第七十七話


「ククク…無様だな!!」

 倒れたリヴンに勝ち誇る悪魔。

「どうして…!!!」

 溢れ出る血が止まりそうに無い傷口の痛みに耐えながらリヴンが吐き出すように言った。

「ふふん…何故、ご自慢の剣が俺では無く、貴様を狙ったのか?」

 ニヤリ…笑いを堪(こら)えきれぬ様子の悪魔は長い間を置きつつ、

「…知りたいか?」

 囁くように言った。明らかにリヴンの反応を楽しんでいるようだ。

「アーシュは、俺を上手く出し抜いたと思ったようだが、この俺が何の担保も無く易々と、その剣を渡すと思ったか!!ようく見てみる事だ。その剣の柄に輝く魔晶球をなぁ…」

 言われて、傍に刺さったままのウォール・スレイドへ這いずる様に近づくリヴン。

「こ、これは…!!!」

 柄に輝いていたのは、エメラルドブルーの宝石だったと記憶しているが、それは今アーシュを覆う悪魔の炎のごとく、黒く濁っていた…

「ククク…やっと理解したか?なあに、簡単なことよ、その剣を司る、魂とも言える部分に我が気を与え、コントロール出来るようにしたまで…剣は忠実にお前の声を聞き、行動したが、その動きは我が手中にあったというわけだ。来るなと願うだけで、簡単にこの身を避けていきおったわ!!よもや主である貴様を傷つけてまで避けてくれるとは、俺様自身、予想もしなかったぞ!!全ての邪悪を打ち破る破邪の剣。ウォール・スレイドが聞いて呆れるわ!!悪魔の気を祓(はら)えないばかりか、忠実な僕(しもべ)と化した訳だ!!アァアッハッハハハハハッ!!!」

 高らかに響く狂声…剣に掴まるようにして身体を支えているリヴン。動きそうに無い血まみれの足を見て、

(もうダメだ…)

 諦める過去の僕。ふと、優莉を見る。

 相変らず、どこを見ているのか判らない。

 こんなはずじゃなかったのに…

(何てこった…)

 結婚を控えて胸躍らせていた数日前を思い、過去を振り返る。

 幸せが二人を包むはずだった…

 笑顔で居られたはずだ。

 それなのに…

(何で…何でだよぉ──っ!!!)

 自分たちの運命を呪う…何故自分たちが選ばれたのか!!!

(こんな奴らに目をつけられなけりゃ、今頃幸せだったよな…)

 正直、この時ばかりは、リヴンやアーシュを恨んだ…

(一体何なんだ!!あんたらは!!!)

 決まってる…炎を吹き上げているその異形の物体を見て思う。

 本物の悪魔…

(居る訳無い!!!お話の中だけの存在だろ!!)

 何度も何度も自分の頬をつねる。今更ながら夢であって欲しいと思った…

 しかし、目の前の悪魔は消えないし、ベッドで目が覚める事も無い…

(殺される…のか?)

 リアルすぎる恐怖に、思わず震えが走る。

 そして、それが合図になったのか、悪魔がこちらを振り返る。

「ククク…怯えているのか?…いい表情だ人間…」

 そういって、しばらく僕の顔を見ている悪魔。僕は凍ったように固まった…



「そうかそうか…幸せを奪われて悲しいのか…ククク安心しろ。二人まとめて殺してやる。あの世でせいぜい幸せになるといい…どうだ?俺は優しいだろう?」

 ほくそ笑む悪魔の持ち上げた手の指先の炎が集約していく…

「ひぃっ…!!!」

 殺意を目の前にちらつかされ、思わず出る声…興奮して息と唾を飲み込むと、笛なりのような音が出るのだと初めて知った瞬間だった…

「待たんかぁ──っ!!!」

 絶望し、意識が遠のきそうになる中、不意に響き渡る声…

 リヴン?見ると、剣を杖代わりに立ち上がって居る。

 振り向いた悪魔の手から光が消えていた…ホッと溜息が出る。

「なんだ?死にぞこないか…」

「ふ…ワシはまだ死んでおらんぞい…」

 シュバッ!!!

