8月3日
メネラーオスは土産の品を取りに納戸へ降りる。妻ヘレネーと息子メガペンテースと一緒に。そこからメネラーオスは杯を、メガペンテースは混酒器を、ヘレネーは衣裳を持ってくる。ヘレネーはテーレマコスに衣裳を渡しながら、「これはあなたの結婚式で花嫁のために、それまではお母上にお預けし、」と言ってこう続ける。
κείσθω ἐνὶ μεγάρῳ. σὺ δέ μοι χαίρων ἀφίκοιο
οἶκον ἐϋκτίμενον καὶ σὴν ἐς πατρίδα γαῖαν. (15-128,9)
お部屋にしまって置いて下さい。それでは、どうかご機嫌よくお帰りなさいますよう
造り良きお宅に、あなた様の故郷に(お帰りなさいますよう)
χαίρω(>χαίρων)の二人称は、会ったとき、別れるときの挨拶として使われる言葉だ。そこに込められているのは、相手の健康や幸福を祈り嘉する気持ちに違いない。ここでも訳すとなれば「ご機嫌よく」が、少し据わりが悪いが、最も近いのだろう。
そのχαίρωνの前にあるμοιが微妙なニュアンスを含んでいる。人称代名詞一人称与格で、普通「私に」とか「私のために」とかの意味で使われることが多い。しかしここではそれほど直接的関係でない、所謂「関与・関心」の与格だろう。ピエロンは「このμοιはヘレネーのテーレマコスに対する深い思いを示している。即ち『私が心から望んでいる様に』」と註している。上記の「どうか」は松平訳に倣ったものだが、これはうまい訳だと思う。
今年は蝉が少ないかなと思っていたが、そんなことはなかった。今盛りで途切れなしだ。
蝉時雨耳聾すともしじまとも 拙作