「奇跡はある!!」

 

あきらめかけたディエマの心に響く声。

「ハージンは…沈んだ…氷に…包まれて…レナンも…けれど出来ることをしっかりやってれば、奇跡が起こるかもしれない…」

 

怪物の様子を確かめるように話すシレイスを見るディエマ。

奇跡だと…?

 

「信じましょう!!この怪物を打ち倒す!!私たちなら、それが出来ると信じたハージンの期待を裏切るわけには行きません」

 

「カッカカ…貴様ら、何か勘違いしてるようだから言ってやるよ。いつもなら、さっきのガキを救おうとしたハージンが死にそうになって、それを救おうとシドが命を落としたところで、ハージンの秘めたる能力が目覚めて俺様がやられたぁああってなるところでよ…」

 

再び怪物の絵空事のような話が始まるが、本当に何度目かの戦いなのかと思い始めてもいる二人は黙ってその怪物の絵空事を聞いている。

 

「今んところ新しい展開ばっかりで目まぐるしくはあるが、これだけは言える。未だ姿を見せねえ神殺しは死んだ…氷から抜け出せずに窒息死…間抜けだなぁ、おい」

 

こらえきれないと言った様相を見せる怪物。

「やっとだ…やっと、念願の勝利を手に入れられっぜぇ」

 

グパ、グパパパ♪

 

大きく、大きく耳障りな音で、笑う怪物。

さながら、水の振動音だ。

 

「まだです!!」

言いやるシレイス。

「まだ私たちがいる!!お前を倒す!!絶対にだ!!!」

 

「カッカカ~村人Bが何か言ってるぜ!!面白れぇ、イサイラスごときで手こずった貴様らが、俺に敵うと思ってるのが、どれほど間抜けな事か、教えてやるぜ!!」

 

言うが早いか、今までと違った攻撃を見せ始める。

体全体を捻じったかと思うと、激しい竜巻とでも言うのか、水流で風を起こし始める。

一瞬でたじろぐ様な風圧が襲う。

 

「遊びは終わりにするか…天災に立ち向かうがごとき愚行を悔やむがいい!!」

 

竜巻の槍と化した轟音が向けられる。

その中心で、雷を伴ったエネルギー体が蓄積されていく…

さながら竜巻の大砲と言った様相を呈し始める…

 

普通に考えれば、ジ・エンドだと言わざるをえない状況…

しかし、何を思ったか怪物は攻撃をやめてしまった…

収まるエネルギー体。

 

「そういえば名乗って無かったな…冥土の土産だ。クウォリッグス・ティンゲート!!それが俺の名…って聞いてんのか…」

 

怪物より不可解な二人。

収めたとはいえ、銃口を向けられているも同じ状況において、相手が攻撃をやめ、自己紹介を始めたのを見るや、逃げずに会話を始めたのだ。

 

だが、逃げようとすれば、間違いなくやられていただろう…

天災というに相応しいパワーを目の当たりにして、悟ったのかも知れない。

 

恐怖を感じた様子は無い。

覚悟を決めたのだ。

怖気づく暇などない。

 

「シレイス…急ぎやってくれ!!アレだ!!わかるな?」

期待を込めて見やるディエマだが、シレイスの表情は浮かない。

「残念ですが、ディエマ、あの会話をした時に使ってます」

 

言いにくそうに、言葉をのべると、ディエマの表情が固まった。

その様子に忌々しそうな感情を向ける名乗ったのに相手にされない怪物。


「何だと…ク…」

肩を落とすディエマ。

「そっか、あまりにスムーズに戦えてるなとは思ったが…」

 

「すみません。あなたの希望を…」

「まだだ…まだ狂暴化してない!!もう一段階上…あるだろ!!」

「何を言って…アレにさせるくらいなら私は…」

 

「イフリートは駄目だ!!ハージンがいねぇのに、何考えてる!!」

「でも、バーサクは…」

「でもも、くそもねぇ!!イフリートは失敗したら、自爆だぞ!燃えて死んじまうんだ!攻撃一つしないでやられたら、いい笑いものじゃねぇか!!」

 

「そんな気は毛頭ありません、この前、失敗こそしましたが、何故失敗したか、原因は明らかなのです!!」

「だからって、失敗したら死しかねぇリスク犯すより、バーサクの方がマシだろが」

「いいえ、バーサク状態のあなたは防御など無視じゃないか!あんな攻撃受けたら、死んで…」

 

くっだらねえ…

なめてるのか?

 

「おーい、聞いてるか!!」

たまりかねた怪物が、叫ぶが、

「うるせぇ、黙って待ってろ!!」

 

逆に怒鳴り返すディエマ。

完全に立場を理解してない…

怒りと負の感情が渦巻き始めるが、続く言葉は、怪物の興味を誘うものだったらしい。

 

「お前だって、それぶっぱなして終わりじゃ、物足りない!!だから待ってんじゃねえのか?とっておきをよぉ!!そのとっておきってヤツで貴様のその天狗になってる鼻をへし折ってやんからよぉ…待ってろ!!」

 

「こ、このや…」

暴発しそうになりながらも、

「でも、とっておきかぁ、」

再び攻撃を止めるクウォリッグス。

 

普通なら、待ったなしで、必殺技を発動し、こんなやり取りも無いだろう…

しかし、クウォリッグスが言ったように、何度目かの挑戦での確実な勝利を信じて疑わない彼には、負けの二文字は浮かばなかった。

勝利の余韻に浸るように、この状況を楽しんでいる。

 

(新顔のとっておきなら見ておかない手はねぇか)

どんな技だ?

