11月24日
オデュッセウス側の槍は求婚者達を倒していく。更に見物を決め込んでいたはずのアテーネーも山羊皮楯(αἰγίς)を揮い加勢する。それに次の詩行が続く。
οἱ δ᾽ ἐφέβοντο κατὰ μέγαρον βόες ὣς ἀγελαῖαι: (22-299)
彼らはあたかも群れた牛の如くに広間中を逃げ惑った
τὰς μέν τ᾽ αἰόλος οἶστρος ἐφορμηθεὶς ἐδόνησεν
ὥρῃ ἐν εἰαρινῇ, ὅτε τ᾽ ἤματα μακρὰ πέλονται. (22-300,1)
(その牛たちを)目まぐるしく飛ぶ虻が襲いかかって追い回すのだ
昼が長くなる春の季節に
虻登場。虻が巨大な牛を追い回す。
「春の季節にὥρῃ ἐν εἰαρινῇ」の詩句は耳に残っている。『イーリアス』にあったと思って確かめてみたら第二歌にあった。アカイアの軍勢が続々集結する様の比喩だ。
ἠΰτε μυιάων ἁδινάων ἔθνεα πολλὰ (2-460)
あたかも夥しい蝿の類いの如くに
αἵ τε κατὰ σταθμὸν ποιμνήϊον ἠλάσκουσιν
ὥρῃ ἐν εἰαρινῇ ὅτε τε γλάγος ἄγγεα δεύει, (2-470,1)
(その蝿達は)羊小屋中を飛びまわるのだ
乳が器を濡らす春の季節に
こっち『イーリアス』の比喩では春の形容「乳が器を濡らす」に眼目がある。一方『オデュッセイアー』の比喩においては、春の形容はさらりと「昼が長くなる」で変哲ないが、その春に「牛を虻が追い回す」ところに眼目がある。両比喩、いずれ劣らぬ秀逸さで好一対だ。
「鴛鴦の沓」という季語があることを初めて知った。知ったのは歳時記でではなく、ishikawa_eijiと言う人の今日のツイッターでだ。この人は『イーリアス』を読み続けていてその進行状況が窺えるのと、色々な古典や言葉について関連知識を得ることが出来るので閲覧させてもらっている。水に浮かんでいる姿が神主の木靴のように見えることから「鴛鴦の沓」というらしい。うーん、「鴛鴦の沓」だけで一編の詩だ。