玄関でゆりの花が開いた朝、 

叔父の急な訃報が飛び込んできた。


 幼い頃、叔父はしょっちゅう、

 職場と自宅の間にある我が家へ立ち寄ってくれた。

 スーパーカブのエンジン音が聞こえると、

 幼い私は勇んで玄関へ走った。

「おっちゃん!」

「おう!乗るか?」 

「うん!」

 叔父は私の体をヒョイと抱き上げて、

 カブの荷台に乗せると、

 自分もまたがって言う。 

「しっかり掴んどきや」

 「うん、わかった」

 叔父の背中にギュッとしがみつくと、

 ご機嫌なエンジン音が再び高まる。

 左、左、左と、角を3回曲がって戻る。

 たった20秒ほどのドライブだが、

 この風を感じる一瞬が大好きだった。

 10回に1回ほどだけ、

予想に反して右に曲がることがあった。

 「やったぁ!」

 おっちゃんの背中で小さく叫ぶ。

 右に曲がるということは、

今日は長距離コースだ。

 川沿いまで行くんだ!

 おっちゃんには見えてないけど、

 ニッコニコな顔で1分コースのドライブを堪能した。

 

 本当にかわいがってもらったなぁ。

 私が今もこんなに乗り物好きなのは

 叔父の影響なのかも知れない。

 今川焼が大好物になったのも、

 お好み焼きが大好物になったのも、

 ぜんぶ叔父の影響だ。

 あの屈託のない笑顔に会えるのが本当に嬉しかった。


  人生は寂寥と悔恨の連続だ。

 なんの恩返しも出来なかった。

 叔父に見せたいと思っていたものも

 結局、見せられないままで
約束を守れなかった。

 けれども楽しかった思い出は

 確かにこの胸に刻まれてる。

 ありがとうと心の中で繰り返しながら

 手を合わせるたびに涙があふれてくる。

 きっともう今頃、

我が父と再会しているだろうな。 

「おう、兄貴!久しぶり」なんて、

 あの屈託のない笑顔で。