 言うが早いか、リヴンはまたしてもウォール・スレイドを放った!!!そして、先ほどのように視界から消えうせる。

「……!!!」

 引きずるようだった足。もう動けないはずのリヴン!!これには悪魔も一瞬驚く。

 だが、またしてもかわされる剣。宙空に舞う!!

「馬鹿の一つ覚えが!!!」

 そう言いつつ、今度は後ろに飛んで体勢を崩さずに避ける悪魔。

(ど、どうするんだ??避けられるぞ)

 そう思った瞬間、

「えっ──!!?」

 悪魔の背中からリヴンが現れ、凄まじいスピードで回し蹴り一閃、蹴り飛ばす。背中から押された体勢で、ふっ飛ぶ悪魔。

 そこに、落ちてくるウォール・スレイド!!

(き、決まった!!!)

 思わず拳を握る過去の僕!!

 だが、あっさりと避けられ、ウォール・スレイドは、悪魔の横をかすめるだけだった。

「くはは、考えたな!!今のはヤバかったゾ!!」

 ひらりととんぼ返りをうって体勢を整える悪魔。しかし、悪魔が目を向けた先にリヴンは居なかった。

「!!?」

 どこだ?悪魔が思う間も無く、その後ろを取り、羽交い絞めにするリヴン。

 見ていたので判ったが、ふっ飛ばされた悪魔のその先へ、更に上のスピードで先回りしていたのだった。

 そして、右足だけで、信じられないほど宙高く舞い上がる。血まみれの左足は神経を切断されたかのごとく、ただ、ぶら下がっているだけだった。

(そんな足であれ程の動きを!!)

 その時は何が何だか判らずに見ていたが、改めてリヴンの精神力の強さに驚かされる。

 気絶してもおかしくない程の出血量だったのだ…

 後から聞いて知ったが、跳躍力を飛躍的に上昇させる魔法のブーツを履いていたから出来た動きだった。

 とはいえ、その精神力は人の域を超えてると言っても過言では無かった。

(やらせはしない!ワシが守るんぢゃ!)

 時折聴こえる声…

 彼を動かしたのは後悔ともしらず、僕はただただ、驚くばかりだった…




「く、くそっ!!離せ!!」

「この高さでは、悪魔といえど借り物の身体!!ひとたまりもあるまい!!!」

 悪魔の炎にその身を焦がしながら微動だにしないリヴン。

「き、貴様──っ!!」

 叫ぶ悪魔の顔!!その顔が一瞬歪んだ…

 ズズゥーーンッ!!!!!

 地鳴りの様な轟音とともに地面に激突する!!

 割れた大理石の床が舞い散る。

(か、勝ったのか!!!)

 期待の目で見る僕…だが、見やる先には、リヴンしか見えなかった…

 異様な角度で曲がるリヴンの首…

 5メートルはあろうかという高さから落ちた衝撃は計り知れない…

「し、しくじったワイ…」

 倒れるのが、リヴンだけだと判ると急いで駆け寄る!!

 けれど、それは叶わなかった…

 空中に再び現れた悪魔が攻撃したからだ。

 降り注ぐ炎に次ぐ炎…怒涛の攻撃がリヴンを襲った…

「や、やめろぉおおおおお…!!!!」

 気がつくと叫んでいた!!

 ピタリ…悪魔の動きが止まる。

 どうしようもない怒りがこみ上げたから叫んだ…だが、ぎらつく赤い目ににらまれると、その怒りは急速に冷えていった…

「…今やめろと言ったか人間??」

 恐ろしくて声が出無い…目を見開いたまま、

(死ぬのか…??)

 そんな考えがよぎっていた…

「人間風情が!!!」

 悪魔の指が僕を指し、閃光がほとばしった!!!

 終わった!!!!

 誰が見ても終わった…はずだった…

 だが、心臓を貫くはずだった閃光は、僕の手に光り輝く剣によって跳ね返されてしまっていた…

「な、何だと!!!」

 驚く悪魔。急いでリヴンを見る。

「邪悪な存在…決して許す訳には行かぬて…」

 そこには金色の鎧をまとったリヴンの立ち上がる姿があった…銀と青の二つの瞳が雄雄しく燃え上がっていた!!


                ~第七十八話に続く~

 第七十八話はこちら⇒http://blogs.yahoo.co.jp/riarities/24730167.html?type=folderlist