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『ウィズ・ザ・ビートルズ(原題:With the Beatles)』
リリース 1963年11月22日
録音 1963年7月18日 - 10月23日
プロデュース ジャージ・マーティン
【収録曲】
1.イット・ウォント・ビー・ロング
  - It Won't Be Long 
2.オール・アイヴ・ゴット・トゥ・ドゥ
  - All I've Got to Do
3.オール・マイ・ラヴィング
 - All My Loving
4.ドント・バザー・ミー
 - Don't Bother Me (Harrison)
5.リトル・チャイルド - LittleChild
6.ティル・ゼア・ウォズ・ユー
 - Till There Was You (Willson)
7.プリーズ・ミスター・ポストマン - Please Mister Postman (Dobbin - Garrett - Garman - Brianbert)
8.ロール・オーヴァー・ベートーヴェン
 - Roll over Beethoven(Berry)
9.ホールド・ミー・タイト - Hold Me Tight
10.ユー・リアリー・ゴッタ・ホールド・オン・ミー - You Really Got a Hold on Me(Robinson)
11.彼氏になりたい
 - I Wanna Be Your Man
12.デヴィル・イン・ハー・ハート
 - Devil in Her Heart(Drapkin)
13.ナット・ア・セカンド・タイム
 - Not a Second Time
14.マネー - Money (That's What I Want)
  (Bradford - Gordy)
*特記なき場合、作詞作曲 レノン&マッカートニー
【パーソネル】
〈ビートルズ〉
ジョン・レノン - ボーカル コーラス リズムギター  
 アコースティックギター クラシックギター ハーモニカ タンバリン ハンドクラップ
ポール・マッカートニー - ボーカル コーラス ベースギター ピアノ クラベス ハンドクラップ
ジョージ・ハリスン - ボーカル コーラス リードギター アコースティックギター クラシック・ギター
 ハンドクラップ
リンゴ・スター - ドラムス ボーカル タンバリン マラカス ボンゴ
〈アディショナル・ミュージシャン〉
ジョージ・マーティン - 編曲 オルガン ピアノ
【作品概要】
ジャケットは、タートルネックにモノトーンのハーフシャドウのメンバーの顔。ハンブルグからの友人でカメラマンのアストリットキルヒヘアがデビュー前のビートルズを好んで撮影していたという手法である。メンバーは、アストリットが撮影した写真を撮影を担当したロバートフリーマンに見せ、デザインを要請した。モノクロジャケットにEMIは難色を示したが、ジョージマーティン、ブライアンエプスタイン共に譲らなかった。結果、ボピュラーミュージック史上の初めてアートとして評価されたアルバムジャケットとなり、多くの模倣やパロディを生むことになる。
慌ただしいことに、撮影はスタジオに行く時間がなく、コンサート時にドレッシングルームの廊下で行われた。
『ウィズ・ザ・ビートルズ』とは、非凡なタイトルとは言えないが、どこか今後を予見する自信を感じさせる。メンバーの余裕を浮かべた表情も印象的。
シングル・アルバムが共に全英一位を記録し、ツアーを敢行。その後、7月と9月の四日間に録音されている。前作から四ヶ月しか経っていない。
一度レコーディングを中断したのには理由がある。『プリーズ・プリーズ・ミー』が未だチャート一位を維持していたのだ。しかし、8月に入っても一位をキープしたまま。それで、9月に録音を再開し、11月に発売。そして、『プリーズ・プリーズ・ミー』を抜き、初登場一位を記録。『ウィズ・ザ・ビートルズ』一位、『プリーズ・プリーズ・ミー』二位という状態は20週間続く。そして、次作『ハード・デイズ・ナイト』まで、一年間、ビートルズのアルバム一位という状態が続く。
四日間でレコーディングとは、前作の四倍になるが、現代のアルバム制作の常識からすれば、考えられないハイスピードだ。デビューアルバムが記録的ヒットをしている最中であることを考え合わせればなおさらである。
当時のポピュラーソングのレコード制作の状況もあろうが、要はビートルズはライブバンドだったのだ。普段やっていることを、そのままやればレコードになってしまう。曲によっては、ワンテイクで完了している。
