「確かに俺たちにとってはシドは恩人だ。けれど、人を殺した事実は消えねぇ…」

寄ってきたのはディエマ。

「しかしですね…」

言い返そうとするも、言葉が見つからないシレイス。

 

「誰かにとっては、家族や知り合いを殺したにっくき仇…その事実は変わらねぇ。いや、忘れちゃいけないんさ」

いつになく真面目な表情のディエマ。

 

「戦争…一体何のためにするんだろうな…勝ったとしても、悲しみと憎しみの残る世界…そんなもののために命を賭ける価値なんてあるのか…シドの口癖だったっけ…」

 

遠い目のディエマ。

生前のシドのかかえていた苦悩を思っているのだろうか。

 

「どうかしましたか?ハージン」

 

ディエマと同じく遠い目をしているハージンに気づいてシレイスが声をかける。

すると、

 

「い、いや、何でもない」

 

平静を装うハージン。だが、内心穏やかではなかった。

クウォリッグス戦の時、戻ったとも思われた記憶。

しかし、記憶は断片的で、いまだハッキリとしたわけではない。

 

クウォリッグスが言っていたあの方とは誰の事なのか、実のところよくわかってなかった…

まるで知ってるかのように言葉がでてきた…

 

しかし、いくら頭の中でもがこうと、出てくるのは、あいまいな記憶…

いくら求めようと点と点は繋がらなかった。

 

ただ、アゼク村で見た悪夢に出てきたのと同じ人物ではないのか。

その程度の記憶…

 

ここにきて、自分の立場的なことを把握できていない事実に恐怖といってもいいような思いを感じていた。

 

もし、敵だったら…

悪意をもってこの村を目指していたのならどうする…

一度考え始めると、次々と浮かぶ負の連鎖。

 

(大丈夫…敵ではないはずだ)

必死に言い聞かせる。

 

そんな言いようのない感情がハージンを支配していたのだが、どのように言ったらいいのか、わからずにいる。

 

今現在、素性のしれない自分の支えは彼らしかいないのだ。
確かめるのが恐かった…

 

そんなハージンにいつもの調子に戻ったディエマが話しかける。

 

「わるい。なんだかしみったれた話になっちまったな。誰が悪いって話じゃない。英雄とよばれる人間も、人の悲しみの上に成り立ってるって話…ってなんか益々こんがらがっちゃうよな~いや、わるいわるい」

 

何を勘違いしているのか、ハージンとしては全く見当違いな謝罪の言葉。

しかし、恐れを抱く疑問を遠ざけるには好都合だった。

 

「ま、シドが言ってたことの受け売りなんだがよ。剣を持ち戦うってことはそう言うことだって教え込まれたもんでよ。その覚悟がないなら、剣士など目指すべきじゃねぇってな…

まだガキだったからよ…その意味もあんまし真面目に考えたことなかったけどな。シドを失った今ならわかるよ。家族同然の存在を奪ったやつへの気持ちが…」

 

「確かに…たとえ平和のためであっても、家族を奪われた人にとって許す理由にはなりませんね…」

「そうだろ?けど、俺もシドが人殺しだって言われたら黙っちゃいないだろうな…」

 

「シュッテンダールの闘争が収まり平和となったと言われていますが未だに差別や小競り合いのような衝突や内戦が続いているところがあると聞きます。その要因のひとつとして奪われなくていい命が失われたこともあるのでしょう。そうではないという意見もあるでしょうが…」

 

「どっちでもいい。俺たちが剣や魔法を極めようとしているのは、その紛争をとめるためだろ」

 

「あなたのは少し違うんじゃないでしょうか?」

「どこがだよ」

「だって、ハージンが神殺しだと聞いて血がさわいだのでしょう?」

「そ、それは…俺の剣がどの程度のものなのか試したくて…」

「ほら、やっぱり…強さを求めてしまっている…」

「うるせぇ、感情のままに火だるまになる危険をおかす奴に言われたかねぇ!!」

「そうですね…私も強さを求めてしまっている一人なのかもしれない…力の使い方を間違えた。だから消えないのかもしれませんね…」

 

シレイスの顔右側に残る鱗のような皮膚。

今一度消そうと試みているのか、添えられた右手が光を帯びる。

 

しかし、反応は無い…

 

「………………」

 

シレイスの表情が強張る。

それを見てディエマの取り繕うような作り笑いも消える。

 

だが、それは場にそぐわない笑いからの強張りだったため、間抜けな表情になっていた。

 

「わりぃ…言い…すぎた…」

おまけに、発せられた声はか細く、笛のような金切声…

 

「ぷっ」

破顔し、笑いをこらえきれない呼気をあげたのはシレイス。

 

「やだなぁ、治らない可能性もあるかもしれませんが、もしそうだとしても私は大丈夫ですよ」

 

場の空気が緊張しているのは変わらないものの、え?という感情で少し緩んだような感覚に陥る。

 

「だって、良いこともあるじゃないですか少しの間とはいえ、イフリートとして化身できていたぞって証明になるんですからハクがつくってものです」

 

微笑むシレイス。

しかし、続くジョーが放った言葉に困惑へと変わった。

 

「いいや、化身できていたじゃ、困るぜ」

 

            ~続く~