9月6日
オデュッセウスは豚飼に連れられて町に向かう。途中で山羊を曳いているメランテウスと出くわす。メランテウスは言う。
νῦν μὲν δὴ μάλα πάγχυ κακὸς κακὸν ἡγηλάζει,
ὡς αἰεὶ τὸν ὁμοῖον ἄγει θεὸς ὡς τὸν ὁμοῖν. (17-217,8)
ほら、何とも全く卑しい奴が卑しい奴を連れて行くぞ
こんな風に神はいつも同類を同類に会わせるのだ
侮辱の言葉も格言風だ。そして更に、
πῇ δὴ τόνδε μολοβρὸν ἄγεις, ἀμέγαρτε συβῶτα,
πτωχὸν ἀνιηρόν δαιτῶν ἀπολυμαντῆρα; (17-219,20)
その意地汚い野郎をどこへ連れて行くんだ、有難くない豚飼よ
不快なる乞食男、宴会の破壊者を
ホメーロスによる「罵詈雑言集」を作ってみようと思ってまだ果たしていない。この四行にはその材料が一杯詰まっている。「意地汚い野郎μολοβρὸν」「有難くないἀμέγαρτε 」「不快なる ἀνιηρόν」「破壊者ἀπολυμαντῆρα」。よくぞここまでぽんぽんと出てくるものだ。
日本における罵詈雑言はどうか。無論あることは間違いないが、日本の古典でホメーロス並に活躍している例はあるのだろうか。なかなかないなと思っていたら、落語にはあることに気づいた。成る程、落語は罵詈雑言あるいは悪態についてはホメーロスに負けないかも知れない。悪態といえば『坊ちゃん』の「ハイカラ野郎の、ペテン師の、イカサマ野郎の、猫被りの、香具師の、モモンガ-の、岡っ引きの、わんわん鳴けば犬も同然な奴」が思い浮かぶが、これも漱石は落語ファンだったから落語から学んだのに違いない。