5.スパークス - Sparks

6.光を与えて - Eyesight to the Blind(The Hawker) (Sonny Boy Williamson II)

SIDE B

7.クリスマス - Christmas

8.従兄弟のケヴィン

 - Cousin Kevin (John Entwistle)

8.アシッド・クイーン - The Acid Queen

9.アンダーチュア - Underture

SIDE C

1.大丈夫かい - Do You Think It's Alright?

2.フィドル・アバウト - Fiddle About (Entwistle)

3.ピンボールの魔術師 - Pinball Wizard

4.ドクター - There's a Doctor

5.ミラー・ボーイ - Go to the Mirror!

6.トミー、聞こえるかい

 - Tommy Can You Hear Me?

7.鏡をこわせ - Smash the Mirror

8.センセイション - Sensation

D面

9.奇跡の治療 - Miracle Cure

10.サリー・シンプソン - Sally Simpson

11.僕は自由だ - I'm Free

12.歓迎 - Welcome

13.トミーズ・ホリデイ・キャンプ

 - Tommy's Holiday Camp (Kieth Moon)

14.俺達はしないよ - We're Not Gonna Take It

【パーソネル】

ピート・タウンゼント - ギター キーボード ボーカル

ロジャー・ダルトリー - リードボーカル

ジョン・エントウィッスル - ベース ボーカル

キース・ムーン - ドラムス 

【作品概要】

ザ・フーの代表作であり、ロック・ミュージックとオペラを融合させ、ロックオペラというジャンルを確立したアルバムである。さらに、ザ・フーを英国のポップなヒットを飛ばすロックバンドから、世界を席巻するアルバム・アーティストへと飛躍させ、ロックミュージックに金字塔を打ち立てた作品である。

また作品が発表されて以来、オーケストラとの共演、オールスター・キャストの映画、ブロードウェイ・ミュージカル化から再結成ライブでの演奏等、様々なメディアで再現し続けられている。

三重苦の少年トミーを主人公にした物語は、ピート・タウンゼント自身の体験を含む、孤独や苦悩を反映させたスピリチュアルなもので、ピートが傾倒していたインド人導師ミハー・ババの影響が顕著に現れている。ババの教えを念頭に、物質主義から精神主義へと移りつつある時代を背景とし、ピートの言葉を借りれば、「サイケ後の時代の精神的彷徨」であり、大音響をかき鳴らし楽器を破壊するラウドなライブ・パフォーマンスや酒やドラッグによるトリップや現実逃避から、真実を求めるつつあったピートの葛藤から生まれた作品である。

作品の構想は1966年からでき始め、ピートはアイディアをノートに書き溜めていった。作品の大まかなテーマが出来上がったのは1968年の2月頃で、フーの面々がスタジオに集まったのは68年9月19日のことだった。ピートが作ったデモテープをもとにレコーディングが始まるが、アルバムのコンセプトは定まっておらず、レコーディングとデモ作りが並行して行われていた。

当時のフーは、ライブ・パフォーマンスによる楽器破壊、さらに前作のセールスが期待したほどに伸びず、経済的に困窮していた。ロジャーによれば、アルバムが完成するかも危うい状態だっという。その為メンバーは、ウィークデイにレコーディングを行い、週末には経費を稼ぐ為にライブ・パフォーマンスを行なっていた。ただし、バンド結成以来、メンバー間の喧嘩が絶えず、常に脱退や解散の危機をはらんでいたフーだが、やっと結束が高まり一枚岩になりつつあった。

クラシックの著名な作曲家を父に持つマネージャーのキット・ランバートは、よりオペラらしい荘厳さや広がりを表現する為、オーケストラの導入を提案したが、メンバーは拒否。あくまで、ライブ・パフォーマンスでの再現に拘り、すべての楽器をメンバーが演奏している。この辺りは早々とゲスト・ミュージシャンを招き、あらゆる可能性を試し、ライブを止めてしまったビートルズとは対照的である。

アルバムの完成は、結局半年以上延期され、1969年3月7日にレコーディングは終了した。製作費は36000ポンドにおよび、アルバムが失敗すれば、バンドの解散は必至のことであった。

