■第三十四回

「聖(さとし)?どうして聖の番号に…」

 驚きを隠せない徹平は、思わず呟くように言っていた。発信時間は、昨日、徹平が電話を受けた後ぐらいになっている。

「ほう、やっぱり知り合いか?」

 米本(よねもと)が言った。

「どういう関係だ?」

 米本が何故、聖に電話を掛けたのか知りたい徹平が聞く。

「どうもこうも…あいつがこの誘拐の計画を俺様に持ちかけたんだ」

「何だと?」

「へ、俺だって丸ごと罪を被(かぶ)るつもりは、更々(さらさら)無い…あいつの計画なんだ…俺はあいつのシナリオの登場人物にしか過ぎない…」

 此処まで言って、警察官の二人を見る米本。もう一人犯人がいるという米本を、真剣な眼差しで見ている。邪魔される心配は無いようだ。

「夏輝の最後の取り立てに行った後、突然あいつが話を持ちかけてきた。このまま終るなんて勿体無いってな…協力すれば、俺が組から借りてる借金をチャラにしてくれるって、そう言ったんだ。更には生活資金として脅し取った金は全額くれるっていうじゃねぇか!最初は何だと思ったよ…だが、二日後、本当に俺の借金が帳消しになっていた…おかげで組から足を洗って、佐奈(さな)とも暮らしていける事になった俺は、奴から聞いていた番号に電話した…最初は、佐奈が脅す手はずだった…けど、佐奈の野郎、夏輝(なつき)と手を繋いで帰ってきやがったんだ!俺は頭ごなしに、佐奈の連れを脅そうとしたが、あいつがそれを阻んだ。あいつは、お前に相当、拘(こだわ)っていた…目的までは知らねぇが、後は知っての通りさ…」

「聖…なのか…?」

 慌てて、自分の携帯で聖の番号を確かめるが、やはり同じだ。

「そんな、サトシって、あの酔っ払いだろう?」

 萌(めぐみ)が、こう言った瞬間、徹平に、あの時の違和感が蘇る。あの時の聖の対応は、いつもと違っていた。まるで別人だった…

「お前と、そのサトシって奴はどういう関係だ?」

 気になった米本が言うものの、先ほどから、不服そうな表情を浮かべていた警察官が、邪魔をする。

「後は、署の方で刑事課のモンが聞く!!解ったらさっさと歩け!!」

「あのう…こういう場合って、本部とかに連絡して、パトカーがやってくるんじゃないんですか?」

 萌が聞くが、不機嫌そうに、さっきから米本を、けしかけている警官が答える。

「今、丁度交通事故があって、出払ってるから、いないんだよ誰も!!」

「何よ!!その口の利き方ぁ!!仮にも、あんたたちの給料となる税金は納めてんのよ!!」

 無愛想な警官に、ふくれっつらで対抗する萌。流石に見かねた上司の警官が謝る。

「あぁ、すいません。こいつ昨日から、ずっと寝てないんで気が立ってるんですよ…すいません。こら、お前も謝らんか!!」

 これには、無愛想な警官も不服そうながらも従った。

「す…すいませ…ん」

 ハッキリしない態度に、またしても口を出しそうな萌だったが、啓太(けいた)がなだめて、何とか言いかけた言葉を収める。

「何か頼りねぇな、大丈夫か?」

 黙ってればいいものを、米本が警官に、馬鹿にしたような口を利き、

「さっさと歩け、足はついてるんだろう!!」

 怒鳴られてしまう。へいへいと、おどけた返事を返し従う。それを確認しつつ、上司の警官が言った。

「あなた方も来て下さい。その誘拐計画を企んだ奴と知り合いなら協力して欲しいのです」

 最もな提案だったものの、

「すいません。俺の…親友なんです…」

 徹平がいきなり、そう言って走り出した。驚き、呆気に取られる米本、警官、萌達。肋骨を折って、走っているとは言いがたいほどの失速感。それでも走ろうとする徹平と、さっきの言葉に何かを理解したのか、萌も啓太も走りだす。

「徹平、まだ信じたいんだよ…」

「あぁ、解ってるって!!」

 萌の言葉に呼応する啓太。言いながら追いついた徹平の腕を持ち支える。萌も流石に重たいようであるが、それに習う

 おい、キミ達!!と警官らが叫び、追いかけようとするが、米本を離してしまった為、逃げ出そうとする米本を捕まえなくてはならず、建設現場から出てしまった徹平達を見失ってしまった。
 
「有り難うよ」

 そう言う徹平に啓太が答える。

「イイって、あんなウザそうな警官じゃ、とても話なんて、させてくれそうにないから…どうした徹平?」

 突然、俯く(うつむく)徹平に驚いて聞く。

「さ、支えてくれんのは…有りがてぇんだが…も、もう少し、振動をぉお……!!!」

「何だよ、そんくらい、我慢しろって!!」

「そうよ…私だってキツイんだよ!!」

 痛そうな徹平にそう言って益々ペースを上げる二人。

「いって……も、もういいって!!」

「怒る事ないじゃないか!!」

 乱暴に振り払われて、また機嫌を損ねる萌。

「警官追ってきてないし、何所へ連れてこうっての!!電話が先だろう?」

 涙目で必死に訴える徹平にクスッと、萌。曲がっていた口元が元に戻る。

「一体何が目的なんだろうね?」

 そう聞く萌に答えず、徹平は迷っているようだった。

(聖…何がどうなってるんだ?お前が犯人て…事なのか?)

 聖を信じる心を捨てきれない徹平であったが、全てを知るためには、電話するしかなかった。ゴクッとなるノド…未だに(いまだに)電話の向こうから聞こえてくる声の主が聖でない事を祈りつつ、徹平は通話ボタンに指を掛けた…

                  ~第三十四回 了~

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