オリュンポスでアテーネーはゼウスに、オデュッセウスが帰還を果たせず足止めを喰らっていることに苦情を言っていました。その結果、オデュッセウスが引き留められているカリュプソーの許にはヘルメイアースが派遣されることに、そして息子テーレマコスの許にはアテーネーが赴くことになります。そのアテーネーのオデュッセウスの館訪問の様子です。

 

βῆ δὲ κατ᾽ Οὐλύμποιο καρήνων ἀίξασα,

στῆ δ᾽ Ἰθάκης ἐνὶ δήμῳ ἐπὶ προθύροις Ὀδυσῆος,

οὐδοῦ ἐπ᾽ αὐλείου: παλάμῃ δ᾽ ἔχε χάλκεον ἔγχος,

εἰδομένη ξείνῳ, Ταφίων ἡγήτορι Μέντῃ.

εὗρε δ᾽ ἄρα μνηστῆρας ἀγήνορας. οἱ μὲν ἔπειτα

πεσσοῖσι προπάροιθε θυράων θυμὸν ἔτερπον

ἥμενοι ἐν ῥινοῖσι βοῶν, οὓς ἔκτανον αὐτοί: (1-102~8)

オリュンポスの頂から飛び降りていって

イタケーの国のオデュッセウスの館の玄関先に立った

中庭口の閾の所に、手には青銅の槍を持って

客人タポス人達の領主メンテースに姿を似せて

高慢な求婚者達を見た。彼等はと言えば

門前で石ころ遊びに心楽しんでいた

彼ら自身が屠った牛の皮に座して

 

102,3行目の行頭の βῆ、στῆ の動詞について Stanford は

The curt(短い)rhyming words emphasizes the abruptness of her action

と註をつけています。ホメーロスの詩篇では、神の移動はしばしば迅速ですが、ここもそうです。

105行目に ξείνῳ とあります。ホメーロス世界において ξεῖνος はことの他重要な語です。少し後で再度取り上げます。

106行目から三行、ἀγήνορας(高慢)な求婚者達の姿が点描されています。

来るべき惨劇も知らず脳天気に「石ころ遊び」に興じています。πεσσός がどんなものを指すのか。LSJ では

oval-shaped stone for playing draughts(チェッカー)or backgammon

と訳語を与えていますが正確なところは不明です。

似た遊具の例では『イーリアス』でパトロクロスの亡霊が言及した ἀστράγαλος があります。

 

ἤματι τῷ ὅτε παῖδα κατέκτανον Ἀμφιδάμαντος

νήπιος οὐκ ἐθέλων ἀμφ᾽ ἀστραγάλοισι χολωθείς: (『イーリアス』23-87,8)

アンピダマースの子を私が殺めた日のことだ

愚かにも、そんなつもりはなかったのだが、アストラガロスのことで怒って

 

ἀστράγαλος は LSJ では knucklebones used as dice or a game played with dice と説明されています。

おそらく二つは別のもので、別の遊び方をしたと思われます。しかしいずれもホメーロス世界の遊びの世界を垣間見せ、興味をそそるものがあります。

 

そしてテーレマコス登場です。

 

τὴν δὲ πολὺ πρῶτος ἴδε Τηλέμαχος θεοειδής, (1-113)

 彼の女神を神の如きテーレマコスが真っ先に見つけた

 

そしてすぐ駆け寄ります。

 

βῆ δ᾽ ἰθὺς προθύροιο, νεμεσσήθη δ᾽ ἐνὶ θυμῷ

ξεῖνον δηθὰ θύρῃσιν ἐφεστάμεν: ἐγγύθι δὲ στὰς

χεῖρ᾽ ἕλε δεξιτερὴν καὶ ἐδέξατο χάλκεον ἔγχος,

καί μιν φωνήσας ἔπεα πτερόεντα προσηύδα:

χαῖρε, ξεῖνε, παρ᾽ ἄμμι φιλήσεαι: αὐτὰρ ἔπειτα

δείπνου πασσάμενος μυθήσεαι ὅττεό σε χρή. (1-119~24)

真っ直ぐに玄関先に行った、心に怪しからぬことだとおもったからだ

客人が長い間門のところで立っていることが。近くに立って

右手をとり青銅の槍を受け取り

彼に声をかけて翼ある言葉をいった

ようこそ、客人よ、私どもの所で歓待を受けて下さい。そして

食事をしてからあなたが何を必要とされているか仰って下さい

 

120行目に ξεῖνον、そして123行目にも ξεῖνε の語があります。West は客人受け入れには典型的手順があるとして、次の八段階に分けています。

1.     the new arrival waits at the entrance until (103~5)

2.     one of the company notices him  (113)

3.     gets up from his seat and hasten to the doorway (119)

4.     takes the visitor by the hand  (121)

5.     lead him in  (125)

6.     offers him a seat (130)

7.     fetches food and invites him to eat (124、139~)

8.     after a meal come questions (124,170~)

各項の後ろに括弧書で、それぞれの動きに対応するこの場面での詩行を付記してみました。第7項と第8項については、実際の行動は上記引用のかなり後ですが、124行目でテーレマコスの口からそれが予告されています。これを見ると、テーレマコスはしかるべき手順を見事に踏んでいます。時として頼りなさを見せるテーレマコスですが、客人歓待の作法については間然とするところがありません。

このような客人歓待の場面は両詩篇に何回も出てきます。『イーリアス』でも、和解使節団のアキレウス陣営訪問、ネストールとオデュッセウスのペーレウスの館訪問などがあります。『オデュッセイアー』では今回の箇所をはじめ更に数多くあります。この詩篇がテーレマコスの小旅行とオデュッセウスの漂流譚からなっていることを考えると、それは当然のことかもしれません。

これらの場面はほとんどが上記定式を基本として、場面に応じた変化を付けています。そんな中で、定式を大きく外れる例が稀にあります。『イーリアス』最終歌におけるプリアモスのアキレウス訪問の場面はその一つです。この時プリアモスは、導き入れられるのを待たず、いきなりアキレウスの膝に取り縋ったのでした。これと好一対なのが『オデュッセイアー』第七歌のオデュッセウスがアーレーテーの膝に取り縋った場面です。これらはいわば異常事態であり定式を超える十分な理由がありました。

もう一つ定式を外れる例として挙げられそうなのが、一つ目巨人のオデュッセウスに対する対応です。巨人はオデュッセウスを見つけるなりいきなり

 

ὦ ξεῖνοι, τίνες ἐστέ; πόθεν πλεῖθ᾽ ὑγρὰ κέλευθα; (『オデュッセイアー』9-252)

余所者達よ、お前等は誰だ。どこから海上の道を渡ってきたのか

 

と誰何したのでした。食事の提供もあらばこそです。巨人が

 

νήπιός εἰς, ὦ ξεῖν᾽, ἢ τηλόθεν εἰλήλουθας,

ὅς με θεοὺς κέλεαι ἢ δειδίμεν ἢ ἀλέασθαι: (9-273,4)

  愚か者だな、余所者よ、よっぽど遠くからやってきたのか

  神々を恐れろとか憚れとか俺に向かって言うとは

 

というような無法者であってみれば、これも当然のことかもしれません。