riant

東京中目黒で14年間Bistrotと料理教室を開いております。その14年間とそれ以前3年間。料理セミナーの講師を務めてます。、そのセミナーには、17年間ずっと通われている方がいらっしゃる。という「知る人ぞ知る」魅惑的な内容です。その一部をあなたにも・・・。

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知ってるかい Vol.882

2009-11-21 10:00:00
テーマ:愛される料理(メルマガ版)バックナンバー

料理教室&BistrotRIANTのメールマガジンです。
料理人・川名克典の料理セミナーでは伝えきれない
技術の裏に隠されているものを書いています。


それは、料理と人生をおいしくする秘密そのもの・・・。



  知っているかい
  何故毎朝書くのかを・・・。


  知っているかい
  誰のために書くのかを・・・。


  知っているかい
  いつまで書くのかを・・・。


  知っているかい
  形あるものは壊れる事を・・・。


  知っているかい
  壊れたらまた作ればいい事を・・・。


  知っているかい
  でも、心が壊れてしまったら、
  もう作れない事を・・・。  
    

  だから、知っているかい
  一番大切なものを・・・。
  
  知っているかい
  それを治す薬など無いことを・・・。


  知っているかい
  でも、自分で治せることを・・・。


  知っているかい
  君が、かけがえのない存在だという事を  
  


  ねぇ・・・。
  知っているかい。





今日も、新しいインスピレーションを求めて・・・。
引き寄せる一日でありますように。 (^ー^)v


そして・・・

いつも 「ありがとう」


メールマガジン「愛される料理」
発行システム :『まぐまぐ!』さん→
http://www.mag2.com/
発行者    :料理教室&BistrotRIANT-りあん-川名克典
URL      :
http://homepage2.nifty.com/riant/
バックナンバー:http://ameblo.jp/riant/
chefの独り言 :http://riant.cocolog-nifty.com/blog/


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手紙 Vol.881

2009-11-20 10:00:00
テーマ:愛される料理(メルマガ版)バックナンバー

料理教室&BistrotRIANTのメールマガジンです。
料理人・川名克典の料理セミナーでは伝えきれない
技術の裏に隠されているものを書いています。


それは、料理と人生をおいしくする秘密そのもの・・・。




  寒い・・・。

  もの凄く寒い朝。
  部屋の中で暑いくらいと思っていたのに、既に肌に外気の
  冷たさを感じた。

  裏毛のついたジャケットなのに、冷たすぎる空気は、それ
  すらも浸みてくるの?


  「あたたかいものを下さい」
  そう思った。


  あたたかいものを・・・。


  チャコールヒーターのオレンジ色の光
  使い捨てカイロ
  夕べ入った柚子のお風呂
  フリースのパーカー


  オニオングラタンスープ
  蒸し器から出したばかりのあんまん
  味噌バターラーメン
  鍋焼きうどん


  祖母の料理
  母の料理


  オカメインコ
  赤ちゃんの身体
  ノートパソコンのキーボード

  それから・・・。

  コートの内ポケットに入った手紙

  



  深雪は、コートを着て部屋を出た。
  エントランスに並んだポストをのぞいたら、青い封筒が一通混
  ざっていた。

 「来た!」
  ちょっと癖のある、この字は彼だ。 
  ドキドキ、胸が高鳴った。

  急がないと、地下鉄に乗り遅れる。
  他の郵便物はほっといて、その封筒だけを掴んで玄関を飛びだ
  した。

  コートの内ポケットにそっとしまった。

  「あれっ?」

  胸があたたかい
  何だろう。
  はじめての思いがした。


  駅まで走りながら不思議に思っていた。

  階段を駆け下りた。
  改札を抜けた。
  一本やり過ごした。


  「次は始発だ」


  地下鉄が静かに入ってきた。
  扉が開いた。
  彼女は乗って直ぐのところへ座った。
  コートの内ポケットを触った。
  やっぱり温かい。


  はっとした。
  温かいはずだ。
  この胸に入っているのは彼なのだから・・・。
  
  知らなかった。

  メールで全て連絡している今だから、今まで解らなかった。
  いや、メールで全て連絡している今だからこそ、、感じられた
  のかも知れない。


  メールには、彼の言葉が並んでいた。
  とても優しい言葉が並んでいた。
  それを読む度、彼女は幸せを感じた。


  少し怖いくらいに・・・。

  

  でも、手紙は・・・。
  この彼からの自筆の手紙は、文字でも、言葉でもなかった。
  もう、それは彼そのものだった。

   
  寒い日は、コートの内ポケットに彼からの手紙を入れよう。
  彼と一緒に歩いている。
  深雪はその事を伝えたくて・・・。
  まだ手紙を読んでないのに、それだけを書いて送信ボタン
  を押した。

  

  「寒い日に手紙が届きますように・・・」
  「独りぼっちを感じる日に手紙が届きますように・・・」 


  深雪は、何百年も昔に生きていた恋人同士に思いを馳せた。




今日も、新しいインスピレーションを求めて・・・。
引き寄せる一日でありますように。 (^ー^)v


そして・・・

いつも 「ありがとう」


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厨房の砂時計 Vol.880

2009-11-19 10:00:00
テーマ:愛される料理(メルマガ版)バックナンバー

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料理人・川名克典の料理セミナーでは伝えきれない
技術の裏に隠されているものを書いています。


それは、料理と人生をおいしくする秘密そのもの・・・。



  「これが落ちるまでに、平目おろせよ・・・」
  そう言いながら、シェフは砂時計をまな板の横に置いた。


  「えっ、勘弁してよ~。まだ洗ってないジャン」
  「お前がでかい口叩くからだ」


  佳生は、エラソーな事を言わなければ良かったと後悔した。
  たまたま、「魚をどれだけ速くおろせるか?」なんて言い合
  っていたから・・・。  


  ただ、理由があった。
  
  佳生の料理人生の最初の店。
  銀座の日本料理店に入ったとき、年下の先輩がいた。
  まだ十八だった。

  追い回し(雑用)をしていた。

  彼が、まかないのイロハを教えてくれた。
  教えてくれたと言っても、まかない料理の技術的な話で無く
  て、これこれを買うなら新橋のスーパーで・・・。
  これなら、裏の八百屋で・・・。(銀座にも八百屋はある)
  豆腐はここで・・・。


