9月28日
オデュッセウスはその燭台の世話をしている侍女達に向かって、「火の世話は自分がやるから、あなたたちはペーネロペイアのもとに戻るがいい」と言う。すると侍女の一人メラントオが生意気に言う。
ξεῖνε τάλαν, σύ γέ τις φρένας ἐκπεπαταγμένος ἐσσί, (18-327)
惨めな流れ者よ、あんたは頭が変になっているんだよ
οὐδ᾽ ἐθέλεις εὕδειν χαλκήϊον ἐς δόμον ἐλθών,
ἠέ που ἐς λέσχην, ἀλλ᾽ ἐνθάδε πόλλ᾽ ἀγορεύεις, (18-328,9)
鍛冶屋の家に行って寝ようとも思わないで
あるいは寄合所なりに(行って)、ここでごたくを並べているんだから
何故いきなり「鍛冶屋」が出てくるのかと思ったら、常に火があって暖を取るに好都合ということらしい。やはり今は朝晩寒いのだ。この場面、季節は九月~十一月であろうと推測している注釈家もいる。また、当時既に浮浪者、乞食のための「寄合所λέσχη」があったというのも驚きだ。どのように運営されていたのだろうか。
ここで顔を見せた生意気な侍女メラントオは、求婚者の一人エウリュマコスと通じていたらしい(18-325)。こういうことがあるから、テーレマコスは、オデュッセウスと求婚者討伐方を相談したとき、女召使い達の吟味を勧めたのだろう(8月27日の項)。
ピュイの刺繍工房見学ののち、刺繍店巡りをする。これが家内の旅行目的の一つだった。ピュイは有数の刺繍の伝統が息づく村なのだ。木製の糸巻きを何十と器用に操り、自在に刺していく。機織りと似た原理なのだろう。糸巻きの木同士のぶつかり合う音がリズミカルで心地よい。木琴を聞くようだ。
寺院裏手の刺繍店店先で老婆が手さばきは鮮やかに刺繍をしている。いくつか手製の小物を求める。絵葉書の刺し子のことを尋ねると老婆のお祖母さんだという。そして老婆の今十一才の孫娘も刺繍を習っているらしい。
既に引いたが、『オデュッセイアー』にこのような詩行もあった。
ἀλλ᾽ εἰς οἶκον ἰοῦσα τὰ σ᾽ αὐτῆς ἔργα κόμιζε,
ἱστόν τ᾽ ἠλακάτην τε, καὶ ἀμφιπόλοισι κέλευε (1-356,7)
さあ部屋に戻ってご自分の仕事に心を用いなさい
機織りや糸巻きなど、そして召使い達に(仕事に励むようにと)申しつけなさい
女性にとって織物、糸巻き、そして刺繍、これらはホメーロスの時代から切っても切れないものだった。
巡礼の道を少しだけ歩いてみる。ほんの一キロほど。全長千五百キロだから千五百分の一だ。全部歩くと二ヶ月くらいかかることになる。
栗の降り敷く巡礼の道西へ 拙作