11月8日
オデュッセウスと豚飼、牛飼が館の中に戻って来る。それまで控えていたエウリュマコスが弓を張ろうとするが果たせない。そこで、我々が誰も張れないとは後世の名折れだ、といって嘆く。それに対して求婚者首領格のアンティノオスはこう言う。
Εὐρύμαχ᾽, οὐχ οὕτως ἔσται: νοέεις δὲ καὶ αὐτός.
νῦν μὲν γὰρ κατὰ δῆμον ἑορτὴ τοῖο θεοῖο (21-257,8)
エウリュマコスよ、そのようなことにはならない、お前自身も分かってるだろう
今は国中彼の神の祭なのだから
ἁγνή: τίς δέ κε τόξα τιταίνοιτ᾽; ἀλλὰ ἕκηλοι
κάτθετ᾽ ・・・ (21-259,60)
神聖な(祭なのだから)、誰が弓を引いたりするだろうか、されば安心して
(その弓は)置いといたらいい ・・・
そして明日又やり直そう、と。
「彼の神τοῖο θεοῖο」とはアポローンを指している。「銀弓のアポローンἀργυρότοξος Ἀπόλλων」と呼び習わされているから、弓の神だ。その祭日に弓を引くのは不遜、不敬にあたると言いたいのだろう。当面の恥辱(そして求婚の不首尾)を回避する苦し紛れの口実だ。
斧はホメーロス世界ではどう使われているか。見直してみた。
まず当然木を切るのに使われる。カリュプソーがオデュッセウスを送り出すに当たって、船建造の木切り出しのため手渡したのは斧だった。
δῶκέν οἱ πέλεκυν μέγαν, ἄρμενον ἐν παλάμῃσι, (『オデュッセイアー』5-234)
大きな斧を与えた、掌によく馴染むやつを
次に、牛を屠るのにも使われた。
ἤλασεν ἄγχι στάς: πέλεκυς δ᾽ ἀπέκοψε τένοντας
αὐχενίους, λῦσεν δὲ βοὸς μένος.・・・ (『オデュッセイアー』3-449,50)
近くに立って一撃すると斧は腱を断ち切り
首筋の(腱を)、牛は力萎えた・・・
戦場では武器となった。
ὀξέσι δὴ πελέκεσσι καὶ ἀξίνῃσι μάχοντο (『イーリアス』15-711)
鋭い斧と鶴嘴とで彼らは戦った
比喩にも出てくる。まずパリスの兄ヘクトールに対する言葉にある。
αἰεί τοι κραδίη πέλεκυς ὥς ἐστιν ἀτειρὴς (『イーリアス』3-60)
常にあなたの心は斧の如くに弛むことがない
次の詩行は、オデュッセウスが単眼の巨人の眼球に灼熱の棒を突き刺した様の比喩だ。
ὡς δ᾽ ὅτ᾽ ἀνὴρ χαλκεὺς πέλεκυν μέγαν ἠὲ σκέπαρνον
εἰν ὕδατι ψυχρῷ βάπτῃ μεγάλα ἰάχοντα (『オデュッセイアー』9-391,2)
あたかも鍛冶屋の男が大斧か手斧を
冷たい水に、凄まじい音を立てて、浸ける時の如くに
この二つの比喩は、ホメーロスの数ある比喩の中でいずれもとりわけ印象深い。
こうして見ると、斧はホメーロス世界で大いに活躍していることがよく分かる。