9月15日

 「生きとし生けるもの」の初出例は紀貫之『古今和歌集仮名所序』だ。

「花になくうぐひす、水にすむかはづのこゑをきけば、いきとしいけるもの、いづれかうたをよまざりける」

真名序の方はどうなっているかと思って見てみた。下記が対応部分と思われる。

「若夫春鶯之囀花中、秋蝉之吟樹上、雖無曲折、各発歌謡。物皆有之、自然之理也。 

(もしそれ春鶯の花中に囀り、秋蝉の樹上に吟ず、曲折無しといへども、各々歌謡を発す。物皆これあり、自然の理なり)」

蛙が蝉になったり少し変わっている。そしてなにより、「生きとし生けるもの」に当たる語句が漢文にない。貫之の漢文能力の故か、そもそも大和言葉独特のもの故翻訳不能であったのか。確かに「生者皆」でも「全生物」でも「生きとし生けるもの」の情感とは隔たっている。対応するどんな漢語があるのか、漢文の得意な人に訊いてみたい。

昨日の「身を窶した神」を怖れる言葉は、アンティノオスの乱暴な行為を前にして求婚者達が言い交わしたものだ。ということは求婚者達の中でも傲慢さ、横暴さの程度の違いがあったことになる。実際、アンティノオスの乱暴を耳にしたペーネロペイアはこう言っている。


μαῖ᾽, ἐχθροὶ μὲν πάντες, ἐπεὶ κακὰ μηχανόωνται:
Ἀντίνοος δὲ μάλιστα μελαίνῃ κηρὶ ἔοικε. (17-499,500)

ばあや、皆嫌いです、悪事を企んでいるのですから

中でもアンティノオスは黒き死神そっくりです

「黒き死神そっくりμελαίνῃ κηρὶ ἔοικε」とは辛辣だが、どうも実際求婚者の頭領アンティノオスはあくどさにおいても頭領であるようだ。