  一日に使えるお金はこれくらいで、経理の酒井さんに、二時
  頃もらっておくこと・・・。


  そう言った、ある意味技術より大切なことを教えてくれた。


  まかないの技術は、全員に教わった。
  同じ厨房でその目と鼻の先で十名の職人が仕込みをしている
  最中、まかないの準備をしていれば、否応なくチェックされ
  る。


  全員が、それこそ勝手なことを言うのだから、たまったもの
  ではない。


  Aさんは、こう言う。
  Bさんは、こう言った。
  Cさんは、また違うことを言う。
  ・・・・。


  どれが本当なのか解らない。
  ましてやドシロウトなのだから、与えられた指示をどう処理
  すれば良いかなど知る由もなく、ただ混乱した。
  
  最初のうちは「はい。はい。はい」と動き回った。
  「追い回し」と言う言葉がピッタリだった。
  とにかく軽快に動き回る自分だった。

  しかし、その姿はだんだんとはいつくばっている自分に見え
  て来た。


  疲れてきたのだ。


  来る日も来る日も、動き回った。
  そして、はいつくばるイメージに変わった時、それでも号令が
  飛んできた時・・・。

  彼の心から「はい」と言う素直さが消えた。

  急に理不尽に思えてきた。
  こんなにやっているのに、ねぎらいの言葉もなく・・・。


  「奴隷」

  本当に知る訳じゃない。映画や物語でしか知らないけれど、
  そんな風に思うようになった。


  今だから解ることがある。

  誰が、彼を「奴隷」と決めたわけではない。
  佳生が自分自身で、そう言う身分だと思っただけのこと。
  そして自分で、自分を惨めに思い自分で自分を追いつめていた。

  そんなことを、何年も、何処の店でもやって来た。
  追い回しが終われば終わったで、その担当でそう思った。
  

  十九の先輩が言った。
  「半年のうちに君は泣くよ・・・」


  佳生は心の中で、「絶対に泣くわけがない」と思った。
  理由は、この仕事をするまでのんびり学生をしていたわけでは
  ない。


  土建業で命の危険と隣り合わせの仕事をしていた自負があった。
  そして、その最中でいくらでも涙を流してきた。

  ただ、この追い回しは、彼の体験していない「辛さ」だった。
  そして、彼の予言は当たった。
  但し四年後だった。


  その先輩が辞めることになった。
  もっと小さなところで、のんびりと仕事をしたいと言った。


  もう一人、二十歳の先輩もほぼ同時に止めることになった。
  病弱な父親の小料理屋を継がなくてはいけなかった。
  佳生は、二十歳で店主と言う肩の荷の重さに驚いた。

  でも、彼は最初から解って修行していたから、殆どの仕事を
  こなせるまでになっていた。
  チーフも「奴なら小料理屋ぐらい出来るだろう」と言った。    


  佳生の仕事は、その二人の分も入って三倍になった。
  火を使う仕事が増えていった。
  もう、すぐに教えてくれる二人はいない。
  解らないことは、自分から聞かなくてはいけない。


  そのお陰で彼の腕は毎日上がった。
  自分ではっきりとそれが解った。
  魚もおろしざるを得なくなった。
  何といっても数が多いのだ。
  
  こうして職人の数が多いと知らず知らずのうちに手が早く
  なる。何も言われなくても同じ量の仕事が出来ない自分を
  知ってしまうから。


  一つ上の先輩の背開きしたキンキが十枚の時、佳生は三枚
  だけなのだから。

  とにかく速く、速く・・・。


  そんなときチーフが辞めていった十九の先輩の話をしてく
  れた。

  「職人の数が少なくて、一人で魚をおろしている毎日だそ
   うだ。なんだか惰性になってきたので、タイマーをまな
   板の上に置いて平目をおろしていると言っていた。」


  みんな静かに聞いていた。
  佳生は思った。

  何だ、人の少ない店でのんびり仕事したいって言っていた
  のにタイマーと競争しているのか・・・。
  職人に育てているんだ。自分で自分を・・・。



  シェフが砂時計をまな板の横に置いた時、あの日チーフが
  話してくれた先輩を思い出した。


  魚を急いで洗い終わった。
  乾いた布巾でくるんでまな板の上に置いた。
  時計の砂は落ち続けていた。


  落ちた砂は過去になる。


  「今僕はこの一番細いところにいる。
   僕は砂なのか、この細い硝子なのか・・・。
   これから何分でおろせるだろうか?」
  彼はふと思った。


  未来の砂が、どんどん減って行く。


  いつも過去が今とつながって、今が未来とつながって・・・。
  未来はアッという間に過去に変わってゆくから・・・・。

  ぼんやりしていちゃもったいない。
  寝るのも休むのも必要なのだから・・・・。
  せめて起きている間は、精一杯していないと・・・。

  でも、挽回のチャンスはある。



  佳生は、外側のヒレを切り取った。
  平目の皮を引いた。
  背骨にそって包丁を入れ、5枚おろしにしようと思った。

  チラッと、砂時計に目をやった。
  「あっ」未来が無くなろうとしていた。
  間に合わない・・・。


  彼は砂時計をひっくり返した。
  「これなら間に合う」


  過去は未来へつながった・・・。
  いや、佳生が自分で未来へつなげた。


  そして・・・。
  彼は、無心に平目をおろし続けた。
  落ちる砂の速さと同じに・・・。

  


今日も、新しいインスピレーションを求めて・・・。
引き寄せる一日でありますように。 (^ー^)v


そして・・・

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思いを込めて Vol.879

2009-11-18 10:00:00
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それは、料理と人生をおいしくする秘密そのもの・・・。


  「パテ・ド・カンパーニュ」
  日本では田舎風パテ、または田舎風お肉のテリーヌと言われる。


  憧れていた。


  どうやったらこの食感が作れるんだろう?
  どうやったらこの旨味が出るのだろう?
  どうやったらこの色が・・・。


  いつ、何処で食べたのか覚えていないけれど、彼の中には一つ
  のパテ・ド・カンパーニュが出来上がっていた。

  沢山の本を調べたから?
  沢山の写真を見たから?
  あの人の作ったパテを食べたから?