しかし、5月27日にリリースされた『トミー』は、全英二位となり、全米では遂に一位を記録し、ザ・フーはトップバンドへとのし上がった。

アルバム『トミー』は、幼年期に親のもとを離れ孤独な夏休みを送ったピートの体験からテーマが生まれている。物語の主人公が幼児期に負った心の傷、ごく身近なところにある虐待、そこから負ってしまう障がいとストーリーが進んでいくが、ドラッグ依存やカリスマに祭り上げられた教祖などは、ポップスターとなったピートの体験が反映したものであろう。そういった逃避と高慢、葛藤と苦悩が同世代や後続の若者に共感を呼んだだけでなく、時代の変換を映し出した画期的な作品として、強い影響力を持ち続けているのだ。

【楽曲解説】

「序曲」

フレンチホーンは、ジョンによる演奏。筆者が劇場的と名付けたキースのドラムス。教会のオルガンの様なピートのキーボード。ギターのカッティングから、コーラスパートへ。四人編成のロックバンドとは思えないスケール感だ。サウンドは展開し、多重録音されたギターからボーカルへ。

語りはおもにピートが担当するが、ウォーカー大佐が戦死したことが歌われる。

「イッツ・ア・ボーイ」

ウォーカー婦人が男児を産んだことが歌われる。

「1921」

ピートのボーカルが続く。ウォーカー大佐は生還するも、別の男と恋に落ちていた夫人の情事を目撃し、情夫を殺害する。一連を目撃したトミーは、トラウマから視覚・聴覚・発話障害を負ってしまう。

歌詞は抽象的で、何が歌われているのか捉えるのは難しい。

「すてきな旅行」

銀色のガウンを着て金色のあご髭を生やした長身の男が、すてきな旅行を誘いかける。

「スパークス」

トミーが垣間見た精神世界が表されるインストゥルメント。アコースティックギターのストロークがハープの様に奏でられ、タイトなベースが響く。サウンドがダイナミックに展開し、それが静まり曲は終わる。

「光を与えて」

両親はトミーを治療するためにカルト教団の教会を訪れる。歌詞では、トミーを癒すことの出来る女性が歌われている。ロジャーがトミーの心情を叫ぶ様に歌う。

「クリスマス」

子供達が楽しみにしているクリスマス。両親は、それを理解できないばかりか、神の存在も祈ることも知らないトミーの境遇に嘆き悲しむ。

さらに展開し、「トミー、聞こえるかい?」と語りかける両親。トミーは、初めて「僕を見て、僕を感じて」と返す。

ダイナミズムに溢れたロックにユニークなコーラス。一曲の中にまったく別のパートを組み合わせる。こういった硬派なところもフーらしい。

「従兄弟のケヴィン」

外出する両親は従兄弟のケヴィンにトミーの子守を託す。いじめっ子のケヴィンは抵抗できないトミーに虐待を加える。

アルバムのコンセプトは、ピートがほぼ一人で完成させており、ピートが書いた曲のデモからレコーディングが始まっているので、ほとんどの曲はピートによるもの。しかし、レコーディングを推し進めるうちに出てきた、虐待と小児愛に関するニ曲だけはジョンに作曲を譲っている。この曲もそのうちの一つで、ジョンのボーカルにはコーラスが合わせられている。パーカッションがメインの演奏で、静かな立ち上がりから、徐々に展開していき、不協和音の様に響く。暗く深刻なテーマの曲を、こういった綺麗なメロディーで歌うのはさすがである。

「アシッド・クィーン」

トミーの両親は再度治療を試み、アシッド・クイーンを名乗るジプシーの元へトミーを連れて行く。彼女は幻覚性薬物を使ってトミーをドラッグ漬けにしてしまう。

キャッチーなサビの歌詞とメロディー。劇場的なキースのドラムス。彼のドラミングがあればこそ、『トミー』のサウンドは完成したのだと思う。

「アンダーチュア」

トミーの見た幻覚の世界へなだれ込む、やや長尺なインストゥルメント。劇場的ドラムスとアコースティックギターのストローク、タイトかつ攻撃的なベース。それだけの楽器をメインに、これだけの世界を表してしまうことには恐れ入る。