しかし、前作と違うのは、ライブで演奏されることのないオリジナル5曲が含まれていることだ。つまり、単なるライブレパートリーの寄せ集めでない、アルバムとしての作品指向が初めて芽生えた作品といえるだろう。
アルバム自体は、前作の延長上にある。しかし、ジャケットも渋いが、曲目も“フロム・ミー・トゥー・ユー”“シー・ラヴズ・ユー”“抱きしめたい”といった大ヒットしたシングルが収められていない。
作品志向で、ヒットシングルが含まれない。この辺りが『プリーズ・プリーズ・ミー』と違う『ウィズ・ザ・ビートルズ』の狙いである。ビートルズのアルバム発表は陰陽があり、まるで呼吸しているようで、いつまでも古くならないのだ。
一日のスタジオライブで完成させた前作との違いはもう一つあり、レコーディングでボーカルのダブルトラッキングを採用している。スタジオによる実験の採用は本作から始まったのである。
前作『プリーズ・プリーズ・ミー』を発表後、ヘレンシャピロの前座を務めていた彼らだが、ロイオービソンの様な大物を含め、次第にメインのアーティストを喰うようになり、ついには、イギリスナンバーワンのバンドに登り詰める。そして、ナンバーワン・シングルを連発した後、今作を発表し、いよいよかつて英国のアーティストが誰もなし得なかった、全米制覇に乗り出すことになる。
【楽曲解説】
「イッ・ウォン・ビー・ロング」
ジョンがいきなりシャウトし、すかさずポールとジョージがイエーイエーコーラスで答えるロックチューン。このボーカルとコーラスの追いかけっこが曲の疾走感を高める。
シングル用に録音されたが、前シングルと傾向が被るのを危惧してアルバムに回された。シングルカットすれば、ナンバーワンは間違いなかっただろう。
ビートルズファン以外には、意外と馴染みが薄いかもしれないが、魅力的でスリリングなロックンロールであり、何といっても若さ溢れるビートルズのエネルギーが圧倒的である。さらにエンディングで、ポールがキーを外すという周到なかっこよさ。
「オール・アイヴ・ゴット・ドゥー」
うって変わり、切なくメロディアスに歌い上げるナンバー。前作でカバーしたスモーキーロビンソンンやアーサーアレキサンダーの影響が伺える。ジョンのボーカリストとしての力量を見せつけてくれる。
ビートルズの使うコードは、比較的複雑なものは少ないが、イントロでギターで弾いているのは、Eaug add9 add11という、あまり使われないコードだ。また、ポールのベースは、ダブルストップと呼ばれる二本の弦を同時に弾いて和音をだす奏法で、以降この奏法は多様される。リンゴは、ドラムスをバスドラ・ハイハット・スネアの順で叩いており、センスを伺わせる。
「オール・マイ・ラヴィング」
ポールの手になる名曲である。ジョンは、1966年の『リボルバー』がつくられるまで、まずポールの曲を褒めることはなかったが、この曲には感嘆している。初期のビートルズは、ジョンの早熟の才能が引っ張っていたバンドで、ポールがそれを追っかける形で展開していったが、この曲を聴けばポールも完成されたメロディーを書いていたことが分かる。
まったく無駄のないアレンジで、ジョンの三連符のギター、ポールのメロディアスなランニング・ベース、ジョージのチェットアトキンス奏法など、三人のギタリストの個性が発揮されていて、どれも欠くことが出来ない。
「ドント・バザー・ミー」
ジョンの美大仲間で、マージー・ビートの創刊者ビル・ハリーから「ジョンやポールが曲を書くのに、君はなぜ作らないの?」との問いに、返答として書いたのがこの曲である。ジョージは、自分にも出来るのかと初めて作曲にトライしたのだ。
ジョンとポールの薦めで取り上げられたが、冗談のつもりで書いたこの曲をあまり気に入っていなかった。しかし、二人の影響を受けつつも、ジョンやポールにはないテイストをすでに発揮している。だが、彼の本格的ソングライターデヴューは、二年後の『HELP!』まで待たなくてはならない。
ポールのベースは、自分が歌わない曲では、色々な冒険をしている。
「リトル・チャイルド」
ジョンとポールの共作で、もともとは、リンゴスターの為に書かれた曲であるる。黒っぽさ満載のロックンロールで、リードギターが前に出ず、独特のノリがでている。二人のツインボーカルで、ハーモニカはジョン、ポールはレコーディングで初めてピアノを弾いている。
「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」
ブロードウェー・ミュージカル「ミュージックマン」からの曲で、ポールは自身のアイドル、ペギーリーのカバーをしている。前作“蜜の味”の発展形といえるが、わずかな期間で大きく進歩を遂げている。巧みなガットギターのソロはジョージによるもので、リンゴが叩くボンゴもいい雰囲気だ。ポールのベースがカールヘフナーヴァイオリン・ベースであることを考えるとほぼアコースティック・セットの演奏である。
