9月17日


 ペーネロペイアはすぐにも老人の話を聞きたいと豚飼に言う。豚飼はその意向を老人に伝える。老人は夜、求婚者達が去ってからにしたいと応える。豚飼はその老人の返事を伝えにペーネロペイアのもとに再び来る。これら全て豚飼が伝令役をしている。こうしているうちに、求婚者達の夕べの宴会がはじまり第十七歌は閉じられる。

 この間オデュッセウスは求婚者達と共に広間におり、ペーネロペイアは自室にいる。広間とペーネロペイアの部屋との位置関係については、第一歌ペーネロペイア初登場の場で触れられていた。広間での伶人がトロイア戦役からの帰国譚を歌っている時だった。


τοῦ δ᾽ ὑπερωιόθεν φρεσὶ σύνθετο θέσπιν ἀοιδὴν
κούρη
Ἰκαρίοιο, περίφρων Πηνελόπεια: (1-328,9)

彼の霊妙な歌を階上から心に聴いた

イーカリオスの娘、思慮深いペーネロペイアは(聴いた)


そのすぐ後でテーレマコスのペーネロペイアに向けたこんな言葉もあった。


ἀλλ᾽ εἰς οἶκον ἰοῦσα τὰ σ᾽ αὐτῆς ἔργα κόμιζε,
ἱστόν τ᾽ ἠλακάτην τε, καὶ ἀμφιπόλοισι κέλευε (1-356,7)

さあ部屋に戻ってご自分の仕事に心を用いなさい

機織りや糸巻きなど、そして召使い達に(仕事に励むようにと)申しつけなさい


妃ペーネロペイアは通常二階の自分の部屋にいた。しかし、そこからも広間の歌声などは聞こえた。それで昨日のクシャミの状況もよく分かる。ペーネロペイアが豚飼と二階で交わした会話は広間のテーレマコスに聞こえなかったはずだが、テーレマコスのクシャミは「家中に凄まじく響きわたった(17-541,2)」のでペーネロペイアに聞こえたというわけだ。


在原業平の歌は確かに「心あまりて、ことばたらず」で、印象鮮明とはいい難く謎めいたところがある。

月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身ひとつはもとの身にして

起きもせず寝もせで夜をあかしては春の物とてながめくらしつ

君や来し我や行きけむ思ほえず夢かうつつか寝てか覚めてか

こう並べてみると、同一語や反意語の繰り返しが独特の調べを生み、意味の深奥に迫っていくのを聞くことが出来る。そこに揺曳する情趣は「にほひのこれる」の評のとおりだ。そして、

つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日けふとは思はざりしを

業平というひとりの人間がまさしく生きていて、そして死んでいったことを実感させられる。比類ない人麻呂は別格として、業平はまず指を屈したい歌人だ。