  きっとそれらが全部溶けあって、一つのパテを妄想していたの
  かも知れない。

  ただ、修行中にそれと同じものを作っている店は無かった。
  はっきりと意識してからは、何処の店でも出会ってなかった。
  きっと潜在意識の中に入り込んでいたのだろう。


  うんと小さい時に食べたレバーペーストかも知れない。
  料理人になることが決まったあの日。
  銀座の日本料理店で面接をすませた帰り道・・・。

  叔母が霞町のフランス料理屋に連れていってくれた。


  薄暗い店内。

  他は忘れてしまったけれど、鶉の詰め物を選んだ。
  その時の食感。
  その時の旨味。
  その時の・・・・。

  かも知れない。


  いろんな店で作ったけれど、どの店のルセットも違った。
  あの人なら・・・。
  あの人ならどうやって作るのだろう?


  そう思うと、何としてもあの人と一緒に仕事がしたくなった。
  あの頃の彼はいつも妄想していた。

  あの料理が作りたい。
   
  あの人と一緒に仕事をすれば、秘密が解るかもしれない。
  でも、そんなことは・・・。
  あの人の店にはスタッフがいるから、彼の居場所は無い。
  
  でも、あの人以外には・・・。
  どうしたらあのパテに近づけるだろう。


  そんなとき、あの人から「うちで仕事しないか?」と誘われた。
  「嘘!」と思った。
  でも、そうは言わなかった。そんなことを言って、気が変わら
  れてはたまらない。
  グッと飲み込んだ。


  「はい。解りました」


  即答した。
  即答するときは、いつも給料の話は無かった。
  即答するときは、いつも条件の話は無かった。


  それより、近づいた気がした。
  いや絶対に近づいたと思った。


  あの人の横で仕事をした。
  ひと月が過ぎた。
  冷蔵庫にストックされたパテが残り少なくなってきた。


  ある日、あの人は肉の塊に向かって何かしていた。
  豚肉?肩肉?バラ肉?ホホ肉?・・・。
  バトネ(長く細い直方体)に切りそろえてアセゾネ(塩胡椒で味
  を調える事)していた。
  ブランデーを振りかけていた。


  「はっ」とした。
  とうとう目の前で見ることが出来る。

  翌日、あの人はいつもより早く店にいた。
  作業台に大きな挽肉機をセットしていた。

  「早いじゃん」
  あの人は、店に入ってきた彼に言った。


  「おはようございます」彼は返事をした。


  まな板をセットし、シンクに浸けた布巾をゆすいで・・・。
  あの人の手元にまるで興味が無いようにしていた。
  あの人に解らないように・・・。
  チラチラと盗み見た。


  しばらくしたら、あの人は何か柔らかいものを触っていた。
  「それ何ですか?・・・」
  つい口からこぼれてしまった。


  「あ?これ、レバーだよ」
  あの人は何も気にせず教えてくれた。


  「そうか・・・そうだったのか」

  


  あの日から、二十年以上過ぎた・・・。
  十五年前に彼は、小さな自分の店を開店した。
  あの人は御祝いに来てくれた。

  「お前が店を持つなら俺もやらなくちゃな」
  
  あの人は本当に、翌年自分の店を開店させた。
  最初から繁盛していた。
  毎日のように深夜電話が来た。


  「どうだ?うちは忙しくて忙しくて・・・」
  「うちは、ボチボチですよ。料理教室をはじめました」
  「お前はその方が向いてるかもな、俺は二号店を作るから」
  「料理はもう作ってないよ。そんな時間無くて・・・」


  あの人に呼ばれて、食事に行った。
  ビストロらしい作りの良い店だった。
  巴里のどこかにあっても不思議ではない。

  あの人が、十年近く暮らしていたあの国の匂いがする。
  「僕にはこの匂いは作れない」と彼は思った。


  メニューを見た。
  「パテ・ド・カンパーニュ」
  あった。


  彼が追いかけて追いかけて、出会った。
  ヒントをくれたあの料理が・・・。
  でも、あの人が作ったのではないそれは、もう違う食べ物
  だった。

  あの人には、この違いが解らないのだろうか?
  二号店で頭が一杯だろうか?


  でも、安心した。
  ここのスタッフは知らない。
  知っているのは僕だけ・・・。
  彼はそう思った。
     

  彼には弟子がいない。
  でも、彼の料理を学びに毎月百名近くの人が集まる。

  彼のそんな思いがつまった料理だとは、誰も知らない。

  それを、伝える。
  何人の人がそれを家で作るだろうか?
  作らないかも知れない。
  でも、もし作って、それを食べた誰かが、彼と同じように
  不思議を感じ、憧れるのなら・・・。


  あの人の料理が、あの人の知らないところへ伝わる。

  今日も作るから・・・。
  みんなに作り方を教えるから・・・。

  このパテは何処から来たのだろう?
  このパテは何処へ行くのだろう?