「大丈夫かい」

両親は、今度は叔父のアーニーにトミーの子守を託す。

アーニーと二人っきりにして大丈夫かい?とさりげなく問題を突くように、あくまで軽く歌われる。

「フィドル・アバウト」

小児性愛者のアーニーは抵抗できないトミーに性的虐待を加える。

ジョンの曲で、この曲もコーラスがきわめてユニーク。フーは、同世代のビートルズやストーンズに比べ、黒人音楽の影響が少ないと言われているが、こういった白人音楽の影響下としか言えない感覚をジョンも持ち合わせているのだ。

「ピンボールの魔術師」

トミーは突如ピンボールの才能を開花させる。彼は大会でチャンピオンを負かし、一躍“ピンボールの魔術師”と呼ばれるスターになる。人々は、三重苦の青年のプレイに驚き奇蹟を賞賛する。

アルバムのハイライトであり、テーマ曲とも言える曲。歌詞も、ピンボールの魔術師となったトミーを賛嘆するシンプルなものだ。ただ、そういった曲がアナログ盤C面の三曲目に登場するというのが、アルバムの重さを物語っている。四人のプレイの記述は避けるが、ダイナミックかつテクニカルなのに、余計な音を鳴らさず、次々と展開していく様は、フーにしか出来ないものである。

「ドクター」

両親はトミーを治療できるという医師を見つけ連れていくいく。

コーラスとパーカッション中心の小品だが、やはり黒人音楽よりもクラシックの影響を感じさせる。

「ミラー・ボーイ」

医師は病因を解明を試みたが、トミーの肉体は健常で病因は精神性のものと結論する。トミーの心は再び「僕を見て、僕を感じて」と語りかける。医師は、彼が心を閉ざした原因を鏡と象徴し、鏡と向き合えと指示する。

医師をロジャーがトミーをピートが歌うが、さらに曲は展開し、音楽を希望の象徴とするアルバム最大のテーマが歌われる。

「トミー、聞こえるかい」

コーラスやアコースティックギターも軽快なポップソングで、ベースも歌っている。母はトミーに何度も「聞こえるかい?」と呼びかける。

「鏡をこわせ」

母の呼びかけに応えず、鏡を見つめ続けるトミーに、業を煮やした母親は鏡を壊してしまう。

「センセイション」

三重苦から解放され、「オレは、センセイションだ」と舞い上がるトミー。

トミーの心情をピートが歌う。

「奇蹟の治療」

三重苦を克服したというニュースは、一斉に世間に広まり、導師のような立場に祭り上げられたトミー。エクストラとは、号外のことだろうか。歌詞の一部は、後のジョージハリスンのソロアルバムのタイトルになっている。

「サリー・シンプソン」

トミーの熱心な信者であるサリー・シンプソン。彼女は聖職者の娘だったが、家出してトミーの説教を聞きにやってくる。トミーに触れようと手を伸ばし、警備員によりステージから投げ出され顔に傷を負ってしまう。

悲劇的なエピソードだが、ユニゾンによるコーラス、ギターのストロークやピアノのカウンターなど、演奏は軽やかそのもの。サリーは、ロック・ミュージシャンの熱狂的なファンの象徴だろう。

「僕は自由だ」

自由を謳歌し、さらに民衆を教化しようとするトミー。

フーのスタンダードとなった一曲。ここでも和音やリフを奏でるギターとピアノ、さらにコーラスがサウンドを支える。フィルイン連続のドラムスも見事だ。さりげない、ガットギターのソロも聴きもの。

「歓迎」

トミーは自宅を教会として開放し、より多くの信者へ呼びかける。

「トミーズ・ホリデイ・キャンプ」

自宅が一杯になり、トミーは誰でも参加できるホリデイ・キャンプを開設する。運営を託されたアーニーは、キャンプの趣旨を無視して私腹を肥やし始める。

トミーの人生に暗雲が立ち込めるが,それをピートがコミカルに歌う。

「俺達はしないよ」

トミーは信者達を歓迎し、飲酒や喫煙を廃し、目と口と耳をふさいた状態でピンボールをプレイするよう命じる。しかし、反発した信者達は、「もう付いていけない、こんなことはもうご免だ」と反旗を翻しキャンプは崩壊する。何もかも失ったトミー。彼には、内なる声「僕を見て、僕を感じて」が聞こえる。そして、「音楽に目覚めた、熱情とともに山々を登ろう」と希望に溢れたテーマが再度登場し、トミーは立ち上がりふたたび歩き始め、物語は終わるのである。



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