シーン22 死体の山
 死臭が漂うような黒々とした画面に、倒れた人の手足が重なり合い、死に苦の表情を浮かべた顔。所狭しと並んでいる。
 血が乾ききったような銃痕。それを確かめる大樹達を映しながら、大樹の言葉が語られる。
大樹【M】「僕らが最初に目撃したもの…それは、兵隊では無かった…糸洲に暮らしていたであろう人々だった…銃痕を見れば、逃げる後ろから撃ち込まれたもので有るのは間違いなかった…抵抗するでもなく…武器も何も持たない逃げ惑う人達を…銃ばかりでは無かった…追い詰められ、自ら、包丁で首を切った人も居た…無力に命を奪われた人々…そこは戦争がもたらす悲劇の縮図であるかのように、凄惨を極めていた」
北山「い、糸洲壕は?」
 愕然とした様子の北山。
監視兵B「市民がここに居るのは解散命令によるものと思われます。恐らく、壕はすでに…」
北山「ぬぅぬぬ…おのれぇ~~~!!!」
 バン!!と、地面に両拳を叩きつけるように膝から崩れる北山。しばしの沈黙。
北山「お、俺たちはこれからどうすれば…」
 途方にくれたような北山の言葉に、皆がうなだれる。
 和宏の足を見る大樹。苦渋の表情の和宏。

 シーン23 山岳地帯。
 放心したように、動かない人々。その様子を眺める大樹。和宏と目が合う。何かを言おうとする和宏。
大樹「なんだ?カズ?」
 もごもごと口を動かす和宏。やっとの想いで声が出たという様子。
和宏「すいません。少尉…あそこまで、お願い…できますか…」
 遠く離れた岩棚を指差している和宏。
大樹「なんで?ここでいいだろう?」
和宏「ここじゃ…ダメです…」
 必死に訴える表情。決意に満ちている。
大樹「カズ…まさか!!ダメだ!!」
和宏「もう…つかれました…糸洲まで、来れて…もう…十分です…やす…ませて…」
 言いながら、大樹の腰のポーチに手を延ばす。北山や、周りの者が、遠くからボーっとした様子でそれをジッと見ている。
 ジーっと和宏を見る大樹…今にも死にそうな和宏。
和宏「べ、米兵にやられた…き…傷で死にたくない…」
大樹「カズ…(涙声)」
和宏「に、日本人の、ほ…誇りを…」
 うなだれて、聴いているだけの大樹。涙を堪える。
大樹「わかった…カズ…もう、いいから…」
 和宏の肩を抱き、指定された岩棚まで連れて行こうとする。
 喜びの表情を浮かべる和宏。
大樹【M】「その表情をまともに見れなかった…一緒に笑顔を浮かべてしまいそうだったから…やっと死ねる。そんな事を一緒に喜ぶ気にはなれなかった…」
 岩棚へ歩く大樹と和宏。追うものは誰も居ないと思わせるくらいの間を後ろから引いたカットで。
結衣「ちょっと!!ドコに!!」
 無視して歩き続ける大樹。
結衣「待ちなさいよ!!」
 追いつく結衣。
結衣「今は休む時でしょう。こんな怪我人を動かして!!あんた、何考えてるのさ!!」
大樹「うるせぇ!!子供は引っ込んでろ!!」
 この声にひるんだ様子を見せる結衣。それでも決心するかのように大樹を睨みながら言う。
結衣「私は手伝いで、医者じゃないかもしれない!!でも、この人は患者なの!!その患者の容態を悪化させようとしてるのを黙ってみてる訳にはいかない!!」
 無視し続ける大樹。
和宏「結衣…ちゃんって言った…かな…?ありがとう…でも…もう…いいんだ…」
結衣「な、何が?何がいいのよ!!」
和宏「僕は…もう、長くは無い…だから…」
 ハッとして和宏を見る結衣。
結衣「な…何を考えてるの!!い、言ったでしょう!!糸洲に着いたら手術するって!!まだ手術しても居ないのに…」
 和宏が力なく手を延ばして、結衣の言葉を制止する。
和宏「もう…いいんだ…」
結衣「よくない!!私はあなたを助けたいの!!」
大樹「ごちゃごちゃ、うるさい!!ガキはすっこんでろって!!」
 キッと大樹を睨みつける結衣。
結衣「あなたこそ黙っててよ!!」
 和宏に向き直る結衣。
結衣「ね、ねえ?あなた、恋人は?」
 大樹と和宏は面食らったような表情。
結衣「あ、居ないでしょ?(涙を浮かべた笑顔で)わたし、なってあげてもいいよ?だから、死ぬなんて言わないで!!」
 必死な形相の結衣。
 呆れた表情の大樹と和宏。周囲も同じような視線。少し間が開く。
和宏「ははっははは…(堪えきれない笑い。でも、声が出ないような笑い)」
大樹「カズ?」
 笑い終えると和宏は、結衣を見て、
和宏「やさ…しいな…キミは…」
 ジーっと結衣を見つめる和宏。首を振る。
 何か言いかける結衣。遮るような和宏の言葉。
和宏「有り難う…けど、もう…十分だよ…」
 結衣から視線を外し、大樹を促す。岩棚へ歩き始める。
結衣「どうして…」
 膝を落としてしまう結衣。