この曲も、初期のコンサートで定番で、ポールも気に入っていたようだ。ただし、ジョンの好みではなく、ジョンはロック以外のスタンダードをカバーする時でもロック心を失わないのに対し、ポールはミュージカルの曲でも、原曲を崩さずにカバーしている。
「プリーズ・ミスター・ポストマン」
モータウンのガールズグループ、マーヴェレイツのデビュー曲にしてナンバーワンヒット。リードシンガーのグラディス・ホートンが戦地に赴いた恋人からの手紙を待ち侘びる気持ちから書かれている。
ただし、ジョンは一緒にツアーをしていたヘレンシャピロの歌を聴いて覚えた様である。余談だが、ビートルズのバージョンをカバーしたカーペンターズの同曲も1975年に全米一位になっている。
リンゴのチャドスンというドラムから、ポールとジョージのコーラスが来てジョンが歌い上げる。リードボーカルとコーラスが対等に呼応し合う発想は、マーヴェレイツにはなかったものだ。人称を男性に変えて歌たっているが、ジョンレノンという人は、他のアーティストのカバーをする時も、愛する喜びより、失われた恋の哀しみを歌う人だったのだ。
間違いなく、ビートルズの傑作カバーであるが、日本では特に人気が高く、独自にシングルカット(当時は可能だった)されている。
「ロール・オーバー・ベートーベン」
レコードでのB面一曲目は、チャックベリーのカバーで、もともとはジョンの持ち歌だったが、メジャーデビュー以降、ジョージに譲られた。オリジナルに比べ、ビートルズの演奏には起伏があり、ギターやドラムスも群発のノリだ。特にギターは、ジョージはソロ以外は軽くコードを弾く程度で、ジョン一人で弾いている感じである。
ジョージの息子のダニーのお気に入りで、父のオリジナルと思い込んでいたようだ。今や、立派なミュージシャンとなったダニーだが、91年の日本公演では父子の共演が実現している。
「ホールド・ミー・タイト」
デビューアルバムで、一度NGとなり、録音し直されているが、マーティンがアルバム構成を考えて、持ってきたと思われる。
「ユー・リアリー・ゴット・ア・ホールド・オン・ミー」
モータウンの看板アーティストの一人、スモーキーロビンソン。ジョンは、ストレートに影響を受けているし、ジョージはソロになってからロビンソンに捧げた曲を二曲発表している。そのスモーキーロビンソン&ミラクルズのカバーである。ジョンとジョージのツインリードボーカルが聞けるのはこの曲だけだ。ジョンは、オリジナルより一音半低いキーで歌っていて、ジョージはさらに低いパートを歌い、最後の三声コーラスでポールは上のパートを歌っている。
「アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン」
もともとローリングストーンズの目の前で、彼らの為にポールがメインで書いた曲で、ミックジャガーとキースリチャードが、「こんなに簡単に曲を書けるなら自分達も」と思ったというのは、カッコよすぎるが本当の話。しかし、なぜかプレゼントした翌日にビートルズは最初のレコーディングを行っている。ジョンとポールは、ストーンズがレコーディングすると思っていなかったのかもしれない。肝心のサビはリンゴが歌わず、ジョンとポールが歌っているが、この曲に関してはストーンズの方が出来がよい。
「デヴィル・イン・ハー・ハート」
デトロイトのR&Bグループ・ドネイズのカバーだが、ドネイズ版はヒットしなかったばかりか、この曲はB面曲である。グループもこのシングル一枚で解散してしまった。リヴァプールの船員が持って来たレコードから、ジョージは偶然この曲を知った。
「ノット・ア・セカンド・タイム」
ジョンの手によるもので、隠れた傑作ともいうべき曲だ。レモンドロップの様な甘酸っぱいメロディーに、自分を踏みにじった女性に二度めはないぜという歌詞。やはり、ジョンレノンだなと感じさせる。また、サウンド面ではジョージマーティンの弾くピアノがメインで、ライブバンド時代にはなかったスタイルだが、それをビートルズにしているのが、リンゴの叩くドラムスであろう。
「マネー」
やはり、このアルバムもジョンの激しいシャウトで幕を閉じる。は、モータウンのバネットストロングのカバー。デビューアルバムと同じ展開は、センスのよさを感じさせるが、プロデューサーのマーティンにしてみれば、一回やって成功したのでまたやってみようという発想だったのだろう。その試みは成功しているが、前回のワンテイクとは違い、7テイク録音されている。この曲は、カバーでありながら、ジョンの狡猾さが表されている。ファンキーな原曲をハードロックンロールといった趣でビートルズソングに蘇生させている。