「あ~やっぱりレナンの料理は最高♪」
上機嫌の、ディエマ。
腹をかかえて、苦しそうな感じ…
今、敵襲があれば、間違いなく、お荷物確定のような…
やはり、コイツは戦士失格なのでは…
考えるハージンをよそに、紅茶を飲み終えたシレイスが意を決したように、レナンを呼ぶ。
「ねぇ、レナン、先ほどから気になってはいましたが、あなたの心情を考えるとなかなか切り出せず…」
「おい、もう少し落ち着いてからでも…」
察したディエマが、遮ろうとするが、
「ディエマは黙って、これは絶対避けて通れる問題ではない。同じ村に住むものとして、当然知らなければいけない…」
厳しい顔を向けるシレイスに、仕方ないという風に、肩をすくめるディエマ。
「レナン、単刀直入に聞きますが、村があったであろう場所に村が無かったのです。バードや、みんなはどうしました?あなたはさっき、みんなが来るから料理していたのだと言っていましたね…」
「あ…そうか!!」
ひとり合点するディエマ。
「みんな生きてる?」
期待と不安の入り混じる緊張の場が生まれる。
少女に注目する三人。
しかし、少女の答えは期待とは程遠いものだった。
「見ての通り…よ」
「???」
「誰も、帰って来やしない…」
「ど、どうしたんだよ…レナン…まさかみんな…」
言おうとする寸でのところで、迷うディエマ。
言ってしまったら、本当になってしまう…
シドを失ったばかりでキツ過ぎる。
だから言いたくない…
だが、そんなディエマの弱気を無視するハージン。
「レナン。さっきも言ったが、村があるべき場所になかった。消えた…としか思えない」
「思えないじゃなくて、消えたの…」
「え?」
「だって…」
言い淀むレナン。
その表情に、明らかな怯えが見える。
「レナン?」
ハージンに何か言いたそうにするレナン。
けど、首をふると、
「そ、そう…消えたんだ。わ、私もびっくりして…」
わかりやすく動揺するレナン。
そして…
たすけて…
それは突然伝わってきた。
声なき声…
「ね、ねえ、その事と、関係あるかわからないんだけど、気になる場所があって…」
レナンはまだ喋っている。
だが、間違いなく彼女から発せられたSOS。
たすけてだと…!!?
ハージンにだけ伝わったシグナル。
「気になる場所…ですか?」
「何だよそりゃ?」
シレイスやディエマは気づいていない。
(SOSの原因はその場所にあるのか?)
瞬間的に理解するハージン。
「どこだ?案内してくれ」
驚くレナン。
ちぐはぐな突拍子もない流れで出てきた言葉…
気になる場所…なんかじゃない…
それが何なのか?
どうして行く必要があるのか?
確認することなく、行こうとするハージンに、
「おい…」
言いかけるディエマ。
その背に手を当てるハージン。
(いいから、黙ってついてこい)
声ではなく、念で言葉を伝える。
「な、何言って…」
言いかけるディエマを遮るように背の圧力を強めるハージン。
驚きながらも、黙るディエマ。
ただならぬ雰囲気を感じ、黙って見守るシレイス。
「行こう!!」
ニコリとするハージンに戸惑うレナンだったが、
「う、うん。こっち…」
申し訳なさそうに言うと、歩き始める。
だめ…
行ったら…
でも…
助けてくれるの?
レナンの思考が伝わる。
振りむこうとするレナン…
しかし、見れなかった…
まるで何かに脅されているようにも見える…
それを見ながら、またも記憶の琴線に触れるものの、はっきりしない記憶にもどかしさを覚えるハージン。
(見覚えが…ある?)
何故だかわからない…
しかし、見たことのあるシチュエーション。
来たことがあるなどではない、生々しい感覚。
これから起こる事を知っている。
そんな奇妙な感覚がある。
案内されたのは、外…
例の湖。
空は少し薄暗くなりかけたところだ。
「ここがどうかしたのか?」
聞くのはハージン。
「この下に…強い気を感じるんだ…」
ハージンと目線を合わせないように答えるレナン。
指さす指が震えていた…
「湖の底ってことですか?」
「うん。たぶん、みんな…ここに…」
「バカな…それじゃみんな…」
死んでる…
絶望を感じてか、膝から崩れ落ちるディエマ。
だが、信じない気持ちが、死を口にするのを拒んでいる。
シレイスも、息を呑み、湖面を見ている。
そんな二人に、両手で触れるとハージンが言った。
(まだ死んでない…)
「え?でも…」
(いいから聞け)
強い意志に、言葉を飲み込むディエマ。
(いいか、これから何が起こっても、動揺せず、戦うと誓え!!)
「何を言って…」
二人そろって声を出しかけるが、
(誓えるか!?)
ただならぬ圧を感じ、黙る二人。
ただただ、頷く。
その様子を不安げに見るレナンに、大丈夫とでもいうように笑顔を向けると、ハージンが言った。
「底を見てくればいいのか?」
!!!!!!!
嘘を見透かされた子供がそうするように、不自然な間が空く。
「う、うん…」
何とか声を絞り出す。
「よし、わかった!!」
迷いなく助走を始めるハージンに、
「待って!!……待ってよ!!!」
叫ぶレナン。
はっきりと聞こえたはずなのに、止まらないハージン。
バッ!!!!!
大の字宜しく、湖に飛び込むと、そのまま深くに潜っていく。
「ど、どうしよう…」
立ち尽くし、震えだすレナン。
「あたし…あたし…」
「いったい何なんだ?訳わからん」
ハージンといい、レナンといい、不可解な反応に、愚痴るように言い捨てるディエマ。
「レナン、落ち着いて…何があったのか話してくれますか?」
耳心地の言い、声が響くと、何とか声を発するようにして、話し出すレナン。
「わ、悪いやつが来て、む、村ごと…」
言いかけて、湖を指さす…
「気が付い…たら、ここに居て、みんなを…助けた…かったら…ハージンに食事を振る舞うふりして…これを…」
途中から泣きじゃくりながら話す少女の手に、紙包みが握られていた。
急いで手にするシレイス。
紙包みを開いて匂いを嗅ぐ。少し指にとって、舌にのせ、確認する。
「おい、それ大丈夫なのか?」
「劇薬で無い事は確かですが…痺れ薬と言ったところですね」
「な…それって…」
「ハ、ハージンに…食べさ…せたら、呼べって…」
言いかける少女の後ろに、
ザッパーン!!!!!
5メートルはあろうかという大波が立つ。
「やば…」
慌ててレナンの手を引っ張って波から逃れさそうとするディエマ。
しかし、間に合わなかった。
波にのまれ、水中を漂う三人…
そうなっていたはずだ。
波が崩れず、ある形に変形する事が無ければ。
さながら、角の生えた悪魔と恐竜を思わすディテールの水の怪物がそこにいた。
その水の、頭の部分に、瞳の無い目が開き、尖った鼻先が伸び、牙だらけの口が開くと言った。
「どうした。どうした?今回はあっさりと捕まったもんだな神殺しさんよ!!!」
今回は??
疑問を抱くも、その信じられない光景に目を疑うディエマとシレイス。
怪物の手に握られた右手でぶら下がるようにして気を失ったハージンに目を奪われつつ、戦慄するしかなかった。
(いいか、これから何が起こっても、動揺せず、戦うと誓え!!)
ハージンが言った言葉がよみがえる…
「冗談だろ…こんな化け物…」
「聞いてねぇ…」
~続く~
