8月30日
ペーネロペイアはテーレマコスを亡き者にしようとの謀議を耳にし、普段は階上にいてあまり出てこないのだが、広間に姿を現して求婚者達を問い詰める。
ペーネロペイアの詰問に対して、求婚者の一人(これも頭目格の)エウリュマコスが応える。口から出任せの気休めだ。
曰く、テーレマコスに危害を加えるような輩、
οὐκ ἔσθ᾽ οὗτος ἀνὴρ οὐδ᾽ ἔσσεται οὐδὲ γένηται, (16-437)
そんな輩はいないし、これからもいないだらうし,生まれても来ないでしょう
そして、こんなことも付け加える。
・・・ οὐδέ τί μιν θάνατον τρομέεσθαι ἄνωγα
ἔκ γε μνηστήρων: θεόθεν δ᾽ οὐκ ἔστ᾽ ἀλέασθαι. (16-446,7)
・・・ 彼の死を恐れることは全くありません
求婚者達から(の死)は、神からの(死は)避け得ないにしても
いかにももっともらしく、かなり雄弁でさえある。
このエウリュマコスの言葉は十数行に亘っている。その中には、上記引用以外にも取り上げるべき特徴ある詩行がある。ちょっと長くなるので項を改めることにしよう。
山路閑古『古川柳』でもう一つ面白かったのは、『雨譚註万句合』という川柳注釈の紹介だ。これは江戸の川柳作家小山雨譚の古川柳注釈書だが、この註の簡潔さには舌を巻く。
団扇売り首へかけると残暑かな。
註「花火売りになる」
残暑になるとそれまで団扇売りだった者が、花火を入れた箱を首に掛けて売り歩くというのだ。成る程と得心するのは、註のお陰だ。
傘(からかさ)を顎に持たせて呼んで居る
註「雨に物を買ひ」
雨の中を、買い物包みを両手で提げて、傘を顎(と肩)で支えながら駕籠を呼んでる図。「顎に持たせて」の句もいいが、「物を買ひ」で情景がくっきりと明確になってくる。
句は略すが、註に「不面目。川柳古狸」というのもある。句を「不面目(くだらぬ)」とけなし、返す刀で選者を「古狸(タヌキ親父)」と罵倒している。これは痛快だ。
世に(ホメーロスをはじめとする)古典の注釈書は数限りなくある。それらの中でもこの『雨譚註万句合』は簡潔さにおいて群を抜いているのではないか。