ファン登録されて無い方は、メニューのすべて表示の横のカッコ内の数字が、ちょっと足りない293?と表示されているはずだけど、実はこの次の後編で、ファン専用記事含め、300記事達成です。
 この作品、実は300記事目に関わるなんて思いもしないで書いたものです。
 けど、300記事記念になったのは事実。ってなわけで、強引に300記事達成記念小説となってます(^^;)
 ともあれ、ここまで来れたのは温かいコメントをくれる方や、いつも訪問してくださる方のおかげです。この場を借りて、大、大だ~い感謝です!!


 

 今回の作品に求めたのは親子の信頼とは?それがテーマになってます。
 かなり、ベタで、正月には季節はずれな物語ですが、楽しんで頂ければ嬉しいです。
 あ、でも、↑このベタじゃなく、より良いという意味を持つgoodの比較級、betterです。お間違いなく。(注:偉そうに書いてるけど、英語は苦手ですよん)
ベター・クリスマスと書くべきなのに、↓だしね…(T▽T))
でも、これが気に入ったので、まんまでいきます♪

クリスマス・ベター(前編)

 

「親父は、いつだってそうじゃないか!!」

 

「偉そうに言ってるんじゃない。悔しかったら、その音楽とやらで生活出来る事を証明してみろ」

 

 狭い、十客程度の居酒屋の店内で、親子らしい40代くらいのいかにも頑固親父といった男と、20代くらいの髪を逆立てたいかにもロックかパンクといった風体の男二人が言い争いをしている。

 

 店内には二人の他に、50は近いだろうか、頑固親父よりは年上であろう女性がいるっきりだった。

 

 よくみると、頑固親父は板前っぽい服装だ。どうやら、この店の主人らしい。

 

外は暗くなりかけた頃あいだ。女性の手にのれんがある。時刻は午後5時。居酒屋が営業を開始してもおかしくない時間だった。コの字カウンターの角の置時計の横に鎮座する日めくりカレンダーは12月22日。年末に差し掛かって忘年会にやってくる客もあるだろうに、この店には怒号に近い言い争いの声が響いていた。

 

「お前の音楽なんてものはな、一瞬だけだ。振り向いてくれるのは…その後も輝き続けていられるのは、ごく一部の人間しかいねえ。その、ごく一部の人間てのはな、才能だけじゃねえ、努力もしてる…」

 

「オレだって努力してるよ!!!」

 

「そうやって、髪立てて、女の子にチヤホヤされるのがお前の努力か!!え?隆浩(たかひろ)!!」

 

「見た目だけで判断してるんじゃねえ!!人を遊び人のように言うな!!」

 

「ふん。毎日酒を飲んで帰ってきやがって!言えた事か!!!」

 

「ちがっ…それはプロデューサーの人と…」

 

「はっ!!なぁにがプロデューサーだ!!とにかく!!お前のような馬鹿息子なんかには一切やる金なんてないからそう思え!!」

 

「いつ…いつオレが金をくれなんて言ったよ!!貸してくれって言ったんだ…」

 

「はっ、無駄だ!お前らのCDなんて誰が買うものか!働かんヤツに返せるものか!!」

 

 買うものかのあたりで愕然とする隆浩…

 

「おやじ…もういい!!!」

 

 何か言いたそうにした隆浩だったが、振り切るように言うと、入り口の引き戸を開けて出て行く。

 

「もう、戻ってくるな!!」

 

 隆浩の後ろに浴びせかけるような頑固親父の声。

 

 親子喧嘩を見守っていた女性がその後を追いかけようとするが、

 

「友紀子(ゆきこ)!!」

 

 頑固親父が一喝すると、ビクッと動きを止める。

 

「で、でも正司(しょうじ)さん…」

 

「久しぶりに顔を出したかと思えば、何だ!!あんなヤツは放っておくんだ!!」

 

 ◆

 

 時刻は午後8時。日めくりカレンダーは12月24日クリスマス・イヴ。日が変わっていた。

 

 6人ほどの客がおり、その中を忙しく友紀子が動き回っていた。カウンター越しの厨房には正司がムスッとした顔で料理を作っていた。

 

「はい。エビの姿揚げ一丁お待ち」

 

 友紀子が、料理の乗った皿を置くと、サラリーマン風の客が不満顔になる。

 

「なんだ。姿揚げなんていうから何かと思ったら、エビフライじゃないか」

 

「いいえ、お客さん。これはエビフライじゃなく姿揚げですよ。一口召し上がってみてくださいな」

 

 友紀子が満面の笑みで、客の不満顔に答える。

 

「値段張る割りに小さいし。どう見たってコレは…」

 

 エビフライを口にした客の口が止まる。

 

「お、おい!!食ってみろよ!!」

 

 前の席の同僚らしい客に勧める。

 

「確かにエビフライじゃ無い!!美味いよお姉さん」

 

「あら、嫌だ。お姉さんだ何て、そんなに若く見えます?」

 

 友紀子が照れていると、

 

「何だコレ!!初めて食べる味だ!!」

 

 同僚が叫ぶように言いいながら、かじったエビフライを覗き込む。
 グラタンに乗ってそうな小さいエビと、キャベツ、玉ねぎの短冊切りらしきものと、パッと見、クリームっぽく見える生地が覗く。

 

「クリームコロッケでもないし…おや、この白いのは?」

 

「エリンギです。キノコですよお客さん。コリコリしてるのがあったでしょ♪」

 

「キノコ…全然分からなかった。それにしても、スゴイ。フライに見せかけて、出し巻き卵の様な和風テイスト。これは意表をついてるな~奥さんの案かい?」

 

「いいえ。あちらの味にうるさい大親分が考案したものですよ」

 

