料理教室&BistrotRIANTのメールマガジンです。
料理人・川名克典の料理セミナーでは伝えきれない
技術の裏に隠されているものを書いています。


それは、料理と人生をおいしくする秘密そのもの・・・。



  朝早く道路の吸い殻を拾っていたら、鳩の羽根がやたらと落ち
  ていた。
  昨日の暑さで、みんな羽毛を少し取り外したのだろうか?
  こんなに凄い「落ち羽」は初めてだ。



  僕がまかない料理を作るときの話をしよう・・・。


  夏に好まれる料理の一つに、豚の薄切りをサッと茹でて氷水で
  冷やして、三杯酢か胡麻酢で食べる冷製豚シャブがある。


  僕自身大好きとも嫌いとも特に無いけれど・・・。
  長男がシャブシャブがかなり好きだから、夕べ作った。
  二人きりの食事だったし・・・。


  たまたま豚の薄切り肉が百グラム位冷蔵庫にあったから・・・。

  メチャクチャ暑くて、僕一人なら何も食べなかったかも知れな
  いけれど、彼は「それがいい」と言った・・・。

  自分のためというより、人のために作る料理の方が圧倒的に多
  いと思う。



  野菜かぁ・・・。
  トマトやサラダは食指が延びなかった。
  人参、茄子、セロリは彼が嫌いだ。

  豚シャブのお肉だけならたいした量にならなくて、小学六年生
  男子にとってはバランスも悪い。

  けれども余り野菜が好きではなく育っている。
  強制的に食べさせないから、かなり好きなものだけを食べてる。


  野菜をどうするか考えながら、僕は鍋に水を張り昆布を入れて
  出汁のティーパックを二つ入れた。
  
  出汁はいつも濃いめに作る。
  さもなくば醤油や味噌や・・・。
  色々入れないと旨みにならないから。
  それは、結局手間と調味料を増やしてしまう。

  
  胡瓜やモヤシは食べてくれるから、出汁がひける間にモヤシを
  買いに走った。


  そうだ、鍋一つの湯で作ろう。


  メニューはそうめん、枝豆、もやし豚シャブポン酢仕立て。
  そして、キムチ。
  買い物を含めて二十分間で作りたかった。
  暑かったから・・・。(笑)


  自転車で東急ストアまで飛ばした。
  汗ばんだポロシャツに、風が当たる。
  夜の涼をを求めて歩いている人の合間を縫うように走らせた。


  生暖かい空気ですら、心地よい。
  この風に身体を包まれながら寝てみたい、なんて思った。


  冷房の効いた店内を走り抜けて、モヤシと枝豆をカゴに入れ
  誰もいないレジを見つけた。
  いま来た道を戻るけれど、もう風を楽しんではいなかった。
  キッチンでの段取りをイメージしていた。



  少し大きめの鍋にお湯を沸かして塩を強めに入れた。
  洗ったモヤシを入れ、火を止める。
  一分ぐらいしたらザルにあげて、団扇で扇ぐ。


  その湯を再度沸騰させたら、広げた豚の薄切り肉を一枚入れる。
  「五」数えたら氷水に落とす。
  また広げた豚の薄切り肉を一枚入れる。
  「五」数えたら氷水に落とす。

  また広げた豚肉の薄切り肉を一枚入れる。
  「五」数えたら・・・・。


  十回ほど繰り返した。
  灰汁をお玉で何度かすくって・・・。

  たっぷりの塩で揉んで流水で洗った枝豆を放り込んだ。
  

  ちょっとCDでもかけようか・・・。
  「幸せのレシピ」って言う映画のサントラをセットした。
  いつも料理教室で使っている。
  それからよく使うのは「恋愛適齢期」のサントラ・・・。
  「幸せのレシピ」はオペラが多くて、「恋愛適齢期」はシャンソン
  が多い。


  両方ともお気に入り・・・。



  イメージした自分と現実の自分が重なった。
  ふと鍋を見たら沸騰した湯の中で踊っている豆のいくつかサヤが
  はじけていた。
  急いでザルにあげて、蛇口を指先で少しふさいでシャワーみたい
  にかけて豆を冷やした。ほんの一瞬だけ。

  中まで冷やすわけじゃない。表面が少し冷めればいい。
  

  そのまま外に置いた。
  夜風で・・・。と思ったけれど、ちっとも効果が無い夜だった。

  ボールにたまった湯を鍋に漉し戻した。
  足りなくなった水分を足して再び沸騰させた。


  そして、そうめん・・・。
  沸騰した湯にそうめんを入れてかき混ぜて、二分間茹でた。
  カペリーニと同じ・・・。
  すぐにザルにあげ、流水をかけて冷やした。
  今度は芯まで冷やすから、流水で粗熱が取れたら氷を入れた。

  

  時計を見れば、七時二十分だった。
  始めたのは七時頃・・・。
  
  まぁ、いいか。
  モヤシをボールに入れ、豚肉を指先で割いて上にのせた。
  しその葉をちぎり七味を少しふりかけ・・・。
  ポン酢と、瓶詰めの柚子百%ジュースをふりかけた。

  ポン酢は長男が好きで買ってきているけれど、僕には甘すぎる。

  これでお互いにとって望む味になるはず。


  そうめんをガラス鉢に入れ、冷蔵庫で冷やした水を注ぐ。
  氷をいくつか浮かせてみたら、カラカラと涼しい音がした。
   


  「食事の用意が出来たよ」


  長男がそうめんのガラス鉢を運びながら言った。
  「そうめんのコマーシャルみたいな音がする」(笑)



  一生の内で、後何回あるのだろう?
  長男と二人きりの食事なんて、そうそうあるわけがない。
  耳をすますと、蝉は鳴きやんでコオロギ達の声がした。
  暗くなるのがもの凄く早くなった。



  滴り落ちる汗の夏が・・・。もうすぐ終わる。




今日も、新しいインスピレーションを求めて・・・。
引き寄せる一日でありますように。 (^ー^)v


そして・・・

いつも 「ありがとう」

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