鉄斎の生き方が如実に表現された「没後100年富岡鉄斎」展。

“文人画家”と言われる鉄斎ですが、

文人という言葉のイメージよりももっとストイックで真面目な学者だったことが、

50歳代ぐらいまでの作品から感じられます。

それが70歳を越える頃になって、明らかに絵も線も墨の色も変化するのが圧巻。

勢いを感じるいきいきとした線、清々しいまでの堂々とした構図、

そして“黒”の美を最大に表したような墨使い。

80歳代の後半になって描かれた作品の、

ハッとするほどの強いエネルギー、そして軽やかさ。

相反するようだけど、両方を備えている。

見ているだけで胸がすく作品でした。



鉄斎は若い頃から、

「万巻の書を読み、万里の路を行く」という先人の教えを

徹底して実践してきたそうです。

多くの本を読んで人格を磨き、旅をせよ。

鉄斎は70歳代になって、

何かを得て何かを手放したんだろうな。

もしくは何かを手放して何かを得たのかもしれない。

個人的な感想ですが、そんなふうに感じました。

一般的な解説には、晩年に確立された画風を指して

「解放されたような」とか「奔放な」などとありますが、

そういう「何かの呪縛から放たれた」ような気配ではなく、

ここまでの人生での研鑽と、旅で出会った風景や情景、

そして旅先での人との交流の中から得た

とても重要な“生きる要素”みたいなものが相まって、

なにかひとつの形が生み出された結果がこの作品なんだろうな、

と、そう思ったのです。

ちょっと書き方が硬いなぁ。



実際、自分が50も半ばになって、

まぁ鉄斎さんのような人生の研鑽はぜんぜん積めてないんですけど、

それでも、ここまで生きてみないとわからなかったことについて

いろいろと思うところがあるわけですよ。

みなさんもおありですよね、きっと。

ここまで来て、初めて手放せる感情とか思想とか、いろいろ。

それは旅をして学んだところが非常に大きい。

私自身は本当にそう思います。

特に九州から帰ってすぐこの展覧会を観に行った私としては、

旅で得たものの大きさを心に持ったまま鑑賞していたので、

そこには深い共感を抱いたわけです。



ま、鉄斎の作品の感想に、私のことを出してきたらしばかれそうですが、

でもね、絵を見るって、そういうことだと私は思うのです。

人の作品という鏡に自分を映しているからこそ、

こんなに感動したり感銘を受けるものだと。



心の中の配分が変化すると言えばいいのでしょうか、

もっとずっと高いレベルの、そういった境地に鉄斎さんが達した時に描かれたものこそ、

この最晩年の作品なのかな、と思いました。

仙人ですわ、この人はまさに。



亡くなる寸前に、貧困者のためにと京都市に財を寄付して、

そしてエネルギッシュな作品を描いて人にあげたりして、

大震災の義援金を寄付して、おそらく亡くなる時まで絵を描き続けて、

大晦日に数え89歳で生涯を閉じた鉄斎。

なんという理想的な生き方なんだろう。

憧れます。こんなふうに生きたい。



同時に見られる近代美術館のコレクション展も見ごたえたっぷりで、

「雪舟」展とハシゴしようと思っていたけど時間切れでした。

雪舟は次の日に改めて行ってきたのでまた感想書きます。



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