楽屋に戻ると、先生はいなかった。
次は先生が弾く順番で、舞台にいた。
背の高い、すごくジャズピアノがうまい大人の生徒で
いつも笑顔がさわやかな男性がいた。わたしは、背の高さが
違うので、顔を上げてその人に言った。
「エンディングでね、間違えたの。違う和音が鳴ったの。」
その人は、にっこり笑ってマイルス・デイヴィスの話を
わたしにした。
「マイルス・デイヴィスには失敗がなかったんだよ。
自分が思っていたのと違う音が鳴ったら、常に
そこからまた新しいことを始めるんだ。だからね、
そういう意味で、失敗がなかったんだよ。クラッシック
だったら、間違いとみなされるだろうけれど、ジャズでは
違うんだよ。それは新しい音なんだ。」
わたしの理解が正しければ、彼は、そんなことを、
さわやかに話してくれた。
コンサートが終わってから、先生が楽屋に戻ってきた。
先生はわたしを見て、まじめな顔で 尋ねた。
「今日、はじめて(ジャズを)舞台で弾いた?」
「ウイ。」
わたしは答えた。