『アンダーカヴァー』(Undercover) 
リリース:1983年11月7日
プロデュース:グリマー・ツインズ/クリス・リムゼイ
【収録曲】
1.アンダー・カヴァー・オブ・ザ・ナイト 
-Undercover of the Night

2.シー・ワズ・ホット - She WasHot

3.タイ・ユー・アップ - Tie YouUp (The Pain Of Love)

4.ワナ・ホールド・ユー - WannaHold You

5.フィール・オン・ベイビー - Feelon Baby 5:07

6.トゥー・マッチ・ブラッド - TooMuch Blood

7.プリティ・ビート・アップ 

-Pretty Beat Up (Mick Jagger/Keith Richards/ Ron Wood)

8.トゥー・タフ - Too Tough

9.オール・ザ・ウェイ・ダウン - Allthe Way Down

10.マスト・ビー・ヘル - It MustBe Hell

 【パーソネル】

ミック・ジャガー - リード&バッキングボーカル、ハーモニカ、エレキギター(#7、#8、#9)

キース・リチャーズ - ギター、バッキングボーカル、ベース(#7)、リードボーカル(#4)

ロン・ウッド - ギター、バッキングボーカル、ベース(#3、#4)

ビル・ワイマン - ベース、エレクトリックピアノ(#7)

チャーリー・ワッツ - ドラムス、パーカッション

チャック・リーヴェル - キーボード、ピアノ、オルガン、エレクトリックピアノ

イアン・スチュワート - ピアノ(#2)、オルガン(#7)

スライ・ダンバー - パーカッション、電子ドラム

ロビー・シェイクスピア - ベース(#5)

ジム・バーバー - エレキギター(#6)

チョップス - ホーン・セクション(#6、#7)

デヴィッド・サンボーン - サックス(#7)

マーティン・ディッシャム、ムスタファ・シセ、ブラームス・カウンディル - パーカッション

【作品概要】

1983年5月にバハマのコンパスポイント・スタジオで始まったレコーディングは、秋口にパリのパテマルコー二・スタジオで仕上げが行われた。

過去のマテリアルを掘り起こし作成した、前アルバム『入れ墨の男』の時は、隙間風が吹く程度だったミックとキースの関係は、本作制作時には最悪となっていた。

音楽をビジネスと捉え、ストーンズを思うがままに動かそうとしていたミック。キースはより純粋に音楽を追求したかったに違いない。さらに、新し物好きのミックと、王道を重視するキースの音楽的差異が壁となっていった。

会話もままならず、互いに意思を疎通しようともしない。会話があっても、相手を責め罵り合うことに。結局、健康志向のミックは、正午から午後五時に、夜型のキースは午後五時から正午までスタジオに入るようになる。

 

おそらくは、バンドをより客観的な立場で見ていたロンウッドは、このアルバムを

「アルバムにコンセプトはなく、過去のレコーディングとボツ曲の寄せ集めに過ぎない」と語っている。

一応は、体裁を保った『入れ墨の男』と較べると、明らかに低迷を余儀なくされている。エンジニアのクリスキムゼイが昇格し、久々の外部プロデューサーとして招かれるが、さしたる功を奏していない。ミックとキースのエゴの対立には、取って入る隙間もなかったのだろう。

 

アルバムジャケットのコンセプトとデザインは、ピーターコリンストンが担当しており、米盤ではヌードの女性に貼られたシールが剥がれるようになっていて、アルバムのコンセプトを引き立てていたが、実はそのコンセプトが取って付けた様なものだった。

夜の闇にすべてを隠せと歌うタイトル曲と、パリで起きた日本人による殺人食人事件をそのままテーマにした、“トゥー・マッチ・ブラッド”以外、ワイセツな歌詞の寄せ集め以外の印象は持てない。

また、ミックが持ち込んだ、シンセサイザーとクラヴィネットの導入を含め、過剰な音の装飾もストーンズらしさを奪っている。

ストーンズの分裂を露呈し、方向性を見失い、ストーンズらしさも、音の充実も皆無な作品である。

 【曲目解説】

“アンダーカヴァー・オブ・ザ・ナイト”

アルバムのタイトル曲であり、ファーストシングル。スライダンバーがパーカッションで加わったハードファンクであるが、サンプリングやフェイジングなどの手法が用いられた。ストーンズ、特にミックは、この曲にコンセプトの大方を込めたのではないか。

プロモーション・ビデオに力を入れ始めたストーンズだが、中米のマフィアにミックがピストルで頭を撃ち抜かれるというショッキングな映像は、過激過ぎると物議を醸し出し、さらなるプロモーション効果を生んでしまった。

"シー・ワズ・ホット”

セクシュアルな彼女を歌った、ストーンズ典型のロックンロールで、準メンバーのイアンスチュアートがブギウギピアノを弾いている。

ダンサーのアニタモリスに挑発され、メンバーのジッパーが弾け飛ぶプロモーション・ビデオは、調子に乗りすぎたか、シングルでは不発に終わっている。

“タイ・ユー・アップ(恋の痛手)”

ファンキーなボーカルに、セックス描写。このアルバムを象徴した一曲だ。

"ワナ・ホールド・ユー”

アルバム制作当初、ミックとキースの共作によって生み出された曲で、このアルバム唯一、キースがリードボーカルを取る曲。

『エモーショナル・レスキュー』では、失った恋の痛みを歌っていたキースだが、この曲では、パワーポップ張りのストレートなロックに乗せて、愛する喜びを歌っている。アルバム発売一ヶ月後に、キースはモデルのパティーハンセンと再婚している。

“フィール・オン・ベイビー”

ロビーシェイクスピアとスライダンバーを迎えた、レゲエナンバー。この曲からも分かる様に、ストーンズなりのアプローチに挑戦はしているのだけれど...

“トゥー・マッチ・ブラッド”

フォーンやギターの使い方は、確実に今までのストーンズにないアプローチをしている。しかし、この曲に限らず、ドラムスの人工的な味付けは、あまりにストーンズらしくない。ラップ調のミックのボーカルは、パリでの殺人食人を起こした佐川事件を直接歌っている。

“プリティ・ビート・アップ”

デビッドサンボーンのサックスやミックのボーカルが絡む、混沌としたファンクナンバー。

“トゥー・タフ”

ギターのリフは、70年代のストーンズそのもの。ただ、現代的なものを意識したか、音を詰め込んだサウンド・プロダクションは、ストーンズらしさを奪ってしまっている。

“オール・ザ・ウェイ・ダウン”

これまた、いかにものロックナンバーだが、サウンドにもこれと言った特長はなく、歌詞までもストーンズのステレオタイプのようだ。

“マスト・ビー・ヘル”

“ソウル・サバイバー”のリフを掘り起こし、ストーンズは何とかアルバムを締めくくっている。