『オデュッセイアー』の原詩を冒頭から読んでいくことにします。

 

まず冒頭です。

 

ἄνδρα μοι ἔννεπε, μοῦσα, πολύτροπον, ὃς μάλα πολλὰ

πλάγχθη, ἐπεὶ Τροίης ἱερὸν πτολίεθρον ἔπερσεν: (1-1,2)

男を語れ、ムーサよ、術策に長けた(男を)、彼は実に多くの

遍歴した、トロイアの聖なる町を滅ぼしてから

 

詩篇『オデュッセイアー』のはじまりです。

詩篇冒頭の語は ἄνδρα です。『イーリアス』冒頭 μῆνιν と好対照です。方やオデュッセウスという「人物」、方やアキレウスの「怒り」です。

無論、詩篇『オデュッセイアー』の主題を別の仕方で捉えることも不可能ではありません。たとえば「怒り」と対応させて「術策」とか、物語の進行を予告して「認知」とか「帰還」とかです。しかしやはりこの、術策のみならず勇武を兼ね備え、魅力と謎とに富んだオデュッセウスという人物、テーレマコスやペーネロペイアや豚飼や求婚者達、妖女カリュプソ-、巨人ポュペイモス、娘ナウシカアーそして女神アテネー等々、全ての登場人物達の中心に位置し活躍するオデュッセウスという人物、「その人 ἄνδρα」ほどこの詩篇冒頭に提示する主題としてふさわしいものはないようです。