靴 | 音楽すること・生きること

音楽すること・生きること

フランスに住んでいます。結婚、出産、国を超えての度重なる引っ越しを経てフランスに在住、長男が小学校5年生の時から仕事を
再開。その1年後にジャズピアノを始めました。
音楽・その他、日々の出来事を綴っています。

 

 

パリをよく知っている長男と会った。
道案内をしてくれて、目的のタピオカミルクティー屋さんへ向かう途中、ふらっと通りかかった場所がなんだか素敵で、思わず写真に収めた。

こういう、雨に濡れないよう天井で覆われた小さな通りを、パッサージュという。
広い道ではない。こぢんまりとしているのに、どこかこぎれいで、不思議な魅力がある。両側にはさまざまなお店が並んでいる。

先日は急いでいたので、お店をゆっくり見ることはできなかったけれど、今度は時間のあるときに、いろいろなブティックをのぞいてみたいと思う。

さて、タピオカミルクティーを買いに行ったのは、長男のオーケストラ用の靴を見に行った

帰りのことだった。
正装用の合皮靴が、もう崩壊し始めていると言っていた。

話を聞いて、わたしは驚いた。

思い返せば、長男が高校生のころ、家族でたまたま入った庶民的な服屋で、黒い合成皮革の靴を買ったことがあった。
バイオリンの発表会用、つまりコンサート用の靴として。

その後、長男は16歳で進学のため家を出た。
オーケストラが大好きで、多い時には五つのオケを掛け持ちしていたこともある。

プロのオーケストラにエキストラで呼ばれることもある。

この10年、その一足でどれほど多くの舞台に立ってきたのだろう。

他の団員から「その靴はもう……」と言われるほどになっていたらしい。
一緒に暮らしていないので、そんな細かな生活のことまでは、わたしにはわからなかった。

けれど今回は、急ぎでコンサート用の靴をそろえたいということだけは伝わってきたので、

一緒に見に行くことにした。

 

デパートへ行くと、正装用の男性靴には1000€(約18万5千円)を超えるものまであった。
「あそこの靴は見たの?」と聞くと、長男は「1000€以上するよ」と言った。

もちろん候補には入っていないらしい。

以前わたしが履いて楽だった mephisto も見てみたが、目立つロゴが演奏用には向かないという。

結局、当初考えていた予算より少し高めの靴を中心に探すことにした。
店員さんは辛抱強く付き合ってくれ、サイズ違いを何足も試した末に、「これだ」と思える一足が見つかった。

スポーツをする人にも、音楽をする人にもわかると思うが、重心をしっかり支えてくれることがとても大事なのだ。

長男は、親しい医師であり音楽仲間でもある方から、「革靴にはシューキーパーが必須」と聞いてきたらしく、シューキーパーや手入れ用品までそろえた。

結局、予算の倍ほどの出費になった。
それでも、また10年大事に履いてくれるなら、それで十分だと思えた。

 

「長靴をはいた猫」という物語がある。フランス語ではChat botté(  シャ・ボテ  )と言う。

 わたしはそのお買い物をするときに、ふと、Chat botté(  シャ・ボテ  )の話を思い出した。

 長男とその話が重なったのだ。今回、わたしが長男にプレゼントしたのは長靴ではなく、 

オーケストラや演奏会で長男がはく正装用の靴という違いはあるけれど、 

長男もうちから出ていること、これから、自分のやりたいことに向かって 

未知のところでいろんなことに出会う長男を思うと、シチュエーションが重なったのだ。

 この靴を道具に、人生の階段を上ったり下りたりして、 いろんなものを 

つかんでいってほしい。