インパクトファクターの高い医学雑誌NEJM(The New England Jounal of Medecine)新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症患者のウイルス検出量を調査した論文が掲載されました。

これはかなり重要な内容が記載されていると感じたので、意訳してまとめてみました。

*は筆者がつけた注釈です。

 

 

①患者さんの特徴

 

中国・広東省珠海市SARS-CoV-2陽性とRT-PCR(reverse-transcriptase-polymerase-reaction) 検査で診断された18例(男性9;女性9)の解析です。

年齢中央値;59歳(範囲は26-76歳)

このうち、4例は2家族内における2次感染例です。

 

 

2020年1月7日から26日までの間に武漢から帰宅した14例で、37.3℃以上の発熱があり、SARS-CoV-2陽性、うち13例はCT上肺炎の所見がありました。

3例はICUでの治療を要しましたが、他はいずれも軽度から中等度の症状でした。

 

3例のICU治療例(36歳男性・78歳男性・76歳女性)と接触した家族等、4名が2次感染を起こし、36歳男性が妻、母親、友人3人に感染させ、78歳と76歳の男女は夫婦で娘49歳に感染させました。

 

36歳男性の友人は無症状でしたが、濃厚接触者と考えられたため咽頭、鼻腔スワブを採取されました。

 

 

②検出されたウイルス量(=RNA核酸コピー数)

 

検体は鼻腔スワブ(インフルエンザウイルスの検査と同じ方法*)と咽頭スワブ(溶連菌検査と同じ方法*)を用い、無症状だった1例を除く17例で連続的に1-9サンプルをそれぞれ採取しました。

鼻腔スワブ72本、咽頭スワブ72本となり、それを発症日とウイルス量の相関を見るため連続的にモニタリングしたわけです。

 

そのサンプルはRT-PCRを用いてウイルスの遺伝子を増幅し、ウイルス量をPCRの増幅で検出できたサイクル数(サイクル閾値;cycle threshold;Ct値)で比較しています。

即ち、Ct値が少ないほど検出ウイルス量が多いと言うことになります。

 

発症者17例については、発症直後から高いウイルス量が検出され、また、咽頭より鼻腔の方がより多くのウイルス遺伝子が検出されていました。

 

Ct値のリミット(検出限界)は40で、軽症-中等症の例から採取した検体より重症例のCt値は、鼻腔、咽頭ともに低かったです。

 

発症15日前後から17例の感染者のウイルス量は検出限界まで低下してきていました。

(文献のグラフより筆者が読み取ったもの*

 

無症状だった1例について、発症者との接触後、7、10、11日と鼻腔スワブ、咽頭スワブから中等度のウイルス陽性反応(Ct値で鼻腔が22-28、咽頭が30-32)が認められました。

 

 

③まとめ

 

無症候例から検出されたウイルス量は、発症者のウイルス量と同等であり、無症状、あるいは軽微な症状の感染者からウイルスが拡散される可能性があります。

 

 

SARS-CoV-2のウイルス核酸放出のパターンは、インフルエンザウイルスのパターンと類似し、SARS-CoVのパターンとは違っています。

 

SARS-CoVの感染は、発症してから数日後に接触者に感染させ、ウイルス量は中等度で、発症後10日にその排泄ピークがあります。

 

この研究は、ウイルスの核酸量を見ているだけですが、ウイルスが培養出来、核酸量でなく生きたウイルスとして、その培養でのウイルス排泄量を調べていないので、その情報が必要です。

しかし発端者の特定、隔離というSARS-CoVで感染を制御できた戦略とは違う方法が、発症初期からウイルス量が多いSARS-CoV-2に対しては必要かもしてません。

 

無症候性のキャリアが存在すると言うことは、SARS-CoV-2の伝染動態を更に詳しく調べ、スクリーニングの方法を見直すウイルス培養を含めたさらなるデータが必要と考えています。

 

 

 

④筆者の私見

1. 無症候性のキャリアいて、ドイツの研究ではその排泄されたウイルスがまた、人に感染を起こす可能性が指摘されています。その頻度は決して低くないと考えられ、今の隔離、排除政策には少なからず無理があると感じています。

 

 

2. 小児は、特に年少者はSARS-CoV-2に感染しても軽度で症状が消失しています

しかし、小児は一般に免疫が未熟で、RSウイルスの研究では小児はウイルスの排泄量が多く、排泄期間が長期にわたることは分かっている事実です。

 

治癒したと考えられる小児がスーパースプレッダーになる可能性はあると思います。

しかし、もしそうだとしても小児を排除できますでしょうか?

