「嘘じゃあ無いだろうな…笑って出て来たあんたは、この状況を楽しんでいるようにしか見えなかった…!」
僕は、そうじゃないと解っていながらも、まだ、どこかでリヴンの能力であれば…と願ってそう言った。手が届かぬところで笑っている暗黒の支配者よりも、目の前にいる鳥の能力であった方が良いに決まっていた。だが、リヴンは本当に申し訳無さそうに、こう言っただけだ…
「すまぬ…本当に…」
やはり、解りきった事だった。コイツの声には、嘘偽りが無い。呪いをかけた張本人を突き止めようとすれば僕らは二度と元の体に戻れないのだ…
「本当にお前じゃ治せないのか?」
「何度も言わせるな…」
鳥の態度に、もう二度と口にすまいと誓う。
「ねぇリヴン…教えて頂戴。今私達がこうなってるのは、私達の愛がそんなに薄っぺらなものだというの?」
だいぶ落ち着きを取り戻した優莉(ゆうり)が言った。
「さあの…ぢゃが、そちらの、お互いに対する想いが揺らいだのは確かぢゃろうて…」
「良いわ…私達の愛が本物であると証明すれば元に戻れるのね?」
「あぁ、審判者がそう判断すればの…」
どこか、哀しげな声のリヴンの答えだったが嬉しそうにする優莉。けれど僕は違った。
「冗談じゃねぇ!!何が真実の愛だ!!結局は、その審判者とやらの好みじゃないか!!」
「それだけで終わらせられるかの…その審判者は愛を語れるお人ぢゃよ…」
苛立った僕の言葉にも淡々とした態度を崩さないリヴンに、更に苛立ちを募らせた僕が、感情を爆発させそうになったのを、優莉が遮る。
「貴璃斗(きりと)!私達…お互いに好きだったよね?」
「あぁ、好きさ!今でも!!…多少戸惑ってるけれど…」
僕の言葉に満面の笑みを浮かべる優莉。
「じゃあ、やってやろうじゃないの!!私もあなたの事を変わらず好きだよ!元に戻りたい!!」
少し苛立っていた僕には、この言葉を素直に受け入れられなかった。何でそんな簡単に言える?
「僕だって戻りたいさ!!でもどうすれば…!!僕らの気持ちは今言った通りのもののはずだろう?ならどうして戻れないのさ!!」
彼女の気持ちを崩す僕の言葉に、怯えるような目で見る優莉。こんな事だから戻れない事に何故気付かなかったのか…この時の僕には知りようが無かった。自分が発した言葉通り、信じているものが崩れている事に動揺していた…
「違うから戻れぬのぢゃ…」
追い討ちをかけるリヴンの言葉。苛立ちを爆発させる。
「何が!!戻すつもりが無いからだろう!!」
「おぬし、それで本当に彼女を想っているといえるのか…」
「何…!!」
「今のおぬしを見るに、わけの解らない事に巻き込まれた。何でこんな体になっちまうんだ。自分は不幸だ。という考えしか伝わっては来ない。彼女の気持ちを考えていると言えるか…?」
…!!図星だった僕には何も言えなかった。自分の不幸ばかりを呪っていた。
「やってやる。彼女はそう宣言した。その一言にどれだけの想いが込められているのか…もう一度それを考える事ぢゃ…」
「ちっくしょう!!何で僕らなんだ!!来週結婚するんだぞ!!」
心の中が乱れ、被害者としてしか対抗する言葉も無く、自分の間違いを覆い隠すように僕はただ怒鳴っていた。そんな僕の様子に慌てる風も無く、奴は淡々とした口調のままだった。
「だからこそぢゃ。その様な状況の、お主たちだからこそ解る事があるんぢゃ」
「僕らには関係なかった…あんたらが余計な事をしなければ…」
最後まで言わせずリヴンは僕の言葉を制する。
「果たして、この先お主が幸せに結婚生活を送れたのか…ワシからすれば疑問ぢゃよ」
「何だと!!」
益々動揺する僕の心…こんな事…考えられなかった。確かに幸せな生活を送れたはずだろう…?なのに何でこんなに揺れ動く?それ以上返す言葉が見つからない…
「幸せとは常に影と隣り合わせぢゃ。自分が幸せであると気づいた時、それを失うんじゃないかと不安になる…疑念が生まれ、事あるごとに、相手の気持ちを確かめるようになる。一方的な気持ちに耐え切れず、やがてどちらも素直になれずに崩壊する事が多いようぢゃ…あくまでもワシが見てきた例にしか過ぎぬが…ぢゃが、そこで素直にさえなれれば、希望はある。そうは思えぬか…」
「何が言いてぇんだよ?」
「つまり、そちは先程まで幸せの絶頂にあった。ぢゃが今、彼女は変わり果て、その幸せの象徴は失われつつある…そんな中、そちは何を想うかぢゃ。自分の気持ちは変わらぬままか?逆に彼女の気持ちは変わってはいないか?そんな疑念の中、自分の気持ちを正しい方向に導くことが出来るのかを言いたいんぢゃよ。迷っておるのぢゃろう?」
ドキっとするリヴンの言葉。そんなはずは…無い。僕の気持ちは?揺るがないものだったはずだ!だからプロポーズの時だって…!!僕が動揺しているのを見て、固まっている優莉。何か…何か言わなくちゃ…
「僕らは…結婚…するんだ…」
”?”という表情のリヴン。優莉。それぞれの顔を確かめずにはいられなかった。けれど、優莉と目をあわす事が出来ない?……違う!僕は優莉を誰よりも幸せに…!!自信ならあったんだ!!こんな体でさえなければ!!!!!
「結婚を決めたのは二人のお互いを愛するという気持ちだ!!わけの解らない実験に巻き込むな!!」
僕自身の叫び声と共に、静まり返る車内…気がつくと掴めなかった鳥オバケを掴んでいた。だが、それに驚いた風も無く、奴は笑い出した。
「ふふふ…ふぁあっふぁっふぁ!!!面白い事を言う。性別が入れ替わったぐらいで揺らぐ気持ちが愛とな?面白い…くっく…面白いのぉ」
余裕シャクシャクといったリヴン…
「てめぇ…もし好きになった女がオカマだったりしたら、どんなにショックか………」
感情だけで、とんでもない事を言った…僕のすぐ隣に今にも泣き出しそうな彼女の顔があった…今の彼女にとって、余りに残酷な言葉…
「い、いいわ…つ、続けて…」
震える声…悲しみ、ショック…様々な波動が感じ取れる…
「続けなさいよぉ~~~~~!!!」
今度は苛烈な彼女の叫び声が車内に響いた…僕は俯き、黙る事しかできない…情けなかった…結局僕は、自分の事しか考えていなかった。思いやる事を忘れていたのだ…
彼女の為なら何だって出来る。彼女の事を考えているだけで幸せ。そう思っていた。でもそれは全て自己満足にしか過ぎない。本当の意味で彼女との事や未来を考えていたと言えるのか…
彼女の為なら何だって出来る。彼女の事を考えているだけで幸せ。そう思っていた。でもそれは全て自己満足にしか過ぎない。本当の意味で彼女との事や未来を考えていたと言えるのか…
彼女の為に何ができるのか?
沈黙が支配する中、僕はようやくその考えに辿りついたのだった…