昭和16年に大日本製薬が「ヒロポン」を発売しました。
前後して、武田薬品工業が「ゼドリン」、参天製薬は「ホスピタン」、富山化学工業が「ネオアゴチン」など、二十社を超える製薬会社が同様の薬品を発売しました。
これらは、メタンフェタミン、「覚せい剤」です。
当時は、「効果抜群の栄養ドリンク」くらいの認識だったようで、作家の坂口安吾もその使用を自身の作品に綴っています。
ヒロポンを用いて仕事をすると、三日や四日の徹夜ぐらい平気の代りに、いざ仕事が終って眠りたいという時に、眠ることができない。眠るためには酒を飲む必要があり、ヒロポンの効果を消して眠るまでには多量の酒が必要で、ウイスキーを一本半か二本飲む必要がある。原稿料がウイスキーで消えてなくなり足がでるから、バカげた話で、私は要するに、全然お金をもうけていないのである。
坂口安吾『反スタイルの記』より(昭和22年「東京新聞」)
ヒロポンの効能とされる、疲労倦怠感の除去、活力の増大感は脳が一時的にそう錯覚するだけです。
薬が切れると強烈な疲労感に襲われ、長期使用により幻覚を見たり、人格崩壊に繋がることがあります。
当時は、数十万~数百万人の乱用者がいたとされています。
今回、清原容疑者が逮捕されたことで、元プロ野球選手や芸能人たちがいろんなコメントを寄せています。
中にはピント外れのものも数多く見受けられます。
(後述します)
まずは中毒と言う言い方について。
「覚せい剤中毒」とすると、毒を抜いてしまえば健康体に戻れるようなニュアンスがあります。
正しくは「覚せい剤依存症」です。
ひとたび覚せい剤依存症になってしまうと、その人は絶対に完治しません。
こう考えてください。
糖尿病という慢性疾患を患っても、運動や食事、またインスリン投与などによって、天寿を全うすることは可能です。
でも、ケーキバイキングに行って、健康な人と同じように、お腹一杯ケーキを食べるようなことはできませんよね。
覚せい剤依存症の人は、覚せい剤を断つことができても、死ぬまで「覚せい剤をやりたい」という欲求と戦わなければならないのです。
脳が覚せい剤をやったときの関連情報を記憶しているので、注射器、パイプ、ミネラルウォーターを見たりするとフラッシュバックします。
やっていた場所、そのとき聴いていた音楽、隠語として使っていた、例えばスピード、アイス、Sなどを聞いても当時の快感を思い出し、欲求と戦わなければなりません。
「清原は意思が弱いんだなぁ」
「子どものことを思うなら、やめたらよかったのに」
などのコメントは、的外れであることが分かります。
依存症になってしまったら、自分の力だけではどうすることもできないのです。
意思が強ければやめられるとかそんな問題ではありません。
以前、「覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか?」
というCMが流されていました。
安易に薬物に手を出してしまう若者たちに、警鐘を鳴らすために、このCMは効果的だったかも知れません。
このCMの意味するところは、
「覚せい剤をやめなければ、人間ではなくなる」
と言うことです。
でも、このような強烈な印象を与えるコピーは、文章の意味より「人間やめる」という言葉ばかりが際立って、
「一旦、覚せい剤をやった人は、もはや人間ではない」と受け取る人もいるでしょう。
「立ち直れ」とか「もう二度と手を出すな」と社会復帰を促しておきながら、「お前は、もはや人間ではない」
と言い放つ。
ひどい話です。
逮捕された容疑者が、覚せい剤の入手ルートを明かさないのは、「出たとき、また売ってほしい」と思っているケースが多いそうです。
大事なのは、清原容疑者が「覚せい剤をやめる」と決意することです。
闇ルートとの関係を完全に立つ。
そして周りのサポートを得ながら、薬物リハビリ施設に通う、入院するなどして、フラッシュバックと戦いながら、覚せい剤抜きの生活を続けていく。
これしかないでしょう。
高い再犯率を考えても、覚せい剤を完全に断つことが、どれほど困難かは容易に想像できます。
「早く立ち直ってほしい」
「逆転満塁ホームランを打ってほしい」
現段階では、清原容疑者が、今どんな心持ちでいるのか全く分かりません。
止めたいと思っているのか、それとも出たら今度はバレないようにやろうと思っているのか、反省しているのか、そうではないのか。
この段階で、彼にエールを送ることにどんな意味があるのでしょう?
僕はこのようなコメントをする人を信用できません。
彼が心から反省し、立ち直りたいと決断してから応援するのが筋でしょう。
「番長と呼ばれていたが、本当は気が弱かったから」
「度重なる怪我で辛い思いをしていた」
「巨人に移籍しなかったら、やっていなかったかも」
あのねぇ、彼以上に辛い思いをし、苦しんでいる人がどれだけいると思っているのか?
辛い思いと覚せい剤に手を染めることに、何か因果関係があるとでも?
このようなコメントは、もはや論外です。
おっと、つらつらと長く書きすぎました。(汗)