「へぇ。こんな繊細な味をご主人がねぇ…」

 

「ふうわり感を出すのに一番苦労して、その時はあの顔がこんなになっちゃって、もう大変でした」

 

 言いながら、物凄く怒った顔を作るのだが、どちらかと言えば、おっとりした顔の友紀子では、様にならない。

 

「そいつはいいや」

 

 滑稽な顔に客の顔がゆるむ。そこへ正司の声が飛んできた。

 

「友紀子!!明太子出し巻き出来たぞ!!」

 

「あ、はあーい!!」

 

 ムスッとした顔で、友紀子を睨む正司。だが、当の友紀子は満面の笑みでそれを受け止める。正司は睨みつけたような顔のまま、客席に背を向け、まな板で、野菜を刻み始める。

 

 と、正司の唇の片側が引きつるように上がる。どうやら、笑っているようだ。

 

 見ると、ガッツポーズをするかのように、包丁を持つ手が上がっていた。

 

 若い男と楽しそうに会話する友紀子に腹を立てたのかと思いきや、違ったらしい。

 

 “エビの姿揚げ!!当店自慢のオリジナル料理です”

 

 店内どこでも見える位置にマジックで紙に書いたものが張られている。その隅に、

 

 “ウチのパンク息子も大好物の一品です”

 

  と書かれていた。

 

 ◆◆

 

「お姉さん。お銚子(ちょうし)もう一本!!」

 

「ハイよ!!」

 

 時刻は進んで午前0時。客席は満席状態。勢い尽きる事無くせっせと動く友紀子。そんな友紀子の耳に、客の会話が飛び込んでくる。

 

「大変だなぁ…」

 

「うわっひでぇ…こりゃ助からねえな…」

 

 その声に、何事かと、ついつい見てしまう。客はTVを見ていた。

 

 TVには、車の玉突き事故のニュースが、映し出されていた。マイクロバスだろうか…道路わきのガードレールを突き破って崖下に落ちたらしかった。上から見下ろした先に見えるぺしゃんこの車体が生々しく事故の悲惨さを物語っている。

 

「ほんと、これじゃ助から…正司さん!!!」

 

 突然叫びだす友紀子。何かに気付いた様子で、訴えかける。口を覆っていた…

 

「…崖下から発見された7名はいずれも音楽グループSUNZ(サンズ)の関係者で、死者4名、重症者3名と確認されました。SUNZは、デビュー曲がミリオンヒットを記録するなど、注目を集めていた、大型新人グループで…」

 

 カラーン!!

 

 大きな音に、客が振り向くと、両手を前に出したまま、呆然とする正司の姿があった。その足元に、包丁が転がっている。
 TVに向けられた正司の目の先に、栗須隆浩さん(22)というテロップと共に、隆浩の写真が映し出された…


 

 場所は変わって、病院の診察室。医者らしき男がカルテなどを見て、何か書き込んでいる。その前に正司と友紀子の二人が座っていた。

 

 説明を始める医師。ただうな垂れ聞いている。

 

「今夜が…」

 

「そうです。心の準備はして置いてください」

 

 ◆◆◆

 

 手術中のランプが光っている。手術室へと繋がる廊下の長椅子に頭を抱えるように座る正司。その横で廊下を見つめるように友紀子が座っている。

 

「知っていたのか…?」

 

 姿勢は変わらぬまま、呟くように正司が聞く。聞き取れなかったのか、え?と聞き返す友紀子。

 

「アイツ…デビューしてたのか…」

 

 質問の意味を解し、少し考えるように間を置いてから友紀子が口を開く。

 

「半年前にね…TV見ないから知らなかったでしょうけど、TVにも出た事あるのよ…でも、まだまだだって…こんなんじゃ、あなたに言えないから黙っててくれって…言ってた」

 

 顔を上げた正司の表情にはショックが浮かぶ。

 

「エビの姿揚げに負けないくらい胸を張れる曲を作って、見返してやるんだ。だからそれまで、言わないでくれって言ってた」

 

「エビの…?」

 

「ねえ、覚えてる?」

 

「何を?」

 

「エビの姿揚げにエリンギが加わった理由…」

 

「あぁ…隆浩だ。アイツのおかげで完成したようなものだ」

 

「そう、毎日遊んでくれてた父親が揚げ物ばかりして、いつになっても相手にせず怒鳴るものだから、癇癪(かんしゃく)を起こした隆浩がスネちゃって…ちっちゃな隆浩には店の経営が傾きかけてるから、頑張ってくれてるんだなんて分からなかったものね」

 

「あん時は正直参った。煮詰まって、気分を変えようって一緒に遊ぼうと思ったら、口もきいてくれなくて。好きだったキャッチボールしようかって言っても無視。どうしようかって思って謝ってたら、突然エリンギ持ってきて、バターで炒め始めて…」

 

「まだ5歳だったのに、それこそ見よう見真似よね…」

 

「そうだ。正直、危なっかしくて、でも、何か様になっててよ…」

 

「もう…また怒らせたいの?後で聞いてビックリしたのよ」

 

「後にも先にもあんな怒った友紀子は見たこと無かったな。」

 

「本当よ~自分より背の高いところに焼けたフライパン持たせるなんて何考えてるのって思った…でも、そのおかげで完成した…」

 

「父ちゃん“エリンキのいたまもの“なんてどう?なんていっぱしの口叩きやがったっけ…」

 

「あの子…何にも言わなかったのに分かってたのね…」

 

「それを言うなら…エリンギの炒め物だってんだ…」

 

 正司の声が詰まる…

 

「正司さん…」

 

「どうしてこんな事に…」

 

 クシャクシャになった顔を隠す様に両手に顔をうずめる正司だった…

 

    ~後編に続く~

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