「近頃、あなたのように行き倒れていた人間が何人もいるのです。聞けば、どこかから飛ばされてきたとしか思えない遠方の方が数人いました」

 

自分と同じように、行き倒れて村で保護されていた者が、自分以外に居たことに、驚くハージンに今更ながらの、説明をするシレイス。

補足するようにディエマが続ける。

 

「どっから来たんだって聞くと、フォートリアスだと…ほんで、ここがレスカレイス領のアゼク村だって言うと、腰を抜かすほど驚くんだ。こっちだって、ビックリだぜ。西の都から、辺境の島の小さな村にだぜ?どんだけ離れたとこから来てるんだっつうの」

 

「そんなに遠いのか?」

シドに向き直るハージン。

 

「フォートリアスにこちらから向かうには、気の遠くなるような航海をしなければならない。ほぼ、ひと月の間、船上での生活という事を覚悟しなければ、たどり着けない。よほどの用事があるのだろうと聞いたが、気がついたらここに来ていたというんだ。覚えてる日にちを聞いたら一昨日だというじゃないか…」

 

「ホラを吹いているという事は…」

「着ているものや装飾に至るまで、ひと月も航海をしたとは思えないくらい綺麗だったが、わざわざ、見ず知らずの俺たちに、そんなイタズラの様な真似をするためにやってきたとは思えなかった」

 

「村には、まだいたっけ?」

「いいや、国に帰るって、それぞれの国に帰ってる。今言ったやつが一番遠かったんだが、そいつはまだ、航海の途中かもな」

 

「神の仕業だとしたら…神殺しを呼ぼうとしているのに、違うやつを呼び寄せてしまったって事になるのか…」

「そうだな…皆、屈強そうな戦士で、腕に覚えのありそうな奴ばかりだったから、それが一番しっくりくる。神は神殺しに憎しみをぶつけるために怨念とでも言うべきもので探しているのかもな」

 

「ラリスはその件について、何か言ってなかったか?」

ハージンの問いにシレイスが答える。

 

「不可解に思ってはいたようですが、そんな事は言ってなかった…悪い波動が大きくなってるから、魔力の暴走じゃないかと考えていたようですね…」

 

「神殺しを呼び寄せているなどとわかったら、調査だの悠長な事はせず、全力で阻止しに行っていたろうな?」

シドが言う。

 

「え?なんで?神殺しが来れば宝剣から聖なる地の場所を聞けるかもしれないんだろう…?」

 

「俺たちはな…でも、ラリスは神殺しは災いという考えだった…」

「災い?」

 

「あぁ、神を殺したと言われている上に、その素性や目的、性別や容姿にいたるまで、全て謎とされてきたんだ。いくら神の呪いを封印し、世界を暗黒から救ったとはいえ、伝え聞いているだけの情報しかなく、敵か味方かすらわからないのに、安易に信じるのは危険すぎるってな?」

 

「えぇ、師匠は神殺しが現れたら全力で宝剣を守ると常々言ってましたから…」

「それで、神殺しと解ったとたん、殺しにきたのか…」

「な、師匠がそんな事を?」

 

「あぁ、体が爆発するかと思ったぜ」

「…………」

「どうした?」

「やはり、あなたは間違いないのかもしれない」

「何が?」

 

「神殺しですよ…確信があったんだ。そうでなければ、あなたを殺そうと重圧魔導なんて…」

「やっぱし、あれは本気で…」

「えぇ、危なかったですね…師匠のあれで捕れた鹿肉は絶妙な柔らかさで…」

「怖い怖い…俺、鹿じゃねぇし!!」

 

「シレイスの悪乗りは置いといて、もし、神殺しを呼んでるとしたら、今何か感じたりしないか?遠くからでもわかるくらい禍々しい波動と、ラリスは言ってたんだが…」

 

シドが言うと、ハージンは目を閉じ、集中する。

しかし、

「オリオストが居た時は、すごい気を感じたが、あの時の様な、人へ殺意を向ける様な波動は感じない…」

 

ラリスにオリオストが感じると言っていた禍々しい力。

今は完全に気配が消えていた。

 

「まあ、まあ。それより、早く飯、メシ~♪」

深刻そうな雰囲気をぶち壊し、先へと促すディエマ。

確かに皆、腹が空いている。

何か食べないと倒れるというほどではないものの、

 

「確かに先立つものは必要だな」

仕方ないなという表情を見せ、ディエマの跡を追うシド。

やれやれという表情をハージンに向けるとシレイスも歩き出す。

それに続くハージン。

 

「早足でお願いしま~す♪」

 

急かすディエマだったが、皆、普通のスピードで、焦るでもなく、急ぐでもなく村に着いたのである。

 

いや…

正確には、村が存在した場所に…である

 

            ~続く~