コンピングの練習 思った事2025年10月21日 ( 火)
Politelyを聞き直した理由前回の記事で取り上げた「Politely」を録音から改めて聞いたのには、理由があった。数年前に購入していた、Jeb Pattonの『An Approach to Comping』という教則本。この休みの間に、それをふと思い出して開いたのがきっかけだった。初日は、最初に出てくるブルースの譜面をほぼ覚えて弾けるようにした。そこで、ふと考えた。『今まで何度かこの本を最初から見ては、そのたびに新しい発見があったけれど、結局、最後まで辿り着いたことは一度もなかった。今回は この第一巻の最後の曲を見てみよう。』そうしてページをめくった先にあったのが、「Politely」のコンピングだった。それはYouTubeで自分が再生箇所として指定して聞いた部分だった。Jeb Pattonとの偶然の接点話は少しそれるが、数年前、なんとJeb Patton本人が、自分の住む町の近くのレストランで演奏する機会があった。偶然その情報を知って、本当に驚いた。自分はパリ郊外の静かな町で暮らしている。音響設備も専門スタッフもいないような、ごく普通のレストランでのジャズ・コンサートだった。最初はサックスとドラムの音ばかりが大きく響き、ピアノの音はとても小さかった。こうした状況で、ピアニストにはいくつかの対応パターンがある。 力で押し切ってピアノを叩き、大きな音で対応する人 昔は叩いていたけれど、それに疲れて今は普通に弾く人 音響の良し悪しに関係なく、常に繊細に弾く人Jeb Pattonは、間違いなく3つ目のタイプだった。レストランのジャズ好きの店長から何か聞かれていたようだが、「このままでいい」と言って、そのまま演奏を続けていた。確か第2部からだったと思う。店長の判断か、あるいはお客の反応を受けてか、ピアノの譜面台が付いた上蓋が丸ごと外された。すると、音が格段に聞こえやすくなった。他のミュージシャンが休憩中にワインを楽しんでいたのに対して、Jebは水だけを頼んでいた。演奏の雰囲気にも立ち居振る舞いにも、どこかクラシックのピアニストのような端正さがあり、いわゆる“ジャズマン”の持つワイルドさやミステリアスな雰囲気とは一線を画していた。英語しか話せない彼に話しかけたものの、英語で会話が続けられず悔しかった記憶がある。ベーシストのソロの時のコンピングも非常に見事で、強く印象に残っている。教則本と向き合い直すそのコンサートのずっと前に、彼の教則本を2冊購入していたのだが、日々の忙しさに追われて、じっくりと目を通したことはなかった。軽く目を通して、いくつかの課題を弾いてみただけだった。この本には、耳コピによるコンピングの譜例が載っている。しかし、譜面で見ると非常に弾きにくい。今回は以前よりかなり弾きやすくなっていたが、それでも、やっぱり弾きづらさはあった。コンピングには、テーマやソロのメロディが含まれていないことが多い。だから、誰かがテーマを弾いている、あるいはソロを取っている場面を想定して練習することになる。これはいずれプロに直接聞いてみたいことの一つだ。昨日は最初の16小節をSibeliusに打ち込み、コードネームと度数を書き込んだ。コード進行の構造が理解しやすくなった。なぜそこまで手間をかけるのかというと、移調譜を作りやすくするためだ。いいアイデアだと判断したら、それを移調して他のキーでも弾けるようにしたい。楽譜なしで根性で練習する人は本当にすごいと思うが、譜面があれば、キーによってはすごく役に立つ。16小節の打ち込みが終わったあと、YouTubeの録音を再生してみた。録音と音の再確認まだいいヘッドフォンで聴いたわけではなく、PCのスピーカーで再生しただけだったが、教則本に載っていた音が実際の録音では聞こえない部分があった。実際にその音が鳴っているかどうかは、必要であれば再生速度を落としたり、「Transcribe」などのソフトを使えば確認できるだろう。ただ、その時、あることを考えた。PCのスピーカーで再生した時に聞こえなかった音がない方が、むしろやりたいことがよく理解できるし、弾く時も簡単だし、何より覚えやすかった。 教則本に書いてあることは、まず一つの提案としてとらえ、実際にの録音を聞き、そして聞こえて弾いてみて、自分で聞こえた通りの音遣いに納得したなら、自分の耳を信じている。そのまま、それで弾けばいい。よく言われる「録音と一緒に弾いてタイムを感じる」「ただ真似するだけでなく、どのように演奏されているかを捉えることが大事」という言葉。自分も以前、まったく同じように弾くべきだと教えられた記憶があるし、実際そうしようと思っていた。でも、ここで自分はブロックしていたのではないか、と感じた。