9月8日

口汚いメランテウスと別れ、いよいよオデュッセウスの館に二人が近付く。


στήτην ἐρχομένω, περὶ δέ σφεας ἤλυθ᾽ ἰωὴ
φόρμιγγος γλαφυρ
ῆς: ἀνὰ γάρ σφισι βάλλετ᾽ ἀείδειν (17-261、2)
(館の近くに)二人が来て立った、すると彼らのところに音(ἰωὴ)がやって来た

中空の竪琴の(音が)、というのも(伶人が)一座のために歌い始めたからだった

ἰωὴは(楽器の)音や叫び声など大きな音だ。この [iôê] という音はオノマトペーだと思う。すぐ十行ほど後に「竪琴の響きがするφόρμιγξ ἠπύει」という詩句があるが、ここの「響きがするἠπύει [êpyuei]」 もオノマトペーから来ているのではないか。弦の響きまで聞こえてきそうだ。

ホメーロスには音や声にまつわる単語が豊富だ。以前、ホメーロスに出てくるそれらの語を気がつくままに書き出してみたことがある。以下、(詩編に出たままの形の)原語、発音、和訳を記す。訳はその場面での意味であるが、もとより参考に過ぎない。

ἄγνυτον    agnyuton (枝を)折る
ἀποβλύζων   apoblyuzôn (赤ん坊が飲み物を)吐き出す

βαμβαίνων bambainôn (膝が)わなわな震える

βέβρυχεν    bebryûkhen (大波が)咆哮する

βόμβησε    bonbêse(兜が地に落ちて)ボーンと音を立てる

κλάζοντε   klazonte(鷲が)叫ぶ

κελαρύζει   kelaryuzei (水が)迸る

λάκε      lake (青銅の武具同士がぶつかって)カラカラ音を立てる

λίγξε     linkse (弓が矢を放って)ビュンと鳴る

μορμύρων   mormyûrôn(流れが泡を立てて)ブクブク鳴る

τετρίγει    tetrîgei (背中の筋肉が)軋む

以上は動詞であるが、名詞にもいろいろある。

ἄραβος      arabos (歯が)ガチガチいう音

δοῦπος     dûpos (城門を壊す)鈍い音

ἠχὴ         êkhê (軍勢から沸き起こる)喚声

καναχὴν    kanakhên (兜が矢に射られる)カーンという音

κόμπος      kompos (イノシシの牙の)軋り音

κτύπος       ktyupos (馬の蹄の)カツカツいう音

ὀρυμαγδὸν   oryumagdon (大波が木も石も巻き込んで出す)轟音

πάταγος     patagos (枝の折れる)バキバキいう音

χρόμαδος    khromados (組み合った闘士の顎から発する)歯噛みの音

 こうして見ると(「見ると」というより「発音してみると」というべきだろうが)、語音が和訳以上に音や声の実相を伝えている気がする。ホメーロスはつくづくオノマトペーの使い手だ。