一時間後、彼女の家の前で、車を停車させると、優莉(ゆうり)はドアを開けながら、リヴンに言った。
「それじゃ、リヴン。貴璃斗(きりと)の事、頼むわね」
嫌そうなリヴンに、優莉は続ける。
「私はもう、大丈夫。お母さんも何とか誤魔化せてるみたいだし。貴璃斗は初めてなんだから、ちゃんと付いててあげて。私にしてくれたみたいに」
付いて?不思議そうに見る僕に、優莉が訂正する。
「勿論姿を消してだけど…」
僕が納得するのと同じくらいに、しょうがないのうと了解する鳥オバケ。
「嫌なら来なくて良いんだぜ」
嫌々かよと思った僕は嫌味を言った。
「そうはいかん。こちらにも都合があるでな」
意外にも、反発しなかったリヴンだった。
意外にも、反発しなかったリヴンだった。
「じゃあ…こう言うのも変だけど、頑張って貴璃斗」
ドアを閉め、手を振る彼女に何の違和感も持たずに手を振り返して車を発進させた。
「来しなは、駅だったのに、帰りはキチンと送るんじゃな」
リヴンが当然の質問をする。
「あぁ、彼女が嫌がるんだ。家に来てもらうと高慢な女みたいで嫌だって…それに、駅で待ってる方がデートっぽくって良いんだってさ。最初は何度も言ったんだぜ。迎えに行くって…それでも嫌なんだとさ」
「ほう、彼女らしいのう…」
「だろ、そういう、控えめなくせに頑固な所も可愛いよな」
「どういう切っ掛けで、付き合うようになったんぢゃ?」
”?”戸惑う。さっきまでヤな奴と思ってる相手に、何でこんな事…
「教えなきゃ駄目か?」
「…嫌われとるのは知って居るよ。お主をそんな目に合わせた奴の仲間なんぢゃから…癖でのう。毎回、聞く事にしておる」
癖だぁ?理由にもならねぇ!
「変な鳥だな…」
「フ…まぁ、そう言わずに教えてもらいたいのう…」
能力を行使すれば、聞きだせるはずなのに、リヴンはそうしなかった。たぶん、本音で語るのを望んでいたからだろう。アイツ…今頃は幸せを掴んでいるんだろうか…
その時は、答えるのが嫌で、解っていながら、次のような質問をした。アイツが幸せを分けてもらおうとしていた事に気付いていたら、こんな意地悪はしなかったろう…
「じゃあ、こっちも教えてくれよ。あんたは何者なんだ?」
一瞬詰まるリヴン。
「ワシか…さっきも言ったように…」
「言えないなら、こっちも願い下げってとこだな」
「つれないのう…」
それっきり僕の家に着くまで、会話は無かった。
30分後、家に着いたものの、車から降りれずに考え込む。胸はあんまり無いから誤魔化せそうだが、この声だ。明らかに元の声と違う。
「参った…声が変わって、もはや別人だ…女言葉話して、声だけ聞いたら、女に間違えられる位にまでなってやがる」
考えの中だけのつもりが、声に出てしまっている事に僕は気づかないでいた。
「こうなったら、いっその事、声帯手術受けた事に…でも、なんで!?……」
真剣にブツブツと独り言を言い続ける僕に、鳥が声を掛けた。
「オイ、オイと言うに…あんまり独り言を言って居ると怪しい奴に見られるぞ!」
その声で我に返る。周りを見ると、僕のいる駐車場から真っ直ぐ伸びる通りの向こうで、チラチラとこちらを見ているオバちゃん連中に気づく。
恥ずかしくて、口元をハンドルに隠すようにしてジジ鳥に言った。
恥ずかしくて、口元をハンドルに隠すようにしてジジ鳥に言った。
「う、うるせぇな。僕の考えてる事がお前にも伝わるように、態々(わざわざ)声に出してやってるんだろうが!」
「ぢゃったら、結果だけ話せい。弱音ばかり聞きとう無いわい」
「弱音も吐きたくなるわよ」
「うぇ…気色悪い。男から女の声は、何度見ても不気味ぢゃ…頼むから女言葉だけはよせ…う…」
てめぇの方がよっぽど気色悪ぃぞと思いつつ、
「ハッキリ言ってくれる!」
悪態をつきながら、車からやっと出たのだった。
悪態をつきながら、車からやっと出たのだった。
「どうした?やっと行く気になったか?」
車内のリヴンが聞いてくる。
「クヨクヨしてても仕方ないからな!一か八か入ってみるのさ!」
「ほう…男前に見えるぞ、今の言葉」
「嫌味はいいから、さっさと失せろ、てめぇを連れて行く訳には、いかないんだからな!」
「ほいほい、悪かったのう…消えてやるワイ!」
かき消すように消えるリヴンを確かめて、振り向いた瞬間、アッ!!と気がつく。さっきのオバちゃん達が指を差して見ていたのだ。僕が気づくと同時くらいに、路地に隠れられてしまう…
「完全…変人扱いされるな…」
ガックリしながら、玄関に向かう。
ガチャッ!!
鍵を回し、ノブを引く。扉を開けつつ思った。
(自分の家なのに、メチャクチャ緊張するなぁ…)
果たして、リヴンや優莉の言う通り、大丈夫だろうか?初めて乗ったジェットコースター以来ではないかという緊張を覚える僕だった…