  彼は一人で仕込みをしながら、もう二度と逢えないあの人
  に問いかけた。



  「元気ですか、そっちはどうですか?」



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神様の住処 Vol.878

2009-11-17 10:00:00
テーマ:愛される料理(メルマガ版)バックナンバー

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それは、料理と人生をおいしくする秘密そのもの・・・。



  僕が住んでいるマンションの前の坂道を下ったところに、その
  シェフの店はある。


  滅多に会うことはないけれど、この辺のゴミ収集日には会える
  ことがある。

  早朝、彼がタバコの吸い殻を掃き集めてくれているから・・・。


  「おはようシェフ」
  「あっ、おはよう・・・っす」


  「相変わらずですね」
  「?」
  「吸い殻拾い?」(笑)


  「そう」
  「いや、たいしたことじゃないよ。毎日じゃないし、吸い殻だけ
   だから・・・」

  「でも、割り箸とか、牛乳パックなんかも・・・。ほら」
  「あっこれね、あそこのコンビニで買って道すがら食べて丁度、
   ここら辺で食べ終わるんだろうね。いつもこんなセットで落
   ちいるよ(笑)」


  「・・・・」

  「最近いいことありました?」


  「ん?毎日あるよ」

  「やっぱり?」


  「・・・・(笑)」

  「例えば・・・?」

  「そうだなぁ。メールが来たよ、メルマガを読んで下さってい
   る方から」
  
  「どんな?」
  「すごく感謝された(笑)」


  「何でも、毎日毎日、仕事と育児と家事と追われて・・・。
   疲れ果てている時に、たまたま僕のメルマガを見つけたらし
   い。そしてバックナンバーを読み始めたそうだ・・・・。
   職場でしか、読むことが出来ないらしくて仕事の合間を見つ
   けて、読んで下さったみたい・・・。

   メールには、こんな風にかいてあったよ」



  「どうしてこちらのページにたどり着いたか解りませんが、
   知らず知らずのうちに探していたのだと思います。
   神様が引き逢わせて下さったのでしょう。


   このメルマガを見つけてから、毎日一分でも一秒でも早く仕
   事を片付け、必死に時間を作りひたすら読みました。
   一字一句大切に大切に・・・。


   このひと月半どれだけ幸せな気持ちでいられただろう。
   あなたの文章に毎日癒され、励まされ、感動して時には涙し
   て、温かい気持ちになって・・・。
   
   どうもありがとうございます。」



  「差出人の名前は無かった。
   だから僕もあえて尋ねないで、御礼の返信だけ送ったよ。
   で、その時おもったのね・・・。


   ああ、こうして人は人とつながりながら、神様の意図する人
   になれるのかなって・・・。

   人は、不完全にできているから・・・。彼女のポッカリとあ
   いた傷口に、僕のメルマガが流れ込んで傷をいやしたように、
   彼女のメールが僕の心を温かく包んでくれて、回復する。


   人が人を満たしてくれるんだな。その時、その状況に携わる
   人が皆、神様の領域に近いところにいるのかも知れない。


   勿論、みんな一人で精一杯自分の傷を癒しているんだけれど
   やはり、その時フッと包み込んでくれる手や言葉があったら
   どれだけ温かさが違うことか・・・。


   で、その時必ず「ありがとう」って思うでしょう。その瞬間
   にね誰の心にも、神様がいるんだと思うわけ・・・。

   苦しいときの神頼みじゃ、神様も寄ってきてくれないけれど
   「ありがとう」って感謝しているなら、喜んで来てくれるで
   しょう!?
   
   だから解った。神様に支えて欲しいならいつも「ありがとう」
   って思っていた方がいいって・・・(笑)
   神様だって感謝されたいはず。
   いらないって言われても、感謝しなくちゃ・・・。(笑)
    


   前に何かで読んだんだけれど、少年達が野球をやっていて、
   そこに身体の不自由な少年がやって来たの。


   そして、もし良ければ一緒にやらせて欲しいと勇気をもって
   言うんだ。彼らは少年の話を聞いて、仲間に入れる。
   そして、何と最終回、最後の攻撃で彼がバッターボックスに
   立つ。ピンチヒッター起用の場面だけれど、監督は彼に打た
   せようとする。


   ただ、どう考えても、身体の不自由な彼には打てない。

   その時、ピッチャーは下手投げでソフトボールのようにそっ
   と投げたんだ。

   でも、彼はバットをまともに振れなかった。

   今度は、一人の少年が、彼の後ろからバットを支える。
   当たった!
   三塁方向へボテボテのゴロ・・・。


   ベンチから「走れ~!」と絶叫が聞こえる。

   彼は走る。もの凄く遅い。だから内野はトンネルしたり、
   エラーしてボールを掴めない。いや、掴まないんだ。
   そして、やっと掴んでファーストに投げる。
   大暴投だ・・・・。
  

   少年は二塁へ向かう。もうベンチはお祭り騒ぎだ!

   やっとボールを拾ったファーストは焦りながらセカンドへ、
   これが全く届かない。


   少年はコーチの指示で三塁へ・・・。
   そして、何とホームまで・・・。


   この時の行為はフェアではない。
   非難する人や、お情けと言う人もいるだろう。
   でもこの時、このグランドに神様がいたと感じる人が・・。
   必ずいるんだ。


   少年達が、みんなで一人の少年の不自由な体を支えて、足り
   ない部分を全員で築き上げた
   彼が、打ってからホームに戻ってくるまでの間・・・。
   いや、彼が参加させて欲しいと言った瞬間から・・・。
   身体の不自由な少年は、完璧になりつつあった。


   何故ならそのグランドに、神様が住んでいたから。」

   


  シェフはニコッと笑って、ちりとりにたまった吸い殻を口の開いた
  ゴミ袋の中へ落とした。
  そして、パタパタとちりとりをほうきで叩いていた。 




追伸 まぐまぐさんがシステムメンテナンスを明日、18日に行うため、
    配信時間が遅くなると思います。
    何卒ご了承下さいませ。m(_ _)m

    尚、アメーバブログのバックナンバーへはいつもと同じように
    当日のメルマガを10:00にアップロードします。\(^_^ )/
                               かわなよしのり


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そのまま Vol.877

2009-11-16 10:00:00
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それは、料理と人生をおいしくする秘密そのもの・・・。



  今日もメールが雪崩のように流れ込む。

  「四十四通の未読メールがあります」


  ちょっと接続していないと、アッという間に貯まっている。
  日に日に増えるスパムメール。

  その中で・・・。


  メールの山の中で彼は見つける。
  それがどんなに嬉しいことか知っているだろうか?
  