完全に、油断している。

 

ドキドキし始めるクウォリッグス♪

しばらくして、耳?を疑う言葉が聞こえるまでは…

 

 

「くそ、だったら、勝負だ!!」

シレイスに勝負を持ちかけるディエマ。

「じゃ、勝った方に絶対服従ってことで…」

 

は?二人で勝負だと!?

そんなの待てるかぁあ~

 

と、再び戦いの姿勢を取りかけるクウォリッグスの前で、二人の始めた勝負に腰砕ける。

 

「最初はグ~、じゃんけんポイ!!」

「ポイ!!」

「ポイ!!!」

 

グ~とチョキ!!

 

「よっしゃ、俺の勝ち!!」

 

「おめぇらよ!!」

 

ウネリが解け、中途半端なクウォリッグス。

この気抜けた時間の経過こそが、やがて彼らの命を救う事になったが、それに気づくはずもなく、意を決するディエマ。

 

「よし、バーサクやってくれ!!」

「くっ…しかたない…けど、本気で死ぬなよ!!」

「うっせ、やれ!!」

 

渋々ディエマの腹に手を当てるシレイス。

一瞬のうちに、狂戦士と化すディエマ?

 

「す、すげぇ、まだ力が湧きやがった…やっぱりこの技、無敵になれる気が…って、意識飛んでねぇし、バーサク(狂暴化)できてねぇじゃねえか…」

 

ディエマの様子に焦るシレイス。

「そ、そんなはずは…」

 

やばい、迷いがある…

こんな状態では、イフリートも…

 

サアァッ…

血の気が引く思い…

青ざめるシレイスを横眼で見ながら、気負い過ぎてたと気づかされるディエマ。

 

(涼し気な顔しやがって、お前もビビってたんじゃねえかよ…)

同じ思いで戦ってたダチに、緊張がほぐれるディエマ。

 

「気にすんな、シレイス…絶対勝つからよぉ」

シレイスの内面を見透かすように、声をかける。

 

「バーサクじゃねえけど、かなりのパワーアップだ。何とかしてみる。だから、絶対、イフリートは駄目だ。使うなよ。お前は回復魔法に全力…頼んだぜ」

 

「…………」

「勝負に負けた奴は絶対服従だろ!?」

 

答えないシレイス。

不服そうだ…

見返すディエマ。

「チェッ、分からず屋め!!」

 

「なんだよ、とっておき、失敗か?」

状況を見ていたクウォリッグスが問うが、目もくれずにディエマが言う。

 

「んなんじゃねぇ、おい、怪物、ちょっと待ってろ…」

「あ?ちょ、待てよ…」

 

戸惑うクウォリッグスを無視して、ラリスの住んでいた小屋に入るディエマ。

すぐに戻ってきた。

手には見覚えのある物が握られている。

 

それはシドが使っていた剣だった。

 

「前から試したかったのがやっと試せるぜ。このパワーアップなら、出来るはず…」

「二刀流…ハッ、それがとっておきか…」

 

しょうもな…

白けた様子のクウォリッグス。

そんな怪物には目もくれず、確かめるように両手に抜き身(鞘から抜刀した剣)を握る。

 

「期待は裏切らねぇよ…前から修練だけはしてきたんだがよ、何せパワー不足で実現出来なかったもんでな…」

 

構えるディエマ。

と、思う隙すら無い!!

 

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

瞬動…!!

構えたと理解すると同時に、衝撃と振動が化け物の体を突き抜けていった。

 

「な…に…????」

 

何が起きたか理解できない怪物。

爆ぜるとでも言えばいいのか…

 

怪物の胴体は飛散し、原型が無い。

飛び散ったしぶきの中、倒れることを拒むような手と足、肩から上の怪物の頭が残るのみ。

 

「爆発剣か…」

シレイスが言う。

 

「あったり~ダブルがお得なのよ~♪」

「ばか、早くとどめを!!」

 

あ、っと思う間に、水に戻り、湖面をしぶかせるクウォリッグス。

次に現れると、完全な姿を取り戻す。

 

「クックック…とっておきというだけ、あるじゃねえか…」

構えるクウォリッグス。

「雑魚が生意気な…」

 

ギロリと、ねめ(にらみ)つける怪物!!

「ゆるさん…ゆるさんぞぉおおおおっ!!!!!」

 

圧倒的な風圧を巻き起こしながら、竜巻棒と化す。

「ふせてろ、シレイス!!」

 

シレイスが伏せたのを目の端に捉えつつ、構える…

 

爆発剣、二刀!!!!

竜巻…雷王!!!!!

 

凄まじいエネルギーが湖面を揺らす。

オリオストの時にこそ及ばないが、人間を死に追いやるには十分すぎる衝撃波が巻き起こった。

 

その風圧に必死にシールドを張って耐えるシレイス。

そんな彼が見上げる先に、

 

それはあった。

 

白目を向いて、竜巻の回転の中、吹っ飛ばされていくディエマ。

 

「そんな…」

「所詮は人…限界を超越した存在に敵うものか!!!」

 

         ~続く~