11月12日
老人は弓を張りにかかる。
ὡς ὅτ᾽ ἀνὴρ φόρμιγγος ἐπιστάμενος καὶ ἀοιδῆς
ῥηϊδίως ἐτάνυσσε νέῳ περὶ κόλλοπι χορδήν, (21-406,7)
あたかも竪琴と歌に精通した男が
新しい琴柱にたやすく弦を張るが如くに
ἅψας ἀμφοτέρωθεν ἐϋστρεφὲς ἔντερον οἰός,
ὣς ἄρ᾽ ἄτερ σπουδῆς τάνυσεν μέγα τόξον Ὀδυσσεύς. (21-408,9)
両端を繋ぎ留めてよく綯った羊の腸(の弦)を(張るが如くに)
その如くに難なくオデュッセウスは大弓を張った
武具と楽器が思いがけない共通性を持っていることに気づく。そして戦争と音楽、全く別世界であるのだが、オデュッセウスの弓捌きは名伶人の芸域に並ぶものだったということだろう。
「よく綯った羊の腸をἐϋστρεφὲς ἔντερον οἰός」とある。弦の材料はホメーロスの時代には羊の腸だったことが分かる。いまでこそナイロンやスチール製が普及しているが、最近まで弦楽器の弦はそうだった。そして日本の琴は絹だったという。
窓から桜の木が何本か見える。今年は紅葉が遅いかと思っていたが、昨日からの雨でまた大分色づきを増した。
淡墨の桜紅葉の雨雫 和生
「雫」とは面白い漢字だ。そしていかにも国字らしい。