「どうした?終わりか?」

けしかけるハージン。

「まだです…」

 

その華奢な体に似合わない跳躍を見せるシレイス。

先ほどのハージンに負けないほど見事な注意を引き付ける走りから体を沈める足払い。避ける事を想定していたかのように的確に飛び上がるハージンを捉える前蹴り。

 

だが、かすめるだけの蹴り足。

ひらりと体を反転させ衝撃を逃すハージン。

そのまま手を付き逆立ちになって、両足をぶん回す。

 

たまらず後ろ飛びするシレイス。

 

!!!!!!

 

驚くのも無理は無い。逆立ち姿勢からぶん回したハージンの足が、まるで吸い付くように伸びてきて、自分の両脇を挟んだ次の瞬間、馬乗りの圧倒的に有利な状況になったのはハージンだったのだ。

 

しかし、不利となったはずの驚きから一転、笑みを浮かべるシレイス。

それに気づいたディエマが飛び出す。

感じたのはシレイスの危険な意志…

 

「よせぇ!!!」

 

やめろと訴えるディエマをよそにそれは実行される。

一瞬のきらめき…

先ほどのものとは比べ物にならない爆発が起こった。

かなり離れた位置から近づこうとしたディエマさえ吹っ飛ぶ

威力だった。

 

!!!!!!

(自爆…??)

驚くハージンは爆炎の遥か上空にいた。

 

「そんな…」

決死のシレイスの攻撃をかわしたというのか…

吹っ飛んだ勢いを殺すために転がりながら、驚きと共に怒りを覚えるディエマ…

 

トンッ…

 

降り立つハージン。

勢い込むディエマの突進…

 

「うあああああああ!!!」

 

何、平気な顔してやがる!!!!

 

目が!

叫びが!!

全身で訴える…


普通なら圧倒的な威圧感を与え、攻撃に移れたろう…

しかし、冷静さを欠いた攻撃は空しくかわされ、腹に無情な一撃をくらわされる事になった…

 

ドン!!!

「ごほっ…がっ…て、てんめぇ」

 

命をかけた攻撃を!!!

叫ぼうとしたディエマの脳裏に響く声があった。

(死なせない…言ったはずだ)

 

ハージンだ…

ディエマの方など見向きもせずに、シレイスの残骸が転がるであろう爆炎の方を見続けている。

 

「くっそ…何が死なせないだ…!!」

 

よろめきながら、なおもとびかかろうとするディエマに、

 

「ディエマ!!」

 

呼びかけるシド。

指さすシドの示す方を見る。

 

それは、爆炎と思われたものだった…

 

(うごく…だと?)

 

目にしている事が信じられず二度見するディエマ。

 

「シ…シレイスまさか…!!!」

 

爆炎は炎に包まれるシレイスだった…

息も絶え絶えの様子で、燃えただれる身体を引きずるようにして前進するシレイス。

 

もはや、喉も焼けてるのだろう、口は動いているが言葉は響いてこない。

 

死ぬ…

シレイスが死ぬ…

 

「!!!!!!!!っああああああああ」

 

声ならぬ声をあげ、ハージンに向かって突進するディエマ。

激情…

まさにそんな言葉しか出ない衝動から出る行動。

 

しかし、ハージンの取った行動はその衝動にストップをかけるにたるものだった。

 

燃え盛るシレイス。

ただれ、悪臭さえ放つその体を抱きとめたのだ。

 

燃える!!

燃え移る!!!

 

誰もが浮かべる光景。

しかし、それは起きなかった…

 

目の前の奇跡…

 

燃え盛る死体同然のシレイスの体から炎の影響を受けることなく難なく抱き留める光輝くハージン。

 

それだけでも驚きの光景というに、ハージンの体を包む光が炎をかき消すと同時に、原型すら失おうとしていたシレイスの体を復活させたのだ…

 

爆発も爆炎も

何事も無かったかのようにシレイスから離れるハージン。

 

「あ…あ…あ…」

 

あまりの光景に言葉が出ないディエマ。

手にした剣を落とし、膝から崩れた…

 

「死なせない…そう言ったはずだ…」

 

奇跡を起こしたハージンが笑顔を向けつつ静かに告げた。

 

 

           ~続く~