12月9日
ペーネロペイアは、オデュッセウスの「もう一人で寝るから床を準備してくれ」との言葉をうけて、召使いに「部屋から彼が作った寝台を運び出して来て広間に据えるように」と言う。
ὣς ἄρ᾽ ἔφη πόσιος πειρωμένη: αὐτὰρ Ὀδυσσεὺς
ὀχθήσας ἄλοχον προσεφώνεε κεδνὰ ἰδυῖαν: (23―181,2)
そのように言った、夫を試そうとして。オデュッセウスの方は
憤然として貞節を心得た妻に向かって言った
そして寝台運び出しが不可能な理由を述べる。その理由の一節は明日に譲るとして、上記二行をみておこう。
「試そうとしてπειρωμένη」とある。すなわち、この寝台がペーネロペイアの予告していた夫婦二人のみが知る「印σῆμα」であった。それに対しオデュッセウスは「憤然としてὀχθήσας 」とあり、彼は「試し」とは気づかずに反応したもののようだ。というのは、それと気づいていたら「憤然」とではなく「ニヤリ」としたはずだからだ。まんまと引っかかったことになる。無論すぐ後でみるようにそれで結果オーライではあるのだが、思慮深く術策に長けたオデュッセウスにしては珍しい単純素朴さだ。オデュッセウスの意外な一面が妻による最後の認知の場面で出ている。
とここまで書いて来て、本当にオデュッセウスは「試し」に気づいていなかったのか、との思いが湧いてきた。気づいて、内心ニヤリとしつつも引っかかった風を装って憤然としたのではないか。詩人が常に全てを述べているとは限らない。「引っかかった風を装って」を省略したのかも知れぬ。ペーネロペイアにしても、詩編の表面では前触れなく弓競技の計画を持ち出したり、唐突とも思える言動があった。
そして更に、ここからは推理というより妄想の域に入るのだが、オデュッセウスがホメーロスをも欺いたということはあり得ないか。登場人物が作者を欺く、コレも面白いではないか。そんな作品を書いてみたい。『オデュッセイアー』は整然とまとまった物語ではない。所々にズレや裂け目、そして謎がありそれが妄想を刺激し、パロディーや裏話、異聞や続編を書いてみたいと思わせるところがある。