天まで吹き上げられ、落ちるディエマ。
何回もバウンドし、地に転がる。
「ディエマ!!!」
シレイスの叫び。
あたかも、こちらを見ているようなその眼に光は無い。
シド、ハージン、レナン、村の全て!!!
そしてディエマ。
失った…
失われた…
キッ!!!!!
クウォリッグスを見やるシレイス。
「う…う…うぉえ…」
言葉にならない思い…
「あぁああああああああああっ!!!!!!!」
そのはけ口を探すように響く、けたたましい叫び…
「どうした?気でも触れたか?」
ゆるさない…
「あ?」
ゆるさん!!!!
瞬間、赤く発光するシレイスの体!!!
炎のように燃え出す身体!!!
イ、イフリート…?
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
一気に燃えあがる。
しかし、人型の神獣のようなその姿に、ハージンと相対した時のような失敗感は感じられない。
「う、なんだよコイツ!!!」
危険を察知してか、水上へと逃げるクウォリッグス。
が、
火の化身がすぐさま追いつく。
モノ言わぬ神獣。
「け、お空を飛べるようになったってか?」
!!!!!!
言い終えるか言い終わらぬうちに、移動した神獣イフリートが、クウォリッグスの懐へ体当たりした瞬間、
空間ごと…爆ぜた…
ジュジュジュジュジュジュ…ジャァアアアア!!
まるで氷に熱湯を浴びせたがごとく、水蒸気が辺り一面広がる。
飛散する水の魔獣の体…
「が!!!あ?嘘だろ!!」
混乱しつつ、距離を取る魔獣。
水様体に戻ると湖面に逃げ込む。
だが、無駄だった…
ジュジュジュジュジュワァアアアアアアアッ
神獣が触れた先から、霧散する湖面!!
空間を水蒸気が覆う。
うねる波…
超常現象と言っていいほど、広範囲に及んだ。
「ハァ、ハアッ…」
息荒く、姿を現すクウォリッグス…
イフリート…
この世界で究極魔法とされる神獣化身の一つ。
その名のごとく、神の領域に達した魔導士にのみ許された、世界中の魔導を極めんとする者の憧れであり、目指す一つの到達点…
初歩のイフリートは、16話で説明したように神獣には化身せず、精霊降臨といって、一瞬力を借りる程度で、力の行使後、すぐに元に戻るはずだが、戻る気配がなく、完全に神獣に化身しているシレイス。
今のシレイスに許された能力をはるかに超えている。
過ぎたる能力…
しかし、能力の暴走とでも言う奇跡が怪物を追い詰めていく…
シレイスの勝利は時間の問題だと思われた…
「ふ、ふざけんなよ…」
湖面から戻ったクウォリッグスだが、今までと決定的に違っているのは、息切れしたような状態であるという事だ。
ディエマを葬った能力は感じられなくなっている。
「どうした?体力がかなり落ちたんじゃないのか…」
シレイスの残酷な笑み。
勝利を確信していた。
「く、なめんなよ!!」
雷王の構えを取るクウォリッグス
「ぶっ殺す!!!」
巨大な大砲のように伸びた竜巻棒が言う。
もはや豪風と呼ぶにふさわしい竜巻。
恐ろしいほどの空気の摩擦で、雷を帯びながら膨らんでいく竜巻の渦!!
まんじりともせず、手をかざすシレイスに、轟音と共に、弾丸と化した竜巻と雷が襲う!!!!
一気に解放される力という名の暴力!!!
空気爆発とでもいうべき爆発現象が襲う!!!!
!!!!!!!!!!!!!
あまりの強大な音に、鼓膜が裂けるかもしれない。
それほどの轟音が、その場所全体を貫いた!!
音の終息と共に、辺りを覆っていた水蒸気が、徐々に消えていく。
未だに収まりそうにないオリオストの作った土煙が対照的だ…
………………………
無音の時…
つんざくような轟音の後で、違和感すら覚える無音の空間。
そして、戦闘の勝者が明らかになっていく。
まず現れたのは上半身だけで、明らかに腹部から下を失ったクウォリッグス…
「雑魚の…はず…そんな…そんなはずは…」
未だ自分の必殺技が破られた事を信じられないクウォリッグスの視線の先には、凄まじいまでの炎を燃やすイフリートがいた。
「これで終わりだな…」
言うシレイスの手には、レナンが弱点だと教えてくれた球状の黒い球が握られていた。
「よせ、その球は!!!!」
焦った様子を見せるクウォリッグス…
「やはり、大事な物の様だな…」
握りつぶそうと、力を込める。
だが、かなわない…
??????????
突如として力が抜けていく
あれほど業火のようだったシレイスを包む炎が、急速に小さく、失速し、消え失せてしまったのだ…
「う…っ、そ…そんな」
もうちょっとで、
あと一歩で、
コイツを…
必死で願うも、体が言う事を効かない…
掴んでいた球が手からすり抜ける。
何度も何度も試みるが、再び球を握る事はかなわなかった…
「ふ、プババババ」
思わず、笑いだすクウォリッグス…
相当、追い詰められていた緊張感から解放された事によるものだ。
「雑魚風情にイフリート…過ぎたる能力だったなぁ…え?おい?」
高らかに響く笑い声は、湖面へと落ち行くシレイスを追いかけるようだ。
くっそぉお…
さっさと、握りつぶしておけば…
後悔の言葉など聞こうとしたから…
「ハーッハッハー!!!!!!!」
笑いが止まらぬ様子のクウォリッグス…
だが、剣撃一閃、
!!!!????
右肩を切られ、驚きの表情にとって代わる。
「き、貴様は…」
(ディエマ…)
湖面にぶつかる瞬間、諦めでしかなかったシレイスの表情が喜びに変わった…
「この球ぁ…取らせていただきます…ってかぁあ?」
瀕死には違いないディエマだったが、その表情は希望にあふれていた。
ドスッ!!!
剣で球を串刺しにしながら落ちていくディエマ…
「やったぞ!!シレイス!!!」
まだ泳ぐだけの体力はある!!
無くても絞り出す!!!
今助けに行くぞ!!!
勝利を確信し、落ちるのに身をゆだねたディエマの耳に、悪魔のささやきが聞こえた。
「クックック!!よくやったぞ!!」
倒したはずのクウォリッグスの起こした波によって、水中から救い出される二人!!
俺たちが勝ったはずだ…なんで生きてる?
大量の水と共に地面に転がり落ち呆然とする二人につきつけられたのは、あり得ない事実だった…
何事もなかったかのように見下ろす水の化け物。
「その球が弱点だ?間抜け!!お前らが何やったのか教えてやるぜ」
ニヤリとする化け物。
「これはな…湖の下の魔導爆弾を起動するスイッチさ」
「まどう…ばくだん…??」
理解するのを拒む二人。
「もうすぐ爆発するぜ。湖底に沈めた村を覆った水の侵食を防いでいた魔力の磁場がな…そう、まだ生きてたんだよぉ…お前らが救おうとしたモノ…それを自分たちで木端微塵にする…爆発でなくとも、大量の水が襲う…クック…そう、村人一人残らず死ぬんだよ。お前らがやった!!どうだ?最高の気分だろ?」
何を…言ってる?
そんなわけ…ないだろ?
うそだぁあああああああああああああああああああああああああっ…
絶望する二人の反応を確かめるように、話す化け物。
その顔は悪魔そのものだった…
~続く~
