『ア・クイック・ワン (原題:A Quick One) 』

リリース 1966年12月9日

録音 1966年8月・11月

プロデュース キット・ランバート

【収録曲】

SIDE A

1.ラン・ラン・ラン - Run Run Run

2.ボリスのくも野郎 - Boris the Spider

 (John Entwistle)

3.アイ・ニード・ユー - I Need You

 (Kieth Moon)

3.ウィスキー・マン - Whiskey Man

 (Entwistle)

4.恋はヒートウェーヴ - Heatwave

 (Holland/Dozier/Holland)

5.くもの巣と謎

 - Cobwebs and Strange (Moon)

SIDE B

6.ふりむかないで - Don't Look Away

7.恋のマイウェイ - See My Way

 (Roger Daltrey)

8.ソー・サッド・アバウト・アス

 - So Sad About Us

9.クイック・ワン

 - A Quick One While He's Away

*併記なき場合、作詞作曲 Pete Townshend

【パーソネル】

ロジャー・ダルトリー - リードボーカル ハーモニカ

ピート・タウンゼント - ギター バッキングボーカル

 リードボーカル

ジョン・エントウィッスル - ベース

キース・ムーン - ドラムス パーカッション

【作品概要】

最初に交わしたマネージメントによるレコード・デビューの失敗。彼らの可能性を嗅ぎつけた、次なるマネージメントとの契約(初代のマネージャーとプロデューサーは追放)とマネージャーが指名したプロデューサーによるレコード会社との契約。そこから、シングル・トップ10に入るヒットを連発し、デビュー・アルバムも全英五位を記録。飛ぶ鳥を落とす勢いと思われたザ・フー。

しかし、メンバー間の不仲や衝突は日常茶飯事であった。さらに、印税の配分からプロデューサーのシェル・タルミーと対立し、レコード会社を移籍するも、タルミーが所有する著作権を根拠にバンドと新たなマネージメントを訴えるハメに。

さらに、メンバーの不仲は続き、キースとロジャーが続けて一時的にバンドを脱退。さらに、ジョンも脱退から他のバンドへの移籍を画策するなど、混沌とした状態は続いていた。

だが、レコードのセールスは好調で、四枚目から六枚目のシングルは、すべて全英トップ10に入るヒットを記録し、特に六枚目の「ハッピー・ジャック」は、全米24位を記録し、初のアメリカでのヒット曲となった。

その渦中で制作、発表されたセカンドアルバム『クィック・ワン』。連発されたシングルヒット曲が一切含まれていないことに、特にピートの意思が感じられる。当時の通例であれば、シングルヒットを呼び水にして、アルバムのヒットを狙うものであるが、バンドはそれをせず、アルバムを一つの独立した表現と捉えたのだ。

さらに、デビュー・アルバムとの違いで、まずめにつくのは、メンバー全員が最低一曲以上自作曲を提供しており、ジョンやキースのリードボーカルも初めて収録されている。これは、マネージャーのクリス・スタンプが楽曲を管理していたエセックス・ミュージックから、メンバー全員が楽曲を書いたら各自に現金500ポンドを前払いするという約束を取り付けていたためである。ライブでの楽器破壊により、経済的困窮に陥っていたメンバーは、この条件に飛びついたのだ。

また、デビューアルバムではカバー曲が3曲あったが、本作ではマーサ&ザ・ヴァンデラスの「恋はヒートウェーヴ」1曲のみとなっている。この選曲も前作のロジャーの拘りによるものでなく、バンドの持つポップなユーモアからのものと思わせる。

メンバーの脱退騒ぎは、レコーディング時には、ほぼ終焉しており、「最初から最後まで楽しいものだった」とピートは後に語っている。そのことが影響したのだろうか。デビュー作以上にタイトで複雑なリズムにポップなメロディーを乗せるという、当時のフーの持ち味が完成の域に達している。

さらに、作曲面以外でも、ジョンの貢献度は増しており、ホルンやチェンバロなどの楽器が次々に導入され、サウンドの幅を広げている。

著名なクラシック・ミュージシャンを父に持つランバートは、オーケストラの導入を主張したが、ライブで演奏できることに拘ったメンバーに拒否され、外部ミュージシャンの起用はなく、トロンボーンやチューバなどの管楽器も全てメンバーによる演奏である。

さらに、最終曲の「クイック・ワン」だが、こちらはランバートの助言を受け入れたオペラ風の組曲で、後の史上初のロック・オペラ・アルバム『トミー』の布石とも言える作品である。

【楽曲解説】

「ラン・ラン・ラン 」

威勢の良いシングルヒットの印象が強い当時のフーだが、二枚目のアルバムは、やや下降調のメロディーの曲から始まる。

「ボリスのくも野郎」

これも意表をつく曲。ジョンの曲であり、彼の持ち味が発揮され、初期のフーの代表曲となる。

「アイ・ニード・ユー」

キースの曲であり、ボーカルも彼だが、凡庸なできだ。ただし、ドラムスに関しては、すべてがフィルインといった様なキースの特長がよくでている。

「ウィスキー・マン」

ジョンのこの曲も、これといったものはなく、やはりフーは、ピートの曲があってのバンドであることを証明してしまっている。

「恋はヒートウェーヴ」

オリジナルの弱さをカバーする為かとうがった見方をしてしまいそうだが、能天気なコーラスとムーンのパンチの効いたドラムスが心地よいカバーである。

「くもの巣と謎」

ララってしまった救世軍のマーチの様で、キースの個性を印象付けるインスト曲である。

「ふりむかないで」

ピートは、あえてビート色の強い曲を避けて、こういったポップな曲を優先したのだろうか。

「恋のマイウェイ」

同じ形容詞が続いてしまう。凡庸だ。ロジャーはピートの曲を歌う為に生まれて来たボーカリストである。

「ソー・サッド・アバウト・アス」

この曲も、明らかにポップでメロディアス。後に、ポールウェラー率いるザ・ジャムがカバーしている。

「クイック・ワン」

アカペラのコーラスから曲は始まる。ギターのカッティング中心の次曲から、どこかクラシカルなロジャーの歌うメロディーと続く。さらに、語りの様なボーカルから、ミドルテンポのメロディーが続く。そして、ビーチボーイズを思わせるポップなメロディー。続いて、ピートのボーカルパートへ入り、曲はテンポアップしサイケな世界へ。同時期のセッションでフーは、ビーチボーイズの「パーパラアン」をカバーしている。