以前ソロに関して直面した問題 耳コピでのミスを恐れすぎて、確認ばかりに時間を使い、一番大事な「弾く時間」が減ってしまった 最初から最後まで完コピして演奏することに集中しすぎて、音楽が「正確な再現」になってしまい、クラシックのようなアプローチになった バラードのようにテンポが遅い曲では、練習していなくても自然に次のソロを弾けたが、テンポの速い曲では,260bpmとかだとコードが頭に入っておらず、ついていけなかった。コンピングの実際的な解釈コンピングの場合、自分の小さな手では10度は届かない。無理に伸ばして弾くこともできるが、テンポが速い場合は3度に省略する、というのが今の落としどころになっている。大切なのは、どのタイミングで和音を入れるかということと、ハーモニー感のあるヴォイシングを選ぶこと。だから、耳コピ譜をそのまま再現することよりも、シェル・ヴォイシングに#11や#9、b13などの要素を加えた、シンプルで応用可能な形をいくつも作っておく方が、圧倒的に実践的だと感じている。クラシックピアノとの違い自分はクラシックを長く弾いてきたので、譜面と異なる演奏をするには、それなりの理由が必要だ。例えば、和音の音数が多すぎて物理的に手が届かない場合、重複している音を省くことはあるが、それは例外で、基本的には譜面通りに弾くのが前提だ。ショパンの《エオリアン・ハープ》はあの曲であり、ラヴェルの《クープランの墓》のトッカータは、それ以外の何ものでもない。一曲一曲が独立しており、書かれた通りに演奏するというのが基本だった。しかし、ジャズのコンピングでは、即興でその場に合わせて弾くことが求められる。そのためには、暗黙の了解として知っておかなければならないことが多い。ボイシングと“引き出し”の関係コンピングに関して言えば、知っておくべきなのは、いわゆる“ボイシング”と呼ばれる音の配置、そしてコード進行に対する基本的な連結パターンだ。それらを理解し、自分の中に取り入れるために、プロのジャズミュージシャンたちはまず耳コピを重視するのだと思う。録音からアイデアを吸収する、というのは、それほど定番なことだ。ファッションでたとえるならこれは少し例え話になるが、女性のファッションに置き換えると分かりやすいかもしれない。その日その時の気分、TPOに合わせて、鏡の前で何度も試着を繰り返す。着回しも考えながら、クローゼットの中からいろいろなアイテムを引き出して、自分のイメージに合うものを選んでいく。ジャズで「引き出しを持つ」というのは、服のように物を買って所持するという意味ではない。練習によって身につけたフレーズやヴォイシングが、頭と体に蓄積されていくことだ。そしてそれを、他の人と演奏する中で実際に使ってみる。そこではじめて“実践”になる。録音はその引き出しの中身=アイデアの宝庫とも言える。服の着回しと同じように、ジャズでも、ある曲で使ったアイデアが、別の曲でも自然と使えるようになっていく。ソロやコンピングも“言葉”のようにこれは歌詞の世界でも言えることかもしれない。「うれしい」「悲しい」「好き」「遠い」「あなた」「わたし」といった言葉は、いろんな曲に繰り返し登場する。音楽の世界でも同じで、ソロやコンピングの中で、似たような音の流れやリフが何度も使われる。それらを「言葉」として覚えておくことで、状況に応じて使いまわすことができるようになる。もちろん、定番のコード進行に沿ったモチーフもあるし、クロマチックやアプローチ・ノート、代理コードを使ったパターンもある。それらをコンピングに応用することもできる。でも、そうしたことが自分の中に定着するかどうかは、「練習」が鍵になる。わたしは、なかなか覚えられなくて、困ったことがあるが、意外にもすぐに覚えられたこともある。コンサートの当日に覚えたものが出せたこともあるし、数日練習してできるようになったものもあるし、実に数年後に、以前はどうしても覚えられなかったものが、実践で思い出して出せるようになったものもある。練習へのモチベーションただ、自分にとっては「練習」の前にもうひとつ、大事な条件がある。それは そのフレーズなり、ヴォイシング・リズムが「おもしろい」と感じられるかどうか。興味を持てるかどうか。面白い、と思えたことは自然に頭に入ってくる。 その逆は、無駄な努力になることが多い。次の16小節も写してみるつもりだ。それは、ただ正確に再現するためではない。必要と思えば、録音を聞いて、この音がない方がいいと確信したら、変えることもある。目的はそこに含まれている、一番大事な要素を身につけるために。最後にもう一度貼っておこう、ジャズ・メッセンジャーズの「Politely」。再生したいところから聴くには、Shareという機能をクリックする。そのページで、再生したい時間を入力すれば、ピンポイントで再生できる。PCで簡単にできる。- YouTubeYouTube でお気に入りの動画や音楽を楽しみ、オリジナルのコンテンツをアップロードして友だちや家族、世界中の人たちと共有しましょう。youtu.be