「とりあえずその、南方(みなかた)先生呼んでくるよ。おケイさんは優莉(ゆうり)を見てて」
優莉を放って置く訳にはいかない。おケイさんを見てそう言う。
「そうね。私見てるから、貴璃斗(きりと)君だけで聞いてきてくれないかしら…」
「そんな…おケイさんも聞かなくちゃ…」
もうすっかり安心しかけていたが、やはり、おケイさんの優莉への不安は消えないみたいだ。
「勿論…聞くわ。でも、怖いの…」
「おケイさん…」
「先に聞いてきて…貴璃斗君が戻ってきたら、私にも聞ける気がする…」
頭を抱えるおケイさんは小刻みに震えだしていた。
「予想はしてる。何を言われるか解ってる。でも…でも…医者の口からそれを聞くのが怖い…言われて冷静でいられる自信が無い…」
「わかった…まず僕が聞いてくるよ…」
おケイさんの気持ちが痛いほど解って、僕はそう答えるしか無かった…僕だって同じ気持ちだ。あの言葉が無ければ、僕だって臆病なままだったかも知れない。
医者は諦めないと言った。それだけが僕を支えている。
医者は諦めないと言った。それだけが僕を支えている。
「貴璃斗君は怖くないの…?」
「あぁ、僕は信じてる。諦めないって言った医者の言葉をね」
できるだけ穏やかに言ってみる。少しやせ我慢的な気持ちも、あるにはあったんだ…
「強いね…」
力の無い言葉。僕は、意識的に笑顔を保ちながら言う。
「おケイさんも信じて…」
「え?」
「医者を信じないって事は優莉が元気になる事を信じないのと同じだよ…」
ハッとした顔で、僕の顔を凝視するおケイさん。暫く何かを考えていたが、
「待ってるよ。良い報告…」
おケイさんは少しだけ笑みを浮かべて、頷いた。心配ではあるものの、医師の説明を聞くことで、何かを言ってあげられるかもしれない…
そう思って、握った左手を突き出して親指を立て、おケイさんに、合図すると、僕は部屋を出た。そのまま斜め向かいのナースステーションに向かう。
各階に在ると思われるその部屋は、奥に見えるナースコールの大きな表示板以外は普通の会社に見かけるような事務所と言っていい感じの部屋だった。部屋には二人の男性の看護師がいる。狭苦しく並べられた机の上のパソコンで何かを入力していた。患者のデータだろうか?
そう思って、握った左手を突き出して親指を立て、おケイさんに、合図すると、僕は部屋を出た。そのまま斜め向かいのナースステーションに向かう。
各階に在ると思われるその部屋は、奥に見えるナースコールの大きな表示板以外は普通の会社に見かけるような事務所と言っていい感じの部屋だった。部屋には二人の男性の看護師がいる。狭苦しく並べられた机の上のパソコンで何かを入力していた。患者のデータだろうか?
「すいません」
声をかけると、一人がこちらを向き、歩み寄ってくる。隣で作業を続ける看護師より若い。
「どうされました?」
落ち着いた声で聞いてくる。
「あ、407号の織野(おの)と言ってもらえれば、わかると思うんですが、南方先生を…」
「少々お待ち下さい」
丁寧な対応。若いながらもしっかりしている。
「今、織野さんがいらして、院長を呼んでいますが…」
院長だって?そんな偉い人だったのか?院長が直々なんて、優莉の置かれた状況はそんなに深刻なのだろうか?いや、たまたまさ…
「はい…えぇ、わかりました。そのように伝えます」
そう言って若者は通話を終える。
「南方からなんですが、院長室で話がしたいとの事ですが、宜しいでしょうか?」
「わかりました。で、どちらに?」
「そちらのエレベーターから、二階に降りていただいて、そのまま真っ直ぐ進みますと、二階のナースステーション、院長室とあります」
有り難うと言って、エレベーターに乗る。
「院長か…」
僕は、その事に凄く不安を覚えて、色々思いをめぐらせる。おかげで階指定のボタンを押し忘れた。扉が開いた瞬間、通路ではなく、見覚えのあるホールが広がっているのにも気づかずに、待っていた人と入れ違いに外に出る。
閉まる扉の音で、ふと我に返り、間違った事に気づくが、もう遅かった。しまったと思う僕に、忘れようにも忘れられない、懐かしい声が聞こえる。
閉まる扉の音で、ふと我に返り、間違った事に気づくが、もう遅かった。しまったと思う僕に、忘れようにも忘れられない、懐かしい声が聞こえる。
「あなたねぇ…いくら職務だからって、軽々しくレディの体に触れないでと言ってるの!!」
「で、ですから、受付を済ませてからでないと…」
「ちょっと!!五十も過ぎたババァが何を言ってるんだと相手にもしないつもり!!私は、あなたが謝るのが先だと言いたいのよ!!」
怒鳴るようにして、さっきの警備員にくってかかるのは…母さんだった。