 

子どもは私達の未来であり、このような方針は私達の自らの首を絞めているような気がしてなりません。

 

 

3. ヘルペスウイルス属は人間に持続感染し、潜伏し、人間の免疫状態によって再活性化して色々な病気を起こしてきます。

 

インフルエンザウイルスは水鳥の腸管に住んでいて(水鳥はreservoir)、毎年そこから豚に感染、人間へと考えられていますが、人間の便から、あるいは白血球からもウイルスの遺伝子が見つかっています。

 

ウイルスは何らかの生物に寄生しないと生存できない存在です。

人間も色々なウイルスのresevoirになっている可能性は大きいのではないでしょうか。

また、そこに個体差、年齢差、環境による違いが加わって来て、ある集団がresevoirになりやすいなどの特徴が出てくるのだと思います。

 

ウイルスの潜むことが可能な場所(Sanctuary area;聖域)は、免疫反応を受けにくい部位である免疫担当細胞と神経細胞だそうです。腸管はどちらも多数集合している場所なので、腸内細菌を含め、腸内環境をウイルスが潜伏しにくい状態にすることも重要ではないかと考えました。

 

 

4. ウイルスを排除すると言うことではなく、色々身体の免疫力を高める工夫をした上で、ウイルスが身体に侵入しても「そこでおとなしくしていてね」と言うエネルギーが有効のような気がします。

愛=光の集合体とおっしゃる先生(奥健夫先生)もいらっしゃいます。

愛、光、太陽がイメージとして沸いてきました。

 

 

5. この流行によって、外出禁止などの措置が執られる可能性があるため、各地で色々な買い占めが起こっているようです。

イタリアも同じ状態ですが、その様子をイタリア在住の日本人女性、岩田デノーラ砂和子さん(ライフ/コーディネーター/通訳)がブログに投稿しました。

イタリアでも高校が休校になり、ミラノのヴォルタ高校校長が生徒に宛てた手紙を紹介しているのですが、それがとても心を打つ内容だったので、是非そのブログを読んでいただきたいと思います。また、その内容の一部を転載させていただきます。

 

17世紀のミラノを襲ったペスト感染の状況を語るマンゾーニの名著からの引用から始まります。

 

「外国人を危険と見なし、当局間は激しい衝突。最初の感染者をヒステリックなまでに捜索し、専門家を軽視し、感染させた疑いのある者を狩り、デマに翻弄され、愚かな治療を試し、必需品を買いあさり、そして医療危機。」

 

校長曰く、マンゾーニの小説というより、まるで今日の新聞を読んでいるかのようと。

目に見えない敵に脅かされた時、人間の本能は、あたかもそこらじゅうに敵がいるかのように感じさせ、私達と同じ人々までもを脅威と見なしてしまう危険があります。

”ペスト”が勝利しないように、文明的で合理的な思考をしましょうと。

 

 

中世のヨーロッパで流行したペスト(黒死病)に対して、封じ込めの作戦がとられましたが、全く効き目がなかったようです。

(現代では抗生剤でコントロール可能となっていますが。。)

 

その時のパニックの状態を校長が生徒にマンゾーニの名著から紹介したわけですが、現代も昔と本当に変わらない行動をとるのだなと、私はかなり衝撃を受けました。

 

今私が一番恐ろしいと感じているのが、パニックに陥った人間がとる行動です。

 

今できる工夫をとことん考え、循環型で、断捨離をして必要最小限のものを持つという心構えで、毎日を過ごしていけたらと感じています。

時代がそう教えているのかもしれません。

花粉症で鼻が出っぱなしであれば、ティッシュペーパーではなくハンカチで鼻をかむと言った類いでしょうか。。

 

この私見が何らかのお役に立てるようであれば幸甚です爆笑

 

 

 

追記

 

ペストの流行について

 

1. ペストはペスト菌(Yersinia pestis)が起こす病気で、中世のヨーロッパで大流行を起こしましたが、現在でも散発的に流行があります。この菌の遺伝子配列は600年前とほとんど変化していないそうで、現在のペスト菌流行の起源は中世にあることを証明しています。

また、ペスト菌は土壌に生息する類縁菌から進化したものだそうで、黒死病として流行したペスト菌には、ヒトへの感染を可能にするDNA配列が加わっていたと言うことです。

 

2. ペストの拡散は、ネズミによってと言う説が信じられてきましたが、最近コンピュータによるシミュレーション(計算生物学)の結果、ネズミ→ノミよりヒト→ノミ・シラミの方が、爆発的な流行の速度、死亡パターンに一致したと言うことです。

 

ヒトのノミが直接ヒトに移すのであれば感染速度は本当に速いわけですね。

単純な隔離、排除では拡散速度に追いつかなく、衛生状態の改善、抗生剤の出現で、感染が抑え込まれてきたことが推測されました。

 

 

 

 

 

ゆいクリニック院長   由井郁子(ゆい・いくこ)

 

 

 

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