 シーン24 和宏の死。
 岩棚の陰。皆が集まっている方を見る大樹。ポーチから手榴弾を取り出し、見つめる。躊躇う様子を見せる。
和宏「少尉…どうですか…」
 顔を向けるが、答えるまでに間を置く大樹。
大樹「あ…あぁ。ここなら、もう見えないだろう…」
和宏「そう…いよいよか…」
 溜息をつくように発せられる和宏の言葉を聞きながら、手榴弾をジッと見据えている大樹。
和宏「少尉…」
 ビクッとする大樹。苦々しそうに手榴弾を見つめ、思い切ったように、和宏の前へ差し出そうとするが、和宏の言葉に、その手を止める。
和宏「最後に…お願いが…」
 軍服のポケットから、赤茶けた封筒を取り出す和宏。
和宏「(差し出しながら)これを、母に…」
 受け取りながら、頷く大樹。目に涙が浮かんでいる。
大樹「必ず…」
 頷き、ニコリと笑う和宏。
大樹「すまなかった…」
 え?と驚く和宏。
大樹「本当なら、もっと早く楽になれたのに…却ってお前を苦しめてしまった…」
和宏「と、とんでもない…僕はこの数日間…生きてて良かったと思います」
 ハッとした様に和宏を見る大樹。
和宏「さっきの女の子…必死で僕の命を気遣って…今の世の中…まだあんな子が居た…それがわかっただけで…よかった」
 消え入りそうな声。大樹の表情が歪む。
和宏「北山中尉の言ってる、良い世の中…本当に…やってくると…いいですね」
 言い終えながら、手を差し出す和宏。放心したように手と和宏の顔を交互に見る大樹。和宏が頷く。
 崩れてしまった顔を拭い、手榴弾を受け取った和宏の手を両手で握る大樹。
大樹「よく…頑張ってくれた…」
和宏「お元気で…無事に本国へ…帰れる事を…願っています」
 頷くと、振り切るように、背を向け走り出す大樹。
 疲れた表情に微笑を浮かべる和宏。手榴弾のピンを引き抜く。
 爆発。
大樹【M】「こうして入隊以来、共に戦場を駆け抜けた友と永遠の別れを告げた…」

 シーン25 ジャングル(昼)
 うっそうと生い茂る、密林の中を19名の団体が歩いている。
大樹【M】「糸洲壕への道を断たれた僕らは、一旦、北の与座岳へと引き返す事にした。糸洲壕を目指しての数日間、何時敵が攻めてくるとも知れぬ連日の緊張と、戦い続けていた人々に、疲労感が募る」
 行軍の列からはみ出し、おばばが倒れる。
おじじ「大丈夫か、ばあさん!!」
結衣「おばば!!」
 急いで駆け寄る結衣。
おばば「ちぃっと眩暈がの…」
 言う傍で、兵士Dが覗き見るようにしながら、言う。
兵士D「ちっ!!これだから年寄りはよぉ…」
 駆け寄る医者と大樹。
大樹「ばあさん。大丈夫か?」
おばば「え?あれま~少尉さんでねえか?」
 睨むように大樹を見る結衣。
おばば「スマン事です。こっだらとこ、慣れんもので、眩暈がして、足踏み違えて、樹の根っこにぶつけてしまったさ」
 おばばの足を診る医者。触ると苦痛の表情を浮かべるおばば。
医者「これは、今踏み違えたんじゃないね」
 俯くおばば。
医者「(大樹に向かって)暫く安静が必要です」
大樹「中尉!!」
 直ぐ傍で見守るように見ていた北山が、頷く。
大樹「みんな、見てのとおりだ。すぐ、休む場所を確保してくれ!!」
兵士D「えぇ!!こんなところで、ですか…ばあさんは誰か担いでいったら、いいんじゃないですか?」
 ふぅっと息を付き、周りを見渡すが、結衣以外、皆目を合わせようとしない。
大樹【M】「ここ数日、飢えに苦しみ、ろくな物を食していない僕らの中に、そんな体力のあるものは居ないと思った…」
大樹「見てのとおり、皆、疲れている。お前もだろう?とにかく、各自の体力が戻るまで、ここで待機する」
兵士D「中尉~」
北山「聞いての通りだ。みんな、紫門の言うとおり、休める場所を探してくれ」

 第5編に続く