  「忙しいと思って・・・。」
  

  忙しいからこそ、嬉しいことを・・・。
  忙しいからこそ、ふとのぞいた時に見つける喜びを・・・・。
  
  返事が出来ない事もあるけれど・・・。



  一番好きなのは、そのままの君がいること。
  一番好きなのは、何気ない普通が見えること。
  格好の良い文章でも無く、詩的な表現でも無く、
  そこに今、君がいるような言葉だったら・・・。


  勉強が、学びだと思っていた。
  塾が、学びだと思っていた。
  セミナーが、学びだと思っていた。

  著名な作家が書いた本を読むことが、学びだと思っていた。


  知っているだろうか?


  ベストセラーになった本よりも、そのままの君がそこに現れる
  奇跡が、どれだけ素晴らしいことか・・・。


  あまりにも、君のいることが普通になりすぎて・・・。
  メールのやり取りに慣れすぎてしまって・・・。
  君を見失うことが怖い。



  時間は、いつの間にか沢山の事を教えてくれる。
  そして、その時間と引き替えに人は大人になってゆく。
  そして、何でも知るようになる。
  そして、いつの間にか何も驚かなくなる、感じなくなる。


  明日の不安ばかりを感じて・・・。
  それを打ち消そうとしたいのか・・・。
  もっと、もっとと刺激を追い求める。



  一行のメールの中に彼女がいる。


  ホットケーキを焼いたこと・・・。
  怒ったこと・・・。
  会議に出たこと・・・。
  ペンで手紙を書いたこと・・・。


  泣いていたこと・・・。
  探していたこと・・・。
    
  好きな曲を聴いていること・・・。
  資料のコピーを取っていること・・・。
  ラーメンを食べていること・・・。
  ソファでボヤッとしていること・・・。


  月曜日が始まる。


  受話器を右の耳と左の耳に当て、モニターを見つめている。
  その姿が見えるから・・・。
  そして、その中に彼女を見つける。
  

  「幸せになりたいだけ・・・」
  そう、つぶやく彼女を見つける。




今日も、新しいインスピレーションを求めて・・・。
引き寄せる一日でありますように。 (^ー^)v


そして・・・

いつも 「ありがとう」


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メロディ Vol.876

2009-11-15 10:00:00
テーマ:愛される料理(メルマガ版)バックナンバー

料理教室&BistrotRIANTのメールマガジンです。
料理人・川名克典の料理セミナーでは伝えきれない
技術の裏に隠されているものを書いています。


それは、料理と人生をおいしくする秘密そのもの・・・。



  「やっぱり辞めよう」
  
  麻子はたった一軒だけ、三日で辞めた店がある。
  鉄板焼き屋だった。
  お客さんが作るのではなくカウンターキッチンで、コックさん
  が作り、皿に盛り付けられていた。


  知り合いから頼まれた。
  簡単なアルバイトだと思って少し手伝って欲しいと言われた。
  丁度、佳生がシェフをやっていた店を止めた後だった。


  しばらく、実家で休みたかった。
  無我夢中で佳生についてきた。
  彼は優しかったけれど、男の料理人と区別しなかった。
  勿論体力的にどうしても無理なものもある。
  それは、直ぐに手伝ってくれた。

  他のお店ではそんな料理人はいなかった。


  「何故」と聞いたことがあった。


  彼は、NYのキッチンの話をしてくれた。
  「女の子が二人、いたんだ・・・。

   普通に仕事をしていたし、彼女たちも当然という顔をしてた。
   シェフに怒鳴られて泣いていた。


   でも翌日には、早朝から仕事をしていた。
   一抱えもある鍋を目の前にしていると、同僚の男の料理人が
   黙って手伝った。


   日本では、余り見ない光景だけれど、直ぐにそう言う時代に
   なると思っていた・・・。

   たまたま、日本に帰ってきてこの店で働き始めたとき、面接
   でお前が来た。

   オーナーは男性社員を求めたけれど、俺にはお前の方が旨い
   料理を作れるような気がした・・・(笑)

 

   正解だった。


   あの時の料理人達の料理を食べたことはないけれど、今毎日
   お前が作るまかないを食べている。正直に旨いと思う。
   それで充分だ。料理には旨いか不味いしか無いから・・・。」
 


  あの言葉がどれだけ励みになっただろうか。

  その後、必死に仕事を覚えた。
  だから佳生が辞めてしまった後は、なんだかポッカリと穴があ
  いた様な毎日だった。

  結局、佳生が辞めたひと月後、麻子も辞めた。


  四人のコックさんのうち二人が女性だった。
  赤いコックタイが用意されていたときに「ん?」と思った。
  不思議なことに、料理人がコック服の上から首に回すこの
  スカーフに色や模様が入っているお店は、彼女の学びたい料理
  を作っている店ではなかった。


  ちょっと不安になった。
  キッチンで仕事を始めて直ぐに「やっぱり」と思った。


  ランチの準備だった。
  それはお椀をトレイに並べて、乾燥したわかめと葱をスプーン
  でひと匙ずつ入れることだった。


  30ケ出来たらトレイを重ねて同じ事をする。

  似たような作業を他にも色々やらされた。


  思考が停止した。
  
  どんな店でも学ぶことはあるはずだと理論的に理解していた。
  佳生に教わった。
  彼も、色々な店で働いたから・・・。

  でも、全く思考の扉を閉めてしまっては無理だった。


  ここに、一人でも佳生みたいな人がいてくれればまた別だっ
  たろうけれど、皆麻子よりも若かった。


  男性のコックさんを中心に、いったい自分がどれだけ売上を
  あげられるかと言った話をしていた。
 

   彼は、一日三十万の売上を上げられると言っていた。

  そして麻子に向かって言った。

  「フレンチやっていたなら直ぐにカウンターできるようにな
   りますよ」
  「そしたら、儲からないフレンチで朝から晩まで仕事するの
   が嫌になりますよ」



  「カウンターなんかやるものか、フレンチを嫌になるものか」
  そう思ったけれど、認めざるを得ない自分がいた。
  日本にある飲食店で、フレンチは儲けの出にくいジャンルだ
  と知っていたから・・・。


  以前オーナーが「私の代わりに参して欲しい」と言ったので、
  経営セミナーへ参加した際、飲食店の経営者や営業コンサル
  タントと称する参加者と話をした。


  皆が口を揃えて「フレンチはきついでしょう」と言ったのだ。

 
  でも、あの時あのまま、「儲かる商売」と言う価値観で料理を
  続けていたら、きっと顔つきも変わっただろう。
  性格だって変わったに決まっている。


  もしかしたら、休みの日は窓の外の雨をいつも見ていたかも
  しれない。
  人生は、雨ばかり・・・。と思っていたかも知れない。

  そして、悲しい顔をして、眉間にしわをよせて、売上目標を
  目指していただろう。


  それが良いとか悪いとかではなく・・・・。
  自分が納得するかしないかだった。

  理不尽でも、辛くても、疲れても、悲しくても・・・。
  自分が納得する生き方があると思った。


  時にその納得する生き方は、不幸の道のように思える時がある。
  そんなとき、不安に襲われる。
  今まで経験したことのない、空気に包まれるから・・・。


  でもいつか、佳生に会った時に「変わったね」と言われたくな
  かった。


  「腕が上がったな」と言わせたい。
  彼女を納得させるものは、それだけだった。

  

  「窓にいる娘は、誰だろう? 雨が降るのを眺めている。
   メロディ、人生は雨ではなくてメリーゴーランドさ・・
   ・・・・。
   メ
ロディフェア 忘れないで・・・」


  麻子は佳生と一緒に行った映画で流れていたビー・ジーズ
  を思い出した。



今日も、新しいインスピレーションを
求めて・・・。
引き寄せる一日でありますように。 (^ー^)v


そして・・・

いつも 「ありがとう」


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発行システム :『まぐまぐ!』さん→
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発行者    :料理教室&BistrotRIANT-りあん-川名克典
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不思議な事 Vol.875

2009-11-14 10:00:00
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  「明日のランチ、仔羊のグーラッシュだから仕込んでおけよ」

  チーフに言われた。
  ああ、それで今日ジゴがきたのか。
  ※ジゴ;ジゴダニョウの略/仔羊の腿肉


  佳生は、ジゴをまな板の上にのせた。
  中の骨を抜いて、小さくわけなくては・・・・。
  骨は煮込むとき放り込めば、出汁になるだろう。
     
  「余り小さく切らないで、お祖母ちゃん風に仕上げろ」

  こんな時、チーフが黙っていると、カットする野菜や肉は小さく
  綺麗に切りそろえられる。料理屋は、やはりプロが作るのだから、
  綺麗さを求められる。また「かわいい」と言う一言を求める傾向
  にフランス料理はあったような感じがした。

  それには、小さく同じ大きさに切りそろえるのがもっとも効果的
  だった。

  でも、お祖母ちゃん風とか、田舎風とかつくと、大ぶりでざっく
  りと切りそろえる。
  
  本当は切りそろえなくても良いくらいだと、佳生は思ったけれど
  そうして作ると、本当にまかない料理みたいになってしまうので、
  少し大きめ(1.5cm角切り)に揃えた。


  ジゴは野菜よりもう少し大きめに、切り終えた。
  丁度、豚の角煮程だった。

  一人ゴロゴロと二つ位の肉が見えていた方がおいしそうだし、肉
  もパサパサにならずにいい感じで仕上がりそうだった。
  
  ソトワ(両手がついた浅い鍋)に、オリーブオイルを熱して、肉
  を炒めパプリカをたっぷりと振りかけた。
  生のパプリカが無いから、とチーフに言われた。
  ハンガリーのパプリカを入れる料理らしい。


  一度肉を取り出したら、香味野菜も炒めた。
  取り出した肉を鍋に入れて水を注ごうと思ったとき、ふと手を止
  めた。ここで肉を入れてしまうより、最後に入れた方がしっとり
  仕上がると思った。


  「肉は後から入れますか?」
  佳生は聞いてみた。


  「何故?」
  チーフは佳生に聞いた。

  「えっと、肉が余り煮込まれない方がパサパサにならないから、
   それにジゴはロゼがおいしいから」佳生は答えた。
  ※ロゼ;ミディアム(ピンク色に仕上がる)


  「確かに、それも良いけれど、そうするとソースや野菜に旨味が
   入らないぞ。それにランチだから、2時間は軽く保温しておか
   ないと、料理が出ない。その間肉はどっちにしろ固くなる。」


  このチーフのすごいところは、決してルセットどおりの事を言わ
  ないで、臨機応変に作り方を説明してくれる事だった。


  彼のこう言った言葉から、いったいどれだけの事を学んだだろう。
  毎日の指示は、単なる指示ではなかった。
  手とり足とり仕事を教えてくれていた。


  肉だけ先に煮込む方法へ急所方向転換した。
  そして、パプリカをたくさん振り込めと言われたから表面が
  かくれるほど加えた。

  お陰で、乾燥したパプリカ独特の匂いが立ちこめた。
  嫌いじゃいけれど余り好きになれない香りだった。


  巴里の店で仕事をしたとき、スペイン人と仕事をした。
  全くフランス語の出来ない奴だったけれど、わずか一月で、佳生
  の何倍ものフランス語を喋り、フランス人達と何不自由なく会話
  していたのには、驚いたし、羨ましかった。


  その彼が、グージェールと言う小さなチーズ入りのプチシューを
  作っていた。
  お通しとして出すものだけれど、その生地にパプリカを振り込む。


  彼が「OK、OK」と言ったので、シェフは彼に任せた。
  出来上がったプチシューは何故か黒かった。
  真っ黒ではない。ただ、グージェールとしては何故かどす黒く見
  えた。

  シェフが慌てて、「これは何だ!」と怒鳴っていた。

  彼はパプリカを信じられないくらい入れていた。
  パプリカのタッパは空になっていた。(^_^;)

  食べると、パプリカの味がした。
  彼は、「旨いだろう」と言ったけれども・・・・。(笑)
  

  日本人の佳生にとって、旨い香とは、柚子、七味、わさび・・・。
  浅葱、生姜、・・・。
  それらの香りが、素材につくかつかずかの合間を漂っている・・。
  そんな香りが旨い香りだった。
  


  あの時ほど香らない。
  強いけれども丁度良い頃合いを計ったつもりだった。
  水を注ぎ煮込み始めた。
  三、四十分はかかるだろう・・・。


  タイムとローリエとパセリの軸も放り込んだ。
  教科書だったら、ブーケガルニを作るところだ。

  蓋の隙間から出てくる蒸気がおいしい香りを運んできた。
  肉に火が入り始めた。

  後、もう少し・・・。

  炒めておいた野菜を放り込んだ。
  
  二十分ほど煮込んだ。
  野菜が柔らかくなって、肉も同じくらいになった。
  粗塩を入れた。

  この粗塩が・・・・。

  料理は全てのテクニックが旨く言っても、ここで落とし穴に
  落ちる。


  油断した。
  自分で結構腕が上がってきたと思っていた。
  少しのぼせ上がっていた。
  
  帰り際にチーフが味見した。

  「おい、しょっぱいぞ・・・」
  「えっ?嘘」

  「しょっぱくないですよ」

  「何いってんだ、おまえ」

  「しょっぱくない」

  「しょっぱい」
  「しょっぱくない」


  「勝手にしろ。俺はしらん」


  結局、物別れに終わった。

  翌朝、佳生はいつもより三十分早く来た。
  ついさっきまでここで仕事していた気配がまだ残っていた。
  夕べ作ったグーラッシュの味をみた。
  
  やっぱりしょっぱかった。
  塩は引き算できない。
  寝る前に、どうしようかと思いながら寝たら、不思議な事に
  寝起きに思いついた。

  その解決策を使った。

  ジャガ芋をコロコロにして茹であげて加えた。
  しょっぱい水分をすわせる。

  足りないソースはブイヨンを加える。
  水だけで作ったよりおいしくできるだろう。

  茹でたジャガ芋を入れて、十分ほど煮込んだ。
  ブイヨンを加えた。

  案の定、煮汁のしょっぱさを感じなくなった。
  ジャガ芋が入って田舎っぽくなったけれど、おいしかった。


  チーフが来た。
  キッチンに入るなりグーラッシュの味をみた。
  ジャガ芋を入れたのか・・・、
  佳生の顔を見た。


  「いや、俺もそうしようかなと思ってきたんだよ」
  ニヤッと笑った。
  佳生は、一歩チーフに近づいた気がした。



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箱の中の手紙 Vol.874

2009-11-13 10:00:00
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それは、料理と人生をおいしくする秘密そのもの・・・。




  それは、青くて四角い箱に入っていた。

  遠い昔、佳生が書いた手紙だった。
  
  「何故、こんなものがある?」
  「普通は、とっくに捨てられているものでしょう?」
  それが宇宙に存在していることを知ったとき、彼はあまりにも
  驚きすぎて、声も出せずに立ちすくんでいた。


  ぜんたい何が書かれているのかを彼は覚えていなかった。
  
  やっぱり人生は不思議だ。
  こんな事が突然やって来る。
  それは、良いことも悪いことも・・・。


  何故めぐり会うのだろう?
  そして、いつ巡り会えるのだろう?
  それが解っていたとしたら、昨日は変わっていただろうか?
  

  「自分では読めないな」彼はつぶやいた。
  「何故?」と自問すると、「恥ずかしい」と彼は答えた。


  その時不意に「じゃあ私が読んであげる」と誰かがささやいた。
  その声に佳生は驚いた。

 

  「あなたは・・・」


  声の主は答えなかった。
  「・・・・」


  佳生は、「あっ」と声をあげた。
  そして「女神」と言う言葉が口から出た。
  理由など無かった。
  単に「女神」と言う言葉が頭の中をいきなり駆けめぐったから。


  「何故、あなたがここにいるのですか?」と彼は尋ねた。
  「いつもここにいるわ」と彼女は答えた。
  「そうは、感じなかった」と彼は言った。
  「そういうものよ」と彼女は答えた。

  
  女神は読み始めた。
  一人で五十人分のクリスマスディナーを作った日の事・・・。
  だんだん、海老の声が聞けるようになってきた日の事・・・。
  
  あっ!あの日の事か・・・。
  佳生は、未来しかなかった毎日の自分を思いだしていた。


  何もない自分を必死で作ろうとして、毎日を過ごしていた。

  速く、作れるようになりたい。
  何でも、作れるようになりたい。
  自分の感じるままに作れるようになりたい。


  それが叶うのだろうか?


  一歩店に入れば、帰るときまでそんなことを考える間もなく、
  仕込みと注文に追われていた日々・・・。


  速く?何でも?自分の感性?

  「速く」は作れる様になるだろう。
  そしてこの店の料理は、「何でも」作れるようになるだろう。

  でも・・・。
  「自分の感性?」


  感じることもなく、考えることもなく・・・。
  ロボットのように仕事をしていた。
  ただやみくもに時間が過ぎていた。
    
  そんな毎日でも、少しずつ、ほんの少しずつではあるけれど
  素材の声が聞けるようになってきている事が、手紙には書か
  れていた。


  女神は微笑みながら読み続けた。
  すっかり忘れていた。


  何も無いのに不安を持っていなかった日々を・・・。
  いや、
  何も無いから不安を持っていなかった日々を。


  作れば良いだけ。

  本当は未来のことなど望んじゃいなかった。
  難しいことも望んじゃいなかった。
  目の前に来る波を必死で泳いでいただけ。
  
  それを、不安にも、疑問にも思っていなかった。
  当然のように、乗り越えようとしていた。


  いつからその波を、よけようとするようになったのか?
  いつからその波を、不安に思うようになったのか?
  いつからその波を、疑問に思うようになったのか?
  いつからその波に、不平を言うようになったのか?


  いつから自分の意志を、よけようとするのか?
  いつから自分を意志を、不安に思うのか?
  いつから自分を意志を、疑問に思うのか?
  いつから誰かに、不平を言うのか?



  「教えてあげる」
  女神がささやいた。



  突然鳴り響く警報・・・。
  耳を塞いでも聞こえてくる非常ベルの音・・・。

  鼓動が激しくなる。

  身体が動く。

  目が開いて、驚きは回りを見渡す。

  目を開けているのに、全てが霞んでいた。


  見慣れたテーブルと椅子がぼやけていた。
  見慣れたカーテンがぼやけていた。
  見慣れた天井がぼやけていた。

  見慣れた目覚まし時計が視界に入る。


  「これだ!」


  彼は、その目覚まし時計を抱えて、指先で探した。
  「スイッチは」
  ・・・。

  「早く、女神が・・・」



  夢だった。
  現実かと思っていた。
  女神がいた。
  何かを読んでいた。

  それは、彼が書いた手紙だった。


  あの手紙は何だったのだろう?
  あの青い箱は何だったのだろう?

  本当にあるのだろうか?
  女神は、何を伝えるために来たのだろうか?



  身体の中に、何もない自分を作ろうとしていた感覚だけが
  残されていた。
  


今日も、新しいインスピレーションを
求めて・・・。
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そして・・・

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ここにいる Vol.873

2009-11-12 10:00:00
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  「魚介類でパテを作ってくれないかな」

  オーナーがチーフの大村に向かって話していた。
  佳生は、そのすぐ横で洗い物をしていたので聞こえた。


  チーフは、魚屋に電話した。
  「あっ、レストラン○○の大村です。鈴木さんは・・・。
   あ、どうも大村です。実はムースなんだけれど・・・・。
   そうそう、それすり身。使えるような魚、なんかある?  
   それと、ほぐし身の蟹とか・・・。ムールなんかも・・・」

  

  翌日、普段の荷物とはちょっと違った細々としたものばかりの
  発砲が届いた。

  佳生は、その箱に入っているものをそのままバットに移し、他の
  ものと混ざらないように冷蔵庫に入れた。


  チーフがキッチンに入ってきた。
  「おはようございます」
  「おはよう」


  朝来て、すぐに冷蔵庫を開けるのが大村の習慣だ。
  今日のランチで使うもの、仕込むもの、その他が綺麗に並んでいれ
  ば問題ないが、乱雑になっていると、仕込みの時間が無くなるほど
  怒り狂う。


  その乱雑の基準が、決まっていれば何の苦労もなかった。
  昨日平気だった冷蔵庫内の配置が、今日は気に入らないと怒るのだ。


  そこまで怒らなくてもいいのに・・・。
  佳生はいつもそう思ったけれど、どうしようもなかった。
  そして、いつも後輩の荒川が怒られ役だった。


  冷蔵庫は佳生も使っているから同様に怒られて当然なのに、いつも
  彼が怒られていた。


  勿論、冷蔵庫以外では佳生もしょっちゅう怒鳴られていた。
  まだ仕事を知らないと言う意味もあるけれど、どう考えても八つ当
  たりでしょう。と思うことで説教を喰らった。


  最初の頃は、真剣に受けとめて彼の怒りを静めようと思った。
  次第に、どうも関係ないことをこじつけて説教しているのを感じた。

  確かに、料理を知らない佳生の手を取り、足を取り仕込んでくれた
  事は、感謝している。
  でも、どうでもいいことで怒鳴られるのは釈然としなかった。


  そう思うと、怒鳴られることを真剣に聞くのが馬鹿臭くなってきた。
  後輩の荒川も佳生と同じように思っているようだった。



  今日は、昨日チーフが仕込んだ魚介のパテをオーナーが試食した。
  余り良い返事ではなかったのだろう。

  チーフは得意なものは旨いけれど、それ以外を作ることになると、
  かなり投げやりになるのを佳生は知っていた。

  自分が好きな料理以外は料理で無いようなやり方をした。


  コレには佳生もクビをかしげるのだが、大村の得意な料理は本当に
  旨かったから、何も言えなかった。
  特に鴨肉や仔羊肉の料理は絶品だった。


  メインと前菜の違いこそあれ、あの料理をさりげなく作れる大村な
  らかなり旨いパテを作ると思ったのが間違いだった。
  
  材料をロボクープ(フードプロセッサ)に入れてかき混ぜて型に入
  れ焼くだけだった。
  別段、何が悪い訳じゃない。
  パテというものは、削ぎ落として作り方を簡潔にしてしまえば元々
  こんなものだ。


  簡潔に削ぎ落とすことは、いい。
  でも、大村は時々、いや頻繁に大切なことを忘れるように思えた。


  昔だったら、コレでも佳生には目を見張るようなテクニックだった
  のだが、暇なときは料理の本を開いている佳生にとってもはや納得
  できない作り方だった。


  小難しいテクニックや、フランス語は大村に何も言えない。
  でも・・・・。

  祖母に育てられ祖母が料理を作る姿をずっと見てきた佳生にとって、
  大村の何処か投げやりな、マニュアル通りの作り方や、突発的な感
  情には、ついて行けないと思った。


  大村が得意な料理以外も、あの情熱で作ってくれたら・・・。
  佳生は、最近そう思うことがしばしばだった。
  
  ふと気がつくと、荒川が怒られていた。
  佳生はそれを聞いて思った。


  「もういい。期待することを止めよう、自分を生きよう」
   このチーフのいいところだけを学ぼう、そしてそれ以外は・・・・。
   『よいしょ』とどこかへ捨ててしまえ」


  佳生は祖母の顔を思い出した。
  大丈夫、祖母が大切なことは教えてくれる。
  毎日は、そのままを見つめればいい。


  そして自分の背一杯をしよう、それで出来ないことは仕方がない。
  それまでだ。

  そして、そう思うのも自分の勝手だ。

  ただ、自分の背一杯をしなければ、自分に嘘をついてしまう・・・。
  そう思った。


  佳生は祖母が言った言葉を思い出した。
  「人はいつか死ぬものよ。」

  あの言葉を聞いたのはいつだっけ・・・。


  あの時祖母が何を言いたいのか、よく解らなかった。
  歳をとって当たり前のことを言っているとしか思わなかった。
  
  「年寄りの言葉って言うのは、ひょこって出て来るんだな」

  佳生がそう思った刹那、祖母の声が聞こえた。

  「ここにいるわよ・・・」  



今日も、新しいインスピレーションを
